【小説感想】SFを3作しか読んだことのないSF初心者の考察
ネタバレします。
SFの面白さは、読者が騙されることだと思います。読んでて、絶対現実に起こりえないような設定とか展開があるけれど、何故か実際に起きているように思えてしまう。
つまり、SFを楽しむという事は、自分が騙される過程を楽しむことだと思います。
私は今年、SF小説にハマって、それ以前は映画でしか見なかったです。視聴済は『マトリックス』、『宇宙戦争』、『アイロボット』などです。
この記事では、映画ではなく、3つの小説について書きます。こんなSF初心者の感想で良ければ見てやってください。
所要時間 8分半
1『夏への扉』
『夏への扉』福島正実訳 早川書房
これは分析ってよりは、感想をダラダラ書くだけです。読み飛ばしてもらって結構です。
世界観重視 7
内面描写重視 6
メッセージ性 5
考察要素 7 合計 25
・言葉の変化
主人公が未来に飛んだ時に、言葉が変化してましたね。語彙が増えたり、言い回しが変わったり。これも読者を騙す(実際にあり得ると錯覚させる)ための細かい設定ですねぇ。
どうしても今と同じ視点で見ていたので、言葉が変化するのは盲点でした。他のタイムスリップ系作品は、ちゃんと時間意識をもって見たいです。
・伏線回収
終盤の伏線回収の勢いが凄かった。こういう伏線が多い作品は、自分で仮説を立てながら読むと楽しいですね!
印象に残っているのが二つあって、一つ目は、レナード・ヴィンチェントが過去に行って、レオナルド・ダ・ヴィンチに名前が変わるところ。
二つ目は、ダン(主人公)が未来に行った時に、謎の技術者がダンしか知らない設計図をもとに機械を作っていて、後にその技術者がダン自身であると判明するところ。
つまり、主人公は自由意志で動いているつもりが、知らず知らずのうちに(未来または過去の)主人公の影響を受けている。
これは、クリストファー・ノーラン監督作品でよく起こりますね。『インターステラー』では、部屋で起こる不可解な現象の正体が、四次元超立方体にいる主人公でした。
『インターステラー』 © 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures.
その部屋で、座標を教えてもらわなければ主人公は宇宙に行かないので、主人公は無意識のうちに影響されてますね。
後、最近あった『テネット』。主人公は表には出てこない人物の方針に従って行動するが、実はその人物は未来の主人公自身でした~。
ちなみに『テネット』は良く分からなかったので、話振られると固まります…
・説得
終盤、ダンがリッキィを説得する場面が良かったです。リッキィはまだ子供なので、しっかり説明しないと理解できない。ここが辛いんですよねぇ。
つまり、辛いことをいちいち言語化しないといけない。その過程を見ていて読者は泣きたくなるんです。
そういえば、『インターステラー』も同じ構図でしたね。つまり、主人公が娘を説得する場面。
ちなみに『インターステラー』で親子の愛を見る度に泣くのは私だけでしょうか?(笑)
2『星を継ぐもの』
『星を継ぐもの』創元SF文庫 ジェイムズ・P・ホーガン (著)
一言で表すなら、壮大な虚構でしょうか。是非読んで、騙されてください(笑)
世界観重視 7
内面描写重視 3
メッセージ性 4
考察要素 9 合計 23
・考察
この小説には、バトルもなければ、人間ドラマもなく、ギャグもないです。ひたすら科学者たちが議論してます。でもそれが面白い!
とある謎に対して科学者たちが考察するが、一つ謎が解決する度により多くの謎が出てくる…分かりやすく言うと『進撃の巨人』のスゲー版です。
で、謎を解くうちに仮説ができるのですが、それが受け入れがたい。
この展開を見て、思ったことが次の項目です。
・飛躍
論理は飛躍するです!つまり、常識/良心に反するが客観的に分析するとそう結論付けるしか無い、ということ。
この作品では、多くの根拠から信じられない仮説を導き出します!
つまり、なぜ四万年前に急に地球の一日の時間が伸び、ネアンデルタール人が絶滅したのか? なぜ月の裏面だけ隆起していて、岩石層が新しいのか?なぜホモ・サピエンスとそれ以前の類人猿の中間に当たる種族がいないのか? これら全てを説明できる仮説はッ!…まぁ皆まで言うまい。
とにかく本当に納得させられるので、読んでみてください!
