モビリティトレーニング ~QOLはQOMから~
アリストテレスは Life is motion という言葉を残しています。生きているということ(生命・生活・人生)は 動いていること。全ての人々にとって 身体を動かすことは その人の生活そのものであり、楽しみであり、喜びであり、自己表現の基本なのであると。
QOM
私たちが幾つ歳を重ねても QOL(Quality of life) = 生活の質 を維持していくためには QOM(Quality of motion) = 動作の質を 低下・後退させないことが重要です。日常の所作・動作は 一つの筋肉の働きだけで起こっている訳ではありません。複数の筋肉が 連動して働くこと によって起こっています。身体の関節も 筋肉・神経のつながりのもと 単関節や複合関節に代償動作や痛みを生じないように動かしています。運動器(骨・筋肉・関節・神経など)はそれぞれ連携(連動連鎖)して働いています。筋肉の柔軟性や関節の可動性を連動させることで動作をコントロールしています。特に身体の関節はそれぞれの役割を持って個別に働きながら 複数の関節を同時に協働させています。その役割は mobility = 動き と stability = 固定・安定 に大きく分けられます。例えば 股関節の動き = mobility は 腰椎・骨盤の固定・安定 = stability に影響を受けます。腰椎・骨盤の固定・安定が不十分であれば 股関節の十分な動きは得られません。腰椎・骨盤の固定・安定が十分であっても 股関節の動きが不十分であれば負担となります。モビリティとして働く関節の「動き」の低下 や スタビリティとして働く関節の「固定・安定」の低下、関節が協働して働く役割の低下 といった身体能力の低下は 身体動作に代償や誤用を生じさせ 動作の質の低下や運動器の痛みに繋がっていきます。
こうした役割に不具合がみられた場合には mobility に対して優先して処置を行います。(mobility first)
身体の筋肉・関節が それぞれの役割を担って個別に働きながら それらの筋肉・関節を同時に協働させられることが機能的な動作であり 動作の質が高いと言えます。特定の筋肉のみを強化したり 特定の関節のみのトレーニングは 機能的ではありません。運動器にみられる痛みが 身体の「部分の問題」から 「全体の問題」に連鎖することは 容易に理解できます。運動・トレーニングを動作として認識することで 動作の代償や誤用に気づき 動作の質に目を向けられるはずです。
特定の筋肉の強化 特定の機能の強化から 視点を動作=身体の使い方に転換しましょう。
モビリティトレーニング
モビリティトレーニングは 「歩く しゃがむ 拾う 持ち上げる 押す 引く 伸ばす など」といった日常生活で繰り返し行われる基礎動作の身体能力の改善・向上を目的としています。競技スポーツ・介護予防であってもこうした日常生活で繰り返し行われる基礎動作の身体能力(動作の質)をお座なりにして パワーや競技スキル バランスなどといった能力を求めてもその伸びしろは大きくありません。
モビリティトレーニングでは 同様効果の他種目を多数行います。エクササイズの一つ一つの動作をマスターしていく過程では 従来のトレーニングと比較すると深部感覚をより要求されます。しかし それは身体の使い方を習得することに繋がります。テクニックを身につける、腑に落ちる感覚です。多数のエクササイズから身体の使い方を身につけ 動作の質を上げていきます。
モビリティトレーニングとは → 身体のモビリティを改善 → 一般的筋力・体力を高める → 安定した動作・使い方を習慣化する → さらなるアクティビティに接する(レクリエーションスポーツ・登山・競技スポーツなど)=QOMの向上
といったイメージです。
モビリティトレーニングの基本的な考え方
① 自体重を利用したトレーニングである。
② mobility と stability を意識して 身体の各機能の分担を使い分ける。
③ 全身運動を行う 身体の各機能を協調・協働させる。
④ 3面(3軸)の動きを考える。 動作は
矢状面(前後の動き)
前額面(左右の動き)
水平面(回旋の動き)
で構成されているので その3面の動きをトレーニングに取りいれる。
⑤ 各身体の役割 身体の重心位置を理解していく。
⑥ 筋の活動性を高める 過剰運動性と過小運動性を整える。
一般的筋力・体力の獲得と捉える。
⑦ 同様効果の他種目を習熟レベルにあわせて行う反復練習である。
多くの種目を経験していくことでテクニックや気づきを獲得していきます。
モビリティトレーニングを実施する前には事前評価を行います。
事前評価
現状の自分の身体のリスクを理解してもらいます。姿勢や動作のチェックを行い 誤用や代償 癖を伝え トレーニングの指針を作ります。評価項目は次の通りです。(順不同)
① 重心線 (前額面・矢状面)
② 足圧
③ 骨盤傾斜
④ 脚長差
⑤ 第一中足趾節関節・足関節・膝関節
⑥ 肩甲骨
⑦ 胸郭拡張差
⑧ 歩幅
事前評価の結果と日常における本人の課題・目標から モビリティトレーニングの内容をカスタマイズしていきます。
モビリティトレーニングの進め方
下記の順番で進めていきます。
① アクティブストレッチ
トレーニング開始前のウォーミングアップです。静的なストレッチでもOKですが 体を動かしながら筋肉を伸ばし これから使われる筋群の活動水準をより高めます。各部位を伸び縮みさせるイメージです。
② コアトレーニング
まず体幹の筋群を鍛え 体幹の安定性を作ります。そうすることで肩甲帯 骨盤帯 脊柱の動き作りをより促すことができます。
③ スキルトレーニング
