黒田夜雨

詩人。『もう死ねない朝が来る』(七月堂、2018年)、『光の吐瀉物、祈りに春を』(七月堂、2023年)

黒田夜雨

詩人。『もう死ねない朝が来る』(七月堂、2018年)、『光の吐瀉物、祈りに春を』(七月堂、2023年)

マガジン

  • 読書月報

    親の仇のように本を読む。その記録、報告書。実際敵討ちなのである。高校時代鬱で読めやんかった分を取り返すように。一冊の本は自殺の遅延である。

  • 秀作集

    割りかしよく書けている、読んでほしいnoteです。

  • 中尊寺のほおずき、金剛三昧院の梨のコンポート

    世の中には美味しいものについて書かれた食エッセイがたくさんある。不味いものより美味しいものを食べたいのと同じように、不味いものを不味そうに書いたエッセイより、美味しいものを美味しそうに書いたエッセイを読みたい。それはそうだろう。しかしここでは不味いものを不味そうに書いていく。これは食べ物の悪口エッセイだ。

最近の記事

我々は自己実現のために働くのか

最近、平日は特に疲れすぎていて、それはつまり主に仕事のせいなのだが、問題は仕事量や長時間労働ではなく、論理も倫理もない広告業界の連中であり、ただただ胸糞が悪いだけなので詳細は割愛するが、そういったことで心労が重なり、怒りで血液が逆流、床に就いてもかっかかっかと内燃機関は憤りに燃え深夜に心臓の鐘を必要以上に鳴らしまくる、そのような始末であったので、本屋で徐に手にした『一個人』、年配の方向けの実用誌であるが、その11月号、「47都道府県 至福の温泉」を開き、一枚、二枚、捲ると目に

    • 卑屈で気高い魂の在処

      追悼文には名文が多い。これは追悼というものの性質上致し方ないことだと思う。 ミッツ・マングローブのピーコへの追悼文は確かによかった。 "否定された先にある屈折した人格が作り出す不健全な文化の趣" もうすでにかなり失われつつある文化だと私も思う。数年前に観たトランスジェンダーの人が主人公の映画では、ただ生まれる性を間違えただけで、他は本当に普通の人と同じで、普通に暮らしたいだけなのに、普通に結婚して普通に子供が欲しいと言っているだけなのに、生まれる性を間違えただけでそれだけ

      • アメリカと名古屋

        人生で一度も名古屋に行ったことがない。通り過ぎたことしかない。通り過ぎたことならおそらく100回近くあると思う。一度くらい降り立ってみてもいいかなと思うのだが、思うだけで、行動に起こす気にはなれない。全然気が乗らない。行く理由が特にない。 私はアメリカにも一度も行ったことがない。一度くらい行ってみたい気もするが、6桁のお金を使ってまで行きたいかと言われると全くである。私はアメリカに好きな作家がたくさんいる。翻訳されている作品数が最も多いこともあるだろうが、翻訳作品は国別で言

        • 新之助

          新之助っていう新潟の米が美味い。明らかに今まで食べていた米より美味い。 今年は米が高い。昨年の記録的猛暑による収穫量減少と品質低下、農協の買取価格の上昇、減反政策などなど、色々あるようである。そんなこんなで高いのも安いのも以前より値段がそう変わらないように感じたので買ってみた。5kg3475円。 第一詩集に「米はいつも淡白に 私を励ましてくれました」と書いたが、本当にそう。米はいつも淡白に、私を励ましてくれる。 表面は歯応えを残しつつ、中はふっくらと柔らかい。噛んでいる

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        • 読書月報
          38本
        • 秀作集
          8本
        • 中尊寺のほおずき、金剛三昧院の梨のコンポート
          4本

        記事

          Phuket style

          心ない愛してる それでも欲しがる人たち 節操なく草の匂いがして 話が通じない 水まで甘い 微笑みを啜り 鼻から吐き出す 半裸で通りを 彷徨つく魚 炎天下 放り出され これでもかってくらい蝿が 集っている ここ、プーケットでは ビーチに沿ってプールが並び 目の前に海があるのに プールに浸かる

          音姫のせせらぎ三重奏

          音姫のせせらぎ三重奏 溺れてるみたい 電車の走行音に負けない走り もう帰りたくて 菊名で押してしまった非常ボタン 駅員3人がホームの端っこまで駆けてくるのを 4分割の画面で眺められて こりゃおもしろい 日吉駅前 午前8時52分の陽光はあまりに鋭く 私の弱い網膜を焼き尽くした ぎんいろのたまたまの前で声を張り上げる長髪眼鏡の男 数年後一緒に働くことになるとは 最寄駅でのナンパがいっちゃん怖い 書道家だったのに気づいたらAV女優になってて 彼女 今は一体何をしてるんだろう 流

          音姫のせせらぎ三重奏

          定性調査

          山手通りの幅広の歩道は今にも大縄が始まりそうで怖い 新宿のシェイクシャックで古典的なマルチ商法を履修する 経験は高い 私は落ちこぼれ それでもエリートなのだと悪い意味で思い知らされる 帰り道、自動改札機の前でフリーズするパフォーマンス集団に遭遇 一体何が面白いのだろう 警察に連行される様子を自慢げにストーリーに上げているのを後で見た 共感性羞恥で膣が緩い 話は変わるけど ウォシュレットが止まらなくなったらどうしようって 思ったことない? ウィーンって伸びてくるあれ 女湯に入っ

