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認知症の方と接するとき、場合によっては「何も考えない」ことも必要

余裕がなくなると相手を制御しようとする


認知症ケアの基本はコミュニケーションである。そのために相手の言葉や振る舞いを見て、相手が何を求めているのかを探ることが重要になる。

認知症の高齢者を相手に「この人は何が言いたいのだろう?」「どうしてこのような行動をするのだろう?」と考えて対応することになる。

しかし、人間はどうしても内面よりも表面を見てしまうもの。

認知症の症状と分かっているとは言え、数分前の会話を忘れてしまったり、言っている言葉そのものが意味不明だったり、落ち着きなく同じ行動を繰り返したりされると、理性的な対応ができなくなってくる。

目の前で起こる出来事に対して疲れてしまって、相手の気持ちや行動原理を考えようなんて思う余裕がなくなってしまう。そのうち、とにかく問題を起こさないようにするための接し方になってしまう。

そうなると「何で覚えていないの!」「もぉ~、何言っているか分からない!」「じっとしてってよ!」といったような、認知症の方を制御する働きかけが中心になってしまう。


他人を制御しようとするほどストレスが溜まる


しかし、これでは根本的な問題は解決されないどころか、このような接し方をするほどに、認知症の症状はどんどん悪化してしまう。
それは認知症でも感情は残っているという話もあるが、そもそも人間は他人からコントロールされることを嫌い、そして反発するという心理があるからだと思う。

また、このような認知症の方を押さえつけようとするほど、そのような関わり方をする介護者自身はメンタルを病んでしまう。

それは認知症とは言え他者を制御しようとするのは、ある意味でネガティブなコミュニケーションであるからだ。他者を制御するということは何となく気持ちよいことのように思えるが、実際のところストレスが溜まる。

他者を制御しようとしたところで、その相手が自分の思ったとおりになることはほとんどない。上司という立場の方がいつもイライラしているのは、部下を自分の思ったとおりにしようと考えているのと同じだ。

そのため、いくら「何で覚えていないの!」「もぉ~、何言っているか分からない!」「じっとしてってよ!」と言ったところで、認知症の方がそれに納得して言動を改善するなんてことはまずない。それは認知症でなくても、自分の言ったことで他人が変わることはないという事実があるからだ。


「何も考えない」関わり方


もちろん、関わり方によって認知症の諸症状としての言動が変わることはある。しかし、そこに到達するためにはかなりな時間がかかるし、前提として認知症ケアに関する知識や技術も磨く必要もある。その間はイライラしっぱなしになれと言うのか?

認知症の方との関わり方において、このような堂々巡りな悩みを抱える介護者は少なくない。実際、私も介護現場にいるとイライラする(まぁ介護現場でなくてもイライラするが)。しかし、それを感情として表に出したり、認知症の高齢者にぶつけることはしない。

それは自分が介護のプロだからということもあるが、関わり方が分からない認知症の高齢者に対しては「何も考えない」ように接しているからだ。これは特に疲労困憊のときにやっている。

疲労困憊のときに「この方は何を言いたいのだろう?」「なぜこのような行動をするのだろう?」なんて考えることはできない。体も脳も疲れているときに思考したところで良い考察はできない。

だからこそ、場合によっては「何も考えない」モードになって認知症の方と接するのだ。まずは自分の心身を優先するようにしている。


こちらが何も考えてなくとも、意外に相手は満足する


何だかそれは認知症の方に対して失礼な態度と思われるかもしれないが、無理に頑張ってコミュニケーションをとったところで、結局はイライラしてくることは予測できる。そして罵倒や非難するような言葉を吐くくらいならば、多少失礼であっても脳をスリープ状態にしたほうが良い。

具体的には、例えば相手の話を無理に理解しようとせず「へぇ~」「そうなんだ」と心ここにあらずな感じであいずちを打つこともある。

また、ただ一緒にテレビを観て「すごいですなぁ」と適当に話しかけることもあるし、失語傾向でスキンシップが好きな相手には手を握るだけということもある。

こちらが「何も考えない」コミュニケーションでも、割と相手は満足しているように見える。それは相手がニコニコしている様子から勝手にそう思っている。

おそらくだが、こちらが思っているより、相手はそこまでちゃんとした関わりを求めていないのかもしれない。「ただ話を聞いてくれる」「自分という存在を見てくれる」というだけで人間は満足できるのかもしれない。


――― コミュニケーションには余裕が必要だ。そのためには疲労状態では良いパフォーマンスを発揮できない。他者と関わるということも意外に体力勝負なのだ。

しかし、疲れていても他人と関わらなければいけない。介護の仕事であれば認知症の方と関わることは必須である。そこでたまには「何も考えない」というコミュニケーションもあっても良いと思うのだ。

大切なことは、ちゃんとしたコミュニケーションを自分が行うということでなく、認知症であるその相手が心穏やかになることである。何も考えずとも、相手の話にただ頷く、(心なくとも)あいずちを打つ、手を握る・・・これだけでも満足してくれるのだ。

介護をする立場だって人間だ。まずは自分に余裕をもつこと、そのためには体力を維持すること、どうしても駄目ならば場合によっては「何も考えない」ということもアリだということを覚えておいていただければ幸いだ。



ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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