【ゲーム感想】Fate/Grand Orderの本質(2部5.5章まで)
奈須きのこは凄い作家だよなぁ。あれだけ感性に訴えかけるセリフが書けて、複雑だがしっかりした、考察要素もある世界観を作れて、おふざけの時はギャグも面白い。本当に稀有な作家だと思います。
所要時間 13分
世界観重視 10
内面描写重視 9
メッセージ性 9
考察要素 9 合計 37
主にFate/Grand Order(以下Fgo)について話しますが、Fate世界は繋がりが強いので他のFate作品にも言及します。
履修済はFgo, Stay night, Zero, Apocrypha, EXTRA Last Encore です。
1二項対立
Fate世界には様々な二項対立があって、奈須きのこは彼なりに答えを出しています。
例えば、Fate/stay nightでは士郎=贋作、ギルガメッシュ=本物という対比があって、士郎がギルに勝ちます。
つまり、「偽物は本物を凌駕しうる」のです。
更に、「偽物でも本物に勝てるなら、両者は能力的に大差ないので、物事が同じ結果になることが期待できる。であれば両者の優劣を決める必要はない」という考えまで進めています。
ちなみに、この内容は『TYPE-MOONの軌跡』に詳しく書いてあります。
TYPE-MOON (監修)...あっ(察し)。批判的に読む必要がありますね。Fate/EXTRA Last Encoreから逃げるな。
話を戻して、もう一つの二項対立の例は、「生きる意味はあるか、ないか」です。
普通の生活においてもですが、特にFgoでは、これ以上人類が生存できない破滅的な環境において議論されます。
例えば、そう1部6章「神聖円卓領域キャメロット」の獅子王とマシュの対比です。
人類がゲーティアによって滅ぼされるの回避するため、獅子王は、自らが正しいと思った人間たちを保護という名目で聖都(聖槍ロンゴミニアド)の中に閉じ込め管理します。
©TYPE-MOON / FGO6 ANIME PROJECT
しかし、マシュや主人公はその行いを標本と表現し、非難します。
なぜか?ここにFate世界の根幹のコンセプトがあります。
すなわち、「全ての生命は後に続く者たちに人類の可能性を渡すため、善悪問わず生きる。歴史はその積み重なりで出来ている。」ということ。
奈須きのこはじめ、1部6章のシナリオライターが伝えたかったのは以上のことだと思います。
これはカルナのセリフがよく表しているので引用(Apocrypha)
「我らは過去の影にすぎない。未来に生きるお前たちは、誰であれ英霊にとっては宝だ。我々はお前という未来のために走ったのだから。」(22話)
獅子王のやり方では、人類は救うが個々の人間は救えない。つまり人類の可能性の幅が狭まるので、許容できなかった。
ゲーティアとマシュのやり取りも似ています。
人間の多くの悲しみを見たゲーティアは、遥かな過去へと遡り地球誕生のエネルギーを取り込み自らが惑星となり、健やかな知性体を育む、死や悲しみのない完全な環境を生み出そうとします。
しかしそれは今までの地球46億年間の偉業を否定することです。今までの人類の全可能性を否定することです。
ゲーティアはマシュにこの計画に賛同するよう迫ります。なぜなら、マシュは人によって作られ、後少ししか命がないから、つまり人生の悲しみを沢山知っているから。
マシュはゲーティアを拒みます。それは再三言っている通り、人類の全可能性を否定することだからです。
ここをもっと深く見ていくと、Fgoの真髄に至ると思います。
すなわち、生きる意味はあるのです!貴方が惨めな人生を送ったとしても、貴方の存在が誰にも認知されなくても。
なぜなら、人類史に記録は残るからです。
個々の人間という小川が束になって、人類史という大河ができます。そこに貴方という小川が入ることによって(たとえそれが短くても)、その大河の水質やら流速が変わります。つまり人類史の可能性が広がります。
そして小川の水質は濁っていてもよい。なぜなら価値は変動するものだから。現代で否定されていたとしても、遠い未来で評価されたり、未来人に希望を与えるかもしれない。つまり汚濁環境下でしか生存できない生物の希望となるのです。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
以上のことがFate世界の本質だと思います。
なんて高度な視点なのでしょう。
確かに現実的でなく、納得できないかも知れません。人類史に記録が残るということは、誰かがその記録を確認しているということです。それが人類史自体なのか、アラヤなのかガイアなのか分かりませんが。こんな創造上の設定が前提にあるので、賛同することはできないかも知れません。
それでも、こうした俯瞰的な、圧倒的賢者の視点は為になりますし、何より生きる勇気を貰えます。
話逸れますが、奈須きのこって非道なキャラ設定をよくやりますよね。マシュもだけど、特に桜とか桜とか桜とか。
他には、自分の意志を持てない辛さで言うと、ソロモンとかアルトリアとか。...ドSかな?...
