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2021年8月に読んだ本
2021年8月に読んだ本
1 太宰治『晩年』
太宰、本当に有名どころしか読んだことないので、まず第一作品集から読んでいこうと。吉祥寺・古書防波堤で購入。
読めば読むほどわかる太宰。ただ続けて読むと飲みこまれそうなので、月1冊くらいのペースで読んでいきたい。
2 山田亮太『誕生祭』
明大前・七月堂で購入。
私の生と生殖を操ろうとするすべての人々よ。資源を節約しわれわれの種の可能な限りの引き延ばしを訴える人々よ。捏造された伝統へと回帰し新たな規範を打ち立てようと企てる人々よ。自然の摂理に従いゆっくりとした衰退と滅びの道を選ぶ人々よ。私はきっとあなたたちのどの陣営にも与しない。遠くから救急車のサイレンが近づいてくる。その音を聞いて目を覚ます。ピーポーだ。窓に近寄ると、点滅する赤い光が見えた。生まれてきてくれてどうもありがとう。きみたちは私たちよりももっと好きなように、でたらめに生きていい。
最後の詩の最終行「誰にも望まれずに生まれてしまったものもあるしあってよいのだと私はきみに言おうとするだろう」がこの詩集で一番言いたかったことなのではないかと思った。詩というのは基本的には商業出版ではないし、不要不急であり、作者以外の誰かに強く望まれそれに応える形で生まれるものではない。ただそういうものもあるし、あってよいと体を張って言うことは、詩にできる数少ないことの一つであろう。
3 藤井晴美『今、ミズスマシが影を襲う』
詩の極北に位置する藤井晴美。これだけ持ってなかったので七月堂で購入。
今、七月堂のフェアで「ヤバイ本」フェアというのをやっているのだが、藤井晴美の詩集は群を抜いてヤバイ。たぶん思潮社では出せない。
4 東浩紀『動物化するポストモダン』
有名な新書なのに読んだことなかったので、新宿のブックオフで購入。
いろいろなところで聞いたことのある話で、新しく知ることはなかったが、それくらいこの本が一般に膾炙したということだろう。
5 山口尚『日本哲学の最前線』
SNSでちょっと気になっていたのだが新刊書店で買うほどではないかなと思っていたところ、古書防波堤にあったので購入。
苫野一徳の『愛』が気になったので今度読んでみようと思った。
6 佐川恭一『舞踏会』
古書防波堤で購入。
前作の『ダムヤーク』で佐川恭一を初めて読み正直あまりハマらなかったのだが、今作はハマった。特に冒頭の『愛の様式』が面白かった。それを言っちゃあ根も葉もないじゃない、ということをがしがし書きつけていくのがよい。
7 澤田智洋『マイノリティデザイン』
神楽坂のかもめブックスで購入。
気になったので買ってみたが正直全然面白いと思えなかった。何ていうか人間性が違い過ぎるんだと思う。マイノリティポリティクスとかそういうテンションで読むと明らかに違う。
まずそもそもコピーライターという肩書で本を書く人の文体が気持ち悪すぎて受け付けないのだということもわかった。しかもこの人電通なのね。本にはどこにも書いてないけど。全然コピーライターとか広告の仕事を好きになれなくてしんどい。
8 空木春宵『感応グラン=ギニョル』
Twitterで見かけて気になったので西荻窪・今野書店で購入。
舞台に立つことに、千草は初めて悦びを覚えた。と云ってそれは、客席から上がる喝采にではない。カーテンコールで飛び交う讃嘆の声にでもない。己の瑕が真実の意味で、”見られる”ことに対してである。そうして、同じ痛みを味わわせてやれることに、彼女は愉悦を覚えたのだ。
見たくば、観ろ。とくと視ろ。ただし、傍観者でなどいさせはしない。高みから見下ろすことなど許しはしない。その身をもって、とくと知れ。この痛みを。この苦しみを。
わたし達を、憐れむな。
普段読まないタイプの小説であるが、テーマが「痛み」であることに魅かれて読んだ。かなり痛い、グロい表現もあるので無理な人は無理かも。物語の世界観や設定も普段読むものとは違って面白かった。劣等感を抱える主人公の女の子は美しく強いある女性に憧れるが、その女性も主人公が思うほど強いわけではなかった、という話が多い。どの話も最後は主人公の女の子が”勝つ”のだが、その”勝ち方”がいい。現実を大きく変えるというよりは、己の弱さやマイノリティ性を外から押しつけられたもののとしてではなく、自分で引き受け直すことによって”勝つ”のである。