メイントレーニングで行う種目の基礎動作に必要なモビリティを学習することが目的です。基礎動作を身につけることにより 安全な身体の使い方のもとメイントレーニングを実行できます。
④ メイントレーニング
基礎動作(歩く しゃがむ 拾う 持ち上げる 押す 引く 伸ばすなど)を高めるトレーニングの軸に スクワット・デッドリフト・ランジ・ハンドスタンド・プッシュアップを据えて メイントレーニングを行います。基礎動作を安全・的確に行える一般的筋力・体力を獲得しより高めていきます。動きやすく疲れにくい身体を定着させます。
全体のメニューの中ではトレーニング強度は高くなります。支持基底面・関節可動域・速度等をコントロールして強度に変化をつけます。
⑤ クールダウン
ストレッチを行い 身体の張り・疲労を回復させます。
*すべての過程で トレーニング初期は支持基底面を広く(例 仰臥位・腹臥位・四つ足など)身体重心を低くした動作から始めていきます。身体が安定しバランスをとりやすい肢位からスタートし トレーニング種目の動作の習熟にあわせて それらを変化させレベルアップしていきます。不安定な姿勢状況でも動作が行えるバランス能力もあわせて鍛えていきます。
モビリティトレーニングは 簡単に言えば アクティブストレッチ・コアトレーニング・スキルトレーニングで動作の質を高め メイントレーニングから得られる効果を 従来の方法以上に獲得できる・納得できるトレーニングです。
モビリティトレーニングの種目数・反復回数・休息
アクティブストレッチでは 10 種目前後のエクササイズを行います。反復するものであれば片側4回~6回からスタートします。ポジションキープするものであれば10秒~12秒ほど数えましょう。余裕があればそれを左右交互に2セット~3セット行います。しかし ウォーミングアップなので 回数・セット数を重ねるごとに運動域を広げていくように 広がりを感じられるように 無理をせず 身体の動きと向き合いながら回数・秒数・セット数を設定して下さい。
コア・スキル・メイントレーニングは 合わせて20種目~30種目前後のエクササイズを行います。全体としては 40分~50分のプログラムとして進めます。反復回数は当初は 4回~6回からスタートして 10回~12回で行えることを目標とします。休息時間は 当初は設定せず有酸素トレーニング的に進めます。反復回数の増加に合わせて 休息時間を設定します。運動と休息(休憩)の比率は 1 : 1 から 1 : 3 の範囲で設定して下さい。
トレーニング種目の習熟度・身体機能の改善度・時間的制約等に応じて 種目数の増減 プログラム時間の延長・短縮は問題ありません。モビリティトレーニングの最大の目的は 身体の使い方を機能的にするそのテクニックを身につけることです。(動作の質を上げること) 気づきを上げるために エクササイズに触れる機会・経験する機会が減少しないように 週間・月間単位でのトレーニング頻度を重視して下さい。
まとめ
これから MOB 1 からMOB 10 まで モビリティトレーニングを紹介していきます。たくさんのアクティブストレッチ コアトレーニング スキルトレーニング その他を体験することができるはずです。MOB 1 からMOB 10 までの全 192 種目に同一の種目はありません。豊富な種目数を誇っています。その中で 5種目でも6種目でも 腑に落ちる 納得できる 身体に相性の良い種目を 皆さんが手にすることも目指すところです。見つけられたら日々継続することです。1日10分5種目でも毎日できたら幸せです! 先に触れた種目数・反復回数・休息を実践することよりも大切なことは 自分にとっての効果を知り継続することです。難しく考える必要はありません。MOB 1 からMOB 10の中で あなたにとってよりよいトレーニングに出会う機会だと思って下さい。
また モビリティトレーニングは 運動器に痛みのある方でもトレーニング方法をコントロールすれば 痛みの緩和・治癒を目指すことができます。 運動器の痛みの改善の根本は 基礎動作の改善からです。しかし 状況によってはまずは 痛みの緩和 を優先しなければならない時期もります。見極めが難しいときには 自己判断だけにならないように専門家に相談して下さい。動きやすく疲れにくい身体作り・運動器に対する怪我の予防にきっとこのモビリティトレーニングはお役に立てるはずです。
最後に これから紹介していくプログラム(アクティブストレッチ・コアトレーニング・スキルトレーニング・メイントレーニング)の内容・組み合わせは 皆さんの身体の課題 目標によって多様に変化できます。 ここでは一例として御覧下さい。
*これからの予定
モビリティトレーニングの実践 と題して MOB 1 から MOB 5までは アクティブストレッチ コアトレーニング スキルトレーニング メイントレーニングの順番で紹介していきます。
・MOB 1 スクワットに向けたプログラム (全 29 種目)
・MOB 2 プッシュアップに向けたプログラム (全 34 種目)
・MOB 3 ハンドスタンドに向けたプログラム (全 28 種目)
・MOB 4 ランジに向けたプログラム (全 35 種目)
・MOB 5 デッドリフトに向けたプログラム(全 27 種目)
・MOB 6 クロール(全 7 種目)
・MOB 7 アニマルウォーク(全 7 種目)
・MOB 8 ゲットアップ(全 7 種目)
・MOB 9 ローリング(全7種目)
・MOB 10 歩行ドリル(全11種目)
モビリティトレーニングの実践 MOB1 スクワットに向けたプログラム ~アクティブストレッチ(11種目)~に進みます!