「やっちゃダメ!」と言うよりも「あきまへんで~」と言ってみる
入居者の行動を制止せざるをえない
介護施設は入居者(高齢者)にとっては住まいである。介護施設では食事時間などは決まっているが、基本的には入居者の自由にお過ごしいただける。身の回りのことで自分でできないことや困りごとがあれば、施設スタッフの力を借りることもできる。
一方、その介護スタッフにとって介護施設は職場である。入居者が安全で安心できる生活を送っていただくように支援する。しかし、入居者が安全かつ安心できる生活を送っていただくにあたり、入居者の行動に危険や障害が想定される場合は制止することがある。
例えば、下肢筋力が衰えて立位・歩行が不安定な方が単独で立ったり歩こうとするのは転倒リスクがある。そのため、ときに介護スタッフは「あ~、ダメダメ。一人で歩かないで」と制止して介助に入ることもある。
認知症の症状として見当識障害がある方など、まだ外が明るいのに共用スペースのカーテンを閉めて歩く方がいる。共用スペースなのでカーテンを閉めると他の入居者が困惑することもあるため、介護スタッフが「まだ明るいからカーテン閉めないでね~」と諫めることもある。
介護施設における入居者の行動にともなう危険や障害を挙げるとキリがないが、いずれにせよその行動を制止せざるをえない場面は多々ある。
虐待のように見えてしまうことも
予めお伝えしておくと、性格なのか自分を客観視できないのか、そもそも口調が乱暴な介護スタッフは少なからずいる。このような者に注意をしてもなかなか改善しない。
一方、普段は穏やかで優しい口調の介護スタッフでも、状況や当人のコンディション(多忙による疲労など)によっては口調が荒くなることもある。
前記のような下肢筋力がおぼつかない入居者が独りで立とうとしているときつい「危ない!」と叫んでしまうことくらいはある。これは「怒り」のメカニズムの1つであり、人間の本能かつ仕様である。緊急時に即座に対応するための肉体にするため、一時的に感情を昂らせているのだ。
そこで一時的に声を荒げる場面があっても入居者の身の安全を守ることができたならば、口調は荒くなったとは言え結果オーライであろう。
しかし、このような場面が続くと外部から見れば、いつも入居者を怒鳴ったり行動を制止したりする施設と思われる可能性もある。つまり、「この施設のスタッフは虐待行為をしているのでは」という疑念を持たれるということである。
入居者の身の安全を守るためにやっているのに何だか理不尽な話だが、実際に面会にお見えになったご家族から指摘されることがある。それは入居している方がご家族に「ここのスタッフはいつも怒鳴っている」と言うことから疑念を持たれることもある。
口調が荒くなるほど余裕がなくなる前に
このような話をすると介護されている方々から「確かに口調が荒くなることはあるが、いつも怒鳴っているわけではない」と反論されるかもしれない。
それは確かにそうだ。しかし、目の前で起こる事故リスクや業務の疲労感などから、介護現場では心に余裕がなくなっていくのが現実問題としてある。
心に余裕がない状態とは、脳内における扁桃体が常に活発になって常にイライラしている状態でもある。その結果として常に口調も荒くなってしまうということはある。
このように書いている私だってある。施設運営者として接遇を伝えている立場にありながら、一時的にでも声を荒げたりイライラしてくることはある。
しかし、そうなる前に予防はできる。例えば、可能な限り疲労を溜めないために業務過多にならないスケジュールにしたり、自宅での休息や食事などの健康管理といった根本的な対策もとる。
方言で言い換え、ペルソナづくり
また、言葉遣いを意図的に変えるということもしている。具体的には、自分の地域ではない方言を使って言い換えする。
例えば、「やっちゃダメ!」と言うのを「あきまへんで~」と言ってみたり「今準備してるから、動かないで!」と言うのを「今準備しちょるけん、動かんといて~」みたいに使う。
本場の方からすると使い方が違ったり、方言が混じっていて変になっていると指摘を受けるだろう。しかし、正確さはこの際どうでもいい。ポイントは方言による言い換えをすることで入居者を怒鳴らない人格(ペルソナ)を作ることだ。
介護は高齢者とマンツーマンでやることが多いので、他スタッフの目が気になるならば、直接の対応中に試してみると良いだろう。意外に楽しいし、結果的に直接的にバシっと言うよりやんわりとした印象になる。
別に方言でなくてもいい。漫画やアニメのキャラクターの口調やセリフを言ってみてもよいだろう。私の場合、認知症により乱暴になるときがある入居者に対して「はっはー。元気いいねぇ、何かいいことでもあったのかい?」とか言う。周囲に元ネタを知っている人がいないからできる。
――― どうしても口調が荒くなることは誰だってある。周囲からみたときに無意識で怒り口調でなってしまうこともある。緊急時によっては大声を出してしまうことだってある。それは仕方がない。
しかし、いつも緊急時やトラブルに遭遇するわけではない。平時においては自身を律することはできるはずだ。その対策の1つとして方言による言い換え、およびペルソナづくりをご紹介してみた。
別にこれに限らず、自分なりに面白い接遇を模索して色々と試してみてもよいだろう。有効だと思う試みがあれば是非教えていただきたい。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。