3遺志の継承
私は以前から、死者の思いを引き継ぐことを「継承」と呼んでいます。
Fgoのストーリーは、後に続く者たちに人類の可能性を渡すため、善悪問わず生きた命を受け継ぐストーリーでもあると思います。
今まで沢山のサーヴァントが登場してきましたが印象深いのは、
べディヴィエールの獅子王に対する圧倒的献身であったり、思い出すだけで泣きそうなのですが、神代巨神海洋アトランティスで活躍してくれたサーヴァント達だったり。
他には、「この命の続くかぎり人間の価値を示し続ける」と誓ったキリシュタリアの人類救済の思い。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
ぐだーずは彼らの最後見届け、思いを知り、受け継いだ。だからなおさら負けるわけにはいかない。異星の神には負けられないですね!
でも、この思いの継承がいつも良い方向に行くとは限らないのです。詳しくは『ベルセルク』で書こうと思います。
2相対悪
Fate作品の敵はほとんど相対悪ですね。
つまり、敵の動機や理念には納得できるが、そのやり方が極端すぎるという事。
さっきの獅子王やゲーティアもそうですね。動機は人を救いたいっていう気持ちなので。
そもそも人類悪=人類愛なのですが、まぁ後で話します。
そういう点では、人を愛する獅子王も人類悪になりそうですね。あっ、でも単独顕現スキルないから無理か... もし、6章で彼女の思い通りに聖都だけ残ったら単独顕現扱いになるので、そしたら人類悪になりますね。(さらっと考察を始めるライターのクズ)
話を戻して、Fate作品では主人公側の理念と敵側の理念がぶつかるのが見ていて面白いですね。(人王ゲーティアとか)
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
そして、やり方が違うだけで、目的は同じなので最後は敗北した敵が主人公に思いを託しますね。これが泣けます...(キリシュタリアとか)
2部は見方によってはカルデア側が相対悪ですよね。簡潔に言うと、もとの世界を取り戻すために7つの世界を滅ぼすのだが、そうするだけの大義があるのか?
つまり、異聞帯よりもこの世界の方が残す価値があるのか?
これはとても難しい命題だと思います。なぜなら、現代は人間平等主義の時代であり、ならば、人々の住む世界も平等であるはずだから。
この命題を上手く回避する方法は
異星の神が悪いことをするから、そいつも異聞帯も倒してヨシッ!(おそらく、異星の神の目的は無駄の多い汎人類史を滅ぼし無駄のない循環で回っていた時代に回帰すること=今までの人類史の否定。)
以上のように、悪性を付与するしかないと思います。
2部5章ではこれに加えてオルガマリーを救うためという大義名分が付きました。
(興味深いのは、最近こうした平等を命題にする作品が増えてきたことですよね。『進撃の巨人』とか。理由はなぜでしょうね。単純に見せ物として面白いからか?それとも、面白いと思う私たち読者側に、民主主義に飽きて有能な独裁者を望む心理が芽生え、それを感性で感じ取った作家が反映してるからか?)
こういう、主人公サイドのしていることは正しいのか考えさせられる作品が好きです。
脱線します。Fgoではキャラの評価を下げて上げるのをよくやりますよね。ゲーティアとかキリシュタリアとか。一方、リンボとベリルは下がりまくって虚数になりましたね。
キリシュタリアの新生の思想(現人類では問題解決できないので、優れた器、高次の知覚へアップグレードした神人類に託す)には驚いたなぁ。
キリシュタリアだけが現人類のままで、人類を神にするのって『幼年期の終わり』を思い出します。
この作品についても感想書いてるので良かったらどうぞ(唐突な宣伝)
4奈須アレンジ
本当に奈須きのこは工夫の人だなぁと思います。
・人類悪の設定について
最近の漫画やアニメでは相対悪がよく使われますが、Fgoでは彼なりにアレンジを加えて、人類愛こそ人類悪と定義してます。
つまり、人を愛する気持ちが強すぎると、人類の成長の邪魔となり、人類が乗り越えるべき障壁と化す。
こんな設定普通思いつかないだろ...