9 ミシェル・ウェルベック『素粒子』
ウェルベック、読んだことなかったのだよね。吉祥寺・古書百年で購入。
予想していた通りの感じだった。人間って結局みんな孤独だし、愛なんて幻想、とりあえずセックスでもしてるしかない、みたいな話。「それでも…」みたいな暑苦しくて鬱陶しい逆説とかない。私たちはこういう怠惰な絶望、慢性的なペシミズム的世界観が感覚的にめちゃめちゃわかってしまう世代。
10 諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』
人生をミスったウィトゲンシュタイン愛好家のヨーロッパ紀行エッセイ。今野書店で見かけて購入。Twitterも知ってはいた。
まず、文体が死ぬほど読みづらい。こんなに読みづらい童貞丸出しの文章、少なくとも本では初めて読んだ。否定表現が多すぎる。でどっちなんだよ!!最初からはっきり肯定文で言えよ!!と思う。大学卒業後30歳まで小説を書くために引きこもり親の脛を齧り倒し、さらに親のカードを使いつつ旅行している作者の身の上にもイライラする。
などとディスりまくったが、何だかんだと面白かった。ちょいちょい出てくるウィトゲンシュタインの蘊蓄が面白いし。やっぱりウィトゲンシュタインは研究者のほかにこういう愛好家がつくのも納得の面白人間なんだな。あとシンプルに旅行に飢えていることもあって、異国の話はよかった。自殺する前に旅、したいよね。
店を出る直前、地下のトイレに行ったら、出てきた若者がドアを押さえてくれた。サンキューと言ったら、ユア・ウェルカムと言われた。こういうこと一つ二つで、人は自殺せずにすむのかもしれない。
11 島口大樹『島がぼくらは祈り、』
新宿の紀伊國屋で平積みになっていたので気になり購入。
家庭に問題のある男子高校生4人の友情の話。文法が破綻している文章が好きなのだ。文法の破綻は言語を超え出る叫びだから。一人称「ぼく」は語り手が変わっても「ぼく」のまま、視点が移動していく書き方も珍しくて面白い。早く次作が読みたい。面白かった。
12 吉本ばなな『白川夜船』
眠りがテーマになった短編集。荻窪・Titleで購入。
表題作、めちゃめちゃ好きだった。よすぎる。無駄がない。素っ気ないほどシンプルなのに深い。
主人公の眠り、恋人の妻が植物状態であるという眠り、添い寝を仕事にする親友の眠りとその親友の死という眠り。眠りというテーマが主人公だけでなく主人公の周りの人間関係にも通底している。眠りに囚われていないのは恋人だけなのだ。この設定だけでもすごくよくできた小説。でも実際にこんな生活やこんな関係を続けていたらギャーッと発狂してしまうことを私は知っている。静かに溺れていくような負のスパイラルを単発のバイトごときで断ち切れるはずがないのだ。一時よくなったように思えてもまたすぐ悪くなる。物語として美しすぎる分、こんなことできないのだという現実がつらい。プラトニックすぎるというか、純粋すぎるというか、人間そんなに高潔には生きられないのだ。私はそのことが年単位でくるしいし未だに認められない。直近の羊文学のEPで「白川夜船」という曲が再録されているのでそれを聴きながら読むとなおよし。
13 よしもとばなな『デッドエンドの思い出』
タイトルがよい。デッドエンドという単語が好きなのだ。荻窪・Titleで購入。
育ちがよいからゆえ、家族が好きだからゆえのしんどさみたいなものを抱えている人にはよい短編集かも。幸運を恥じることはない、後ろめたさや責任を感じる必要もない。幸運は武器にしなくちゃね。
14 鳥飼茜『サターンリターン1~5』
1巻だけ読んで、2巻3巻を長らく積んでいた。3巻まで読んで4、5巻も買ってきた。
面白い。主人公の女が面白いんだと思う。
15 鳥飼茜『前略、前身の君』
特に感想はない。鳥飼茜は長い方が良さ出る気はする。