          健康にいい、赤字のハーブティー

          花野を掻き毟り わたしは…と口にするが そのあとが続かない ブランコ席で揺られながら このメルヘンな空間で 誰かが本当に出禁になるのを見てみたい 店の女の子たちがナポリタンを作りながら 店主の悪口を言う 普通に言う 「もう歳なんだから引退してゆっくりしたらいいのに」 庭を駆け回る 舌ったらずなflies are annoying 砂漠を150km/hで爆走するバンのなかで アンナ・カレーニナを飲む女 爪に詰まる肉 赤い川がどくどくと脈打ち 苺ジャム…と呟く あと一歩と

          健康にいい、赤字のハーブティー

          食料品の物価についての覚書

          シャインマスカットが値崩れを起こしている。昨年から感じていたが、今年は一房500円を切るものも珍しくない。一方、卵、牛乳は高くなったきり戻らない。何ならじわじわさらに値上がりしている。ついにOKストアの卵さえ200円を超えてしまった。それでもほとんどのところより安い。ジャスコの火曜市でお一人様一パック限定98円の卵を持たされていた頃が遠い昔のように感じられる。いや、火曜市じゃなくてただの特売日かも。オレンジジュースも値上がりが著しい。数年前から若干リンゴジュースよりは高い印象

          食料品の物価についての覚書

          ひるがお

          辺境ノンフィクション作家の高野秀行や鉄道系YouTuberの西園寺などを見ていると、気力・体力、そしてそれに基く行動力があり、とにかく楽観的で、向こう見ずなぐらいであり、けれど決してバカやアホの類いではなく、茶目っ気のようなものがあり、人によく好かれる、地元の人や業界関係者に対して敬意を忘れず、訪れた地の言葉や歴史を勉強する真面目さも持つ、こういうタイプの人間の美徳、その比類なさというものをひしひし感じる。私の人生にはつい最近まで出てこなかったタイプの登場人物である(もちろん

          睡眠系のサプリのコピーで、「夜、ぐっすり眠れない…」みたいなことを書きまくっていると眠れなくなるし、便秘薬のコピーで、「最近なんだか溜まりがち」とか何とか書くとこれまた便秘になる。言葉というのはそういうものなのだ。因果な商売である。書いたことが現実になる、そんなことはよくあることで、当然のことで、そんなことに今更驚けと言われても困る。こちらからしたらそんなことも知らずに書いてきたのかって話なんだが。経験的に何となく分かる、何で分かったのかと聞かれても道理では説明がつかないがそ

          私以外の誰にも必要とされていない言葉を書き続けること

          ここ数年頓に思うのは、やはりちゃんと正当な努力をしなければならないということ。正攻法で勝てるタイプじゃなくても、いや、じゃないなら一層、正攻法で勝てるタイプのうん十倍も努力しなきゃいけないんだなと思う。結局キャリアを積んでいくと基礎力というか実力の差が出てくる。一流の人間はみんなどこかでこういうタイプの鍛錬をしていると思う。例外もいるかもしれないが、そんな言い訳をしているからいつまで経っても駄目なのだ。 村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』の名言の一つに「自分が最も欲しいも

          私以外の誰にも必要とされていない言葉を書き続けること

          悪意の塊

          最高の恋愛は30前に、そのトラウマのあと金なし仕事なし家庭なしの三十路男は一回り歳下の女を食い漁り、40で尽きる。これが高円寺スタイルだとしたら、渋谷スタイルは金も仕事も家庭もある。けど無力感はそう変わらない。うん、でしょうね、わざわざ聞かなくても分かる。金の使い方を知っているということ、それが実家が太いということなのかもしれない。つまりベンチャー成金は金の使い方を知らない。この違いはなかなか手痛いなと思った。残酷といえば残酷だな。中年になってからジムに通い出し、衰えてきた男

          白物家電は抱けない

          「どした?話聞こうか?」じゃないが女の悩みを積極的に聞こうとする男は大抵性欲。弱っているところをつけこもうとしてくる奴もまた弱っている。てめえもさっさと人生を台無しにしちまえばいいのだ。扇風機程度の知能しかないくせに、何がマイナスイオンだ。冷蔵庫みたいな男に感情を抱けと言われても困る。空っぽのくせに図体だけデカい。どちらにしろ白物家電は抱けない。生理的に受け付けない。「近づいたら動き出すエスカレーターみたいな人って苦手なの」と書いたのは乗代雄介、十七、八より。私の穴が目的なの

          白物家電は抱けない

          2023年12月に読んだ本

          もはやここまで溜めてしまうともう訳が分からん。 1 永井みみ『ジョニ黒』★★★★☆ 井戸川射子と同種の筆力を感じる。ストーリーというストーリーはない小説を書けるのは羨ましい。次作も楽しみ。 2 岩浪れんじ『コーポ・ア・コーポ⑥』★★★★★ 6巻で完結らしい。最後のページにさらっと書いてあるこの漫画のモデルにもなっているという著者の話がえげつない。映画化までしてよかったね。面白い漫画でした。 3 小池正博編『はじめまして現代川柳』★★★★☆ 短歌の「私」に疲れた。詩

          2023年12月に読んだ本

          内省の天才

          たまにふっと、自分はすごい、よくやっている、信じられないくらい、これ以上ないくらいよくやっている、ということに気づき、感動する。こうやって今普通にここにいられていることがすごい、すごいとしか言いようがない。私は私のまんまこんなところまで来れたのだ。本当にすごいことだ。これが本当にすごいことであるのを私は知っている。みんな生きているだけで偉いと私は思わないが、私は生きているだけで偉い。私が生きているだけで偉いことを私は知っている。少なくとも私だけは知っているのだ。こんなに心強い

          内省の天才