ちなみに、個人的には人類悪の理の元ネタが旧約聖書説を支持してます。
こちらのサイトが詳しいです。https://yamimin-planet.com/beast-and-genesis/
・既存単語の意味追加/複合
昔からある単語に別の意味を加えるのが上手いなぁと思います。
例えば、魔法と魔術。Fate世界では
「魔法」・・・現在の時代の文明の力では、いかに資金や時間を注ぎ込もうとも絶対に実現不可能な「結果」をもたらすもの
「魔術」・・・一見有り得ない奇跡でも、結果だけなら他の方法でも実現できるもの
のようにきっちり分けて定義されています。
「抑止力」もそうですね。
既存単語の複合だと、「人理定礎」とか「聖杯戦争」とか「悪竜現象」ですね。
他作品の話になってしまうのですが、『ダークソウル』や『ブラッドボーン』も別の意味を加えるのが上手いですよね。”人間性”とか”灰”とか。
・元ネタ
Fate作品は世界中の神話や伝承を使ってますよね。どうやって情報を仕入れてるか疑問ですが、とりあえず勉強家ってことは分かります。
2部5.5章 地獄界曼荼羅も、元ネタは、大日如来の説く真理や悟りの境地を、視覚的に表現した両界曼荼羅でしょう。
逆に資料として使えないのを探した方が早い気がしますね。
え?そんなのあるのかって? まぁ、使ってもいいが、制限付きってのはありますね。イスラム教とか。(おっと、これ以上はいけない。)
注目すべき点は、ただ元ネタとして使うのではなく、それをアレンジしている点です!そこが魅力的な要素であると同時に引かれる点でもあるのですが、私は好きです。
例えば、ギリシャ神話の神々はもともと宇宙を航海する戦艦であり、母艦カオスの権能を分けて成立したグループでした。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
他には、カバラのセフィロトを英霊召喚術式と上手く組み合わせたり。
更に、『封神演義』の登場人物のいくつかは機械で、それをもとに項羽や始皇帝の躯体が開発されたり。
2部5.5.章では陰陽道の神や太公望の名前が出てきましたね。Fate世界なりにアレンジされた中国神話をもっと見たいですね。蚩尤とか饕餮とか。
・偽の目的
外向きようの目的と真の目的が違うことが多々あります。
例えば、「聖杯戦争」
見せかけの機能としては、サーヴァント同士が争い、倒したサーヴァントの魔力を吸収した聖杯を使って願いを叶えること。
本来の目的は、多量の魔力を吸収した聖杯を使い根源へ至り、第三魔法を発動させること。つまり、魂を物質化すること。
©東出祐一郎・TYPE-MOON / FAPC
こういうちょっとした工夫が、作品に深みを与えていると思います。
5BGMのススメ
・Fgoのopは全て好きです。特に『逆光』がお気に入りです。「絶望のほとり~」のサビがめっちゃいい!
・『Wodime ~TREE BATTLE3~』・・・星間都市山脈オリュンポスのキリシュタリア戦のBGMです。詠唱といい、生き様といい何もかもがカッコよすぎなんだよなぁ。
・『宿命 ~GRAND BATTLE~』・・・うぅキリシュタリア、お前と一緒に人理修復したかったよ。(´Д⊂グスン
・『Heavenly King』、『Judgement』(EXTRA Last Encore )
サビが大好き。退廃的だけれども、全てを諦めた訳ではない感じが良い!
・『Fate/Apocrypha』・・・壮大な曲。
余談ですが、アニメやゲームの考察動画はFateとソウルシリーズのそれがダントツで面白くてよく見るのですが、この二つの考察の本質は違う気がします。
例えるなら、答えのある問題がFateで謎なままなのがソウル系ですね。
5章の最後でオルトの存在が示唆されたり、Fgoは今までの型月世界の謎や伏線を回収してくれそう。
ソウルシリーズは宮崎さんが、人は謎があった時に想像力で物事を埋めようとする性質を上手く利用している気がします。本人は「可能性を否定するのはよくない。」と言って公表するつもりなさそうですし。
6まとめ
いつも通り要素を分析して終わります。
・遺志の継承
・人類讃歌・・・「この命の続くかぎり人間の価値を示し続ける」byキリシュタリア
・聖杯戦争システム・・・[真名当て要素]+[二次創作性]+[流動的な関係性]
・偽りの自分・・・周囲が求める自己像>自分が望む自己像
(例)・・・アルトリア、ソロモン
・非人道的扱い・・・桜とか桜とか桜とか
・偽りの目的
・修羅の道・・・己のエゴのために多数派を犠牲にする。見方によっては敵の方が相対善。
ちなみに、私の推しキャラは巌窟王とオジマンディアスと覚者とキアラである。
©TYPE-MOON/FGO PROJECT
最後までお読みいただきありがとうございました!