・人類賛美
この作品には人間賛美の要素もあると思います。
つまり、ルナリアンの生き残りである人類は地球に来て、その最後まで諦めない強靭な精神力で以て厳しい自然環境を生き延びた。そしてこれをプロローグとエピローグが上手く引き立ててますよねぇ。
3『幼年期の終わり』
『幼年期の終わり』早川書房 アーサー・C・クラーク(著)
世界観重視 8
内面描写重視 5
メッセージ性 7
考察要素 8 合計 28
最後はこの名作で締めようと思います。
・圧倒的無力感
この作品には敵がいないです。作品の序盤で、上帝(オーバーロード)が人間を支配するが、その支配は圧政ではなく、逆に人の暮らしを豊かにするものでした。
私はもうここら辺でモヤモヤしてました。なぜなら上帝が敵で、そいつを倒してスッキリする分かり易い展開を期待していたからです。この後もスッキリしない展開が続きます。
上帝はあらゆる面で人より優れているので、人間は科学を発展させる必要がなくなります。だって上帝が知っている事を教えてもらった方が効率的だから。
物語の終盤では、人間が進化して超人類になります。
超人類は、人類が今までの生物的な進化とは違う霊的な進化を遂げた結果です。普通の進化は数千年単位で起こるが、霊的な場合は数時間で進化できるらしいです。
そして、人類と超人類は意思の疎通ができない。
超人類はずっとテレパシー使って遊んでて、最後はそのテレパシー能力を用いて地球を粉々にします。こうして人類は滅亡します...
最初も言いましたが、この作品には敵がいません。だって、上帝は味方だし、超人類は自然の摂理で進化した結果なので、どうしようもないです。つまり、倒すべき敵がいないまま人類は自滅するのです。
・科学的説明
この作品が、上記の二つの作品と違う点は説明の量です。
上記の作品はここぞとばかりに、知識を自慢するかのように沢山の科学的説明を書いていますが、この作品にはそれがほとんど無い。説明を省くのが上手いですよね。
そしてもう一つ違う点は、この作品はSF+哲学だと言うこと。
つまり、科学技術の本質の追求だったり、広大な宇宙における人の存在理由は何かという哲学を扱っています。
ですから、確かにSF小説ですけれども、SFのジャンルには収まりきらない傑作だと思います。
・倒錯関係
注目したいのは、人間と上帝の倒錯関係です。
上帝は能力は人を凌駕しているが、行き止まりです。つまりこれ以上進化出来ないのです。一方人間は被支配者ですが、まだ(霊的に)進化出来ます。
つまり、人間は上帝を畏怖し、彼らに服従していて、上帝は更なる潜在能力を秘めた人間を羨んでいるのです。
このあべこべの関係性が作品により深みを与えていると思いました。
そして、最後は自身の進化の限界と上霊には敵わないという事が分かっていても、それでも諦めないカレルレン達(上帝)を応援したくなりました。
こういう上帝の姿勢をレジグナチオン(諦念)と呼ぶんでしょうね。
・構成要素・・・この作品を主な要素に分けるなら、一流の科学知識と詩的表現、哲学的問いの三つに分けられると思います。
4まとめ
いつも通り要素を分析して終わります。
『夏への扉』
・見せかけの自由意志・・・無意識に他者、もしくは自分自身から影響
を受けている。
・言語化の罠・・・辛いことを言語化しなくてはならない。
『星を継ぐもの』
・論理飛行・・・論理は飛躍する。
・人類讃歌
『幼年期の終わり』
・宇宙広大的無力感・・・敵がいなかったり、自然の摂理の結果だった
りでどう行動しても八方塞がりな状態。
・倒錯関係・・・能力の優劣と気持ちの方向があべこべ
・種族的記憶・・・集合無意識に似ている。時間の制約を受けないの
で、未来の感覚も入ってくる。
(例)上帝の姿が西洋の悪魔に似ている:上帝が人類に終末をもたらすので、未来で人類が感じた嫌悪感が、何世紀も前の人類に送られて、悪魔=忌避すべきものという感覚を獲得する。
今度SFを取り上げる際は、『ピュア』(SFか?)と『三体』について書きたいです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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