10月27日に、出だしの一文を与えて小説を生成してもらう実験をしました。この時、ChatGPTが作る文章は硬くて表現の綾が乏しいと感じました。
では、もし、「特定の大作家のスタイルで生成して」と指定したら、文体が変わるか?ーーというのが、今回の実験のテーマです。
前回はこちら:
著作権が切れてパブリック・ドメイン扱いとなった日本の作家で試します。ChatGPTは日本の作家はあまり読み込んでいないかもしれず、そこが不安ですが、ともかくやってみます。
日本の作家でパブリック・ドメインに分類される人たちの作品はネット上の「青空文庫」に所収されているので、こちらから文例を拾ってきてChatGPTが生成する文章と比較します。
1.夏目漱石
1-1. 期待するイメージ
ChatGPT に期待するのは、『門』の冒頭のイメージです。
1-2. ChatGPTへの指示
ChatGPTの無料版で、Chat4o に次のように指示します。
1-3. ChatGPTが生成した小説
1-4. 実験の評価
実験の目的に照らすと、ChatGPTは失格です。文体は、ほぼ前回のママで漱石の文体には、まるで似ていないですね
「しかし、しかし!」……です。ChatGPTは、『門』の内容は、よく知っていると思います。次のA・B・Cを読み比べてみてください。
A:ChatGPT版
B.漱石原文(第二章から)①
C.漱石原文(第二章から)②
B・Cで漱石が巧みに表現した勤め人の鬱屈にかなり近いものが、ChatGPTが生成したAに現れています。
これは、単なる偶然とは思えません。ChatGPTは『門』を読んでいて、私が指示した一文が『門』の第一章冒頭であると認識し、それに続く第二章の内容でChatGPTが覚えているものを続けてきたのだと考えます。
これは凄いことだと思います。
2.森鴎外
2-1. 期待するイメージ
森鴎外は、「百物語」のイメージでいきます。こんな感じです。
2-1. ChatGPTへの指示
ChatGPTの無料版で、Chat4o に次のように指示します。
2-3. ChatGPT が生成した小説
2-4. 実験の評価
実験の目的に照らして、どうなのでしょう? 文体は漱石のときよりは似ている気がしますが、「おっ、似てる!」と唸らされるほどのことはないと思います。
では、『門』の場合のように内容を知っていそうに見えるかというと、そうでもありません。ただ、そうなったのは、私の指示がまずかったような気もします。
「指示を誤ったかな?」と思ったのは、生成された文章と鴎外の原文を丁寧に比べていたときです。
『百物語』の真の主題は「傍観者」でした。鴎外が自らを傍観者と自覚し、同じ傍観者の姿を百物語の主催者に見出すというのがこの小説の眼目です。
それなのに、私は、この作品に対する浅い理解に立って、「科学的で合理的な医師の田中氏は」という指示を与えてしまいました。私のこの指示に基づいて、ChatGPTは、「科学vs迷信」という《ストーリー骨子》をつくり、それに沿って小説を紡ぎ出したように見えるのです。
もしかしたら、ChatGPTは、それが持っている知識よりも利用者が与える指示の方を優先しながら、文章を生成するように設計されているのかもしれません。これを確かめるには、もっと実験を重ねる必要がありそうです。
3.今回の実験から得られた仮説
わずか2人の作家を対象とした極めて限られた実験なので、そこから引き出せるものは、確定した結論ではなく、今後の実験に使える仮説であるとお考えます。その意味で、次の2つの仮説を得ることができました。
3-1.ChatGPTは日本の大作家の作品内容をよく知っている。
少なくとも、漱石の『門』に「勤め人の鬱屈した真理」が描かれていることをChatGPTは知っていたと思います。
ただ、日本語で読んだのではなく、英語への翻訳で読んだのではないでしょうか? そう考えると、文体が似てこないのは当然な気がします。
3-2. ChatGPTは、利用者の指示で《ストーリー骨子》を決める。
ChatGPTが大家の小説の内容を知っているとみなす根拠があるけれども、実際に小説を生成するときには、その内容よりも、生成を命じる人間の指示の仕方で《ストーリー骨子》を決めているように見受けられます。
この2つの仮説については、また回を改めて、検証実験のようなものを行ってみたいと思います。今回は、ここまでとします。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。