「知識の海」に溺れていませんか?・・・独学との向き合い方を変えた一冊
読書がほとんど習慣になっていなかった僕が、ちょっとしたきっかけがあり今では月に3冊ほど本を読めるようになりました。
哲学や世界史、地政学、アートなどのジャンルに惹かれ、ページをめくるたびに新しい世界を知る喜びを感じています。ただ、ふと「これって何か役立っているのかな?」と考えてしまうこともあり、楽しむだけでは物足りなさを覚える自分がいました。
そんな気持ちを払拭しようと、興味があまり湧かない経営書やビジネス書を無理やり読んでみたものの、結局どれも「学んだはいいけど、どう役立てればいいんだろう?」とモヤモヤするばかり。何かしなきゃ、成果を出さなきゃ・・・そう思うほど、読書そのものが少し苦痛になっていました。
そんなある日、電車で目にした広告がきっかけで手に取ったのが、山口周さんの『知的戦闘力を高める独学の技法』。この本を読んで、今までの悩みやモヤモヤが嘘のように晴れていく感覚を覚えました。まるで自分の悩みを見透かされたようで、なんだかドキリとするような体験でした。
この本は独学のHOW TO本ではありますが、その内容は単なる「学び方の指南書」にとどまりません。「知識の9割は短期間で忘れる。それでいい」という前提条件に立って、どう知識を使える状態に昇華し、密度の高い武器としてストックしていくかについて非常にわかりやすく教えてくれています。
これまでは、「学んだことは覚えないと意味がない」と思い込んでいた私にとって、この視座は思いがけないインプットでした。重要なのは覚えることではなく、学んだ知識をどう抽象化し、構造化して「使えるもの」に変えるか。知識の量よりも、そこから得られる洞察や示唆の密度が大切だと教えてくれました。
さらに、「教養」に対する新しい視点にも感銘を受けました。知識をただ身につけるだけではなく、それをどう自分の人生や仕事に活かすかが重要だと本書は教えてくれます。「知っていること」をひけらかすための教養ではなく、人生を豊かにするための教養・・・そのあり方を考えさせられました。
実は山口さんの著作を読むのはこれが2冊目で、以前読んだ『武器になる哲学』では、哲学という一見ビジネスに無関係そうな学問を見事に応用する視点に驚かされた記憶があります。今回の本もまた、独学の本質を教えてくれる貴重な一冊でした。
もし、皆さんも「読んで終わり」にモヤモヤしていたり、「知識をどう使えばいいの?」と感じているなら、この本は新しい道を示してくれるかもしれません。
無理に知識を詰め込むのではなく、学びを楽しむ余裕を取り戻せる1冊です。
※ 20241126追記
ポッドキャスト「超相対性理論」の中で、Takramの渡邉康太郎さんも同じような学習方法について触れられていましたのでご紹介させていただきます。(2:10 あたりから)
● 前提
知的戦闘力を高めるとは?
量的に情報を知っていることではなく、質的に自分なりの洞察や示唆に還元し、汎用性がある知性として実装していくこと。
知的戦闘力の発揮度合い
レベル1)過去に学んだ知識を、状況に応じて適宜用いることができる
レベル2)過去に学んだ知識を組み合わせ、自分なりの概念を構築できる
なぜ、知的戦闘力を上げる必要があるのか?
・意思決定の質が上がる
L ある局面における情報量が同じ他者と比較し、より良い意思決定ができる
L 優れた意思決定は優れた行動に、優れた行動は優れた結果に
「覚えないこと」を覚える
・重要なのは「覚えることを目指さない」こと = 脳の外部化
L インプットされた内容の9割は短期間で忘却される
L 知識を情報として脳内にストックすることが時代遅れになる
L 覚えないことを前提にした独学システムの構築が重要
独学者が陥りやすい過ち
・知識だけを単に詰め込み、思考しないことは逆に危険
L 批判的態度を失った「丸呑み型読書」では物知りなバカになるだけ
学んでも考えなければ洞察は得られない。一方で、考えるだけで(人から)学ばなければ独善に陥る恐れがある。
ex)歴史から何を学ぶか
ただ年号や固有名詞を暗記することに意味はなく、そのような事象がなぜ起きたかを考え、人間や組織や社会の本性について洞察を得ることが大切。
知的な革命家を目指す
・現行システムへの最適化は本質的な幸福につながらない
L 現行システムへ最適化するための知識 = いかにうまくやっていくかの知識
L 現行システムに対する変革がインセンティブを減殺する
L 社会をより良い場所にしていくための知的武装になりにくい
L 哲学 =「システムを批判的に考察する技術の体系」
● 独学が必要な理由
1)知識の不良資産化
L 学んだ知識の有効期間の短縮化
L 過去に学んだ知識は償却し、新しい知識を仕入れることが必要
2)産業蒸発の時代 & 人生三毛作
L イノベーションによって短期で産業構造が変化してしまう
L 大きな産業構造であっても数年で蒸発する
L 企業や事業の旬の期間は「短縮化」
L 人々の現役労働期間は「長期化」
L 人生100年時代に享受できる人生の豊かさに格差が生まれやすい
L 専門領域やキャリアドメインを柔軟に変更できる備えが必要
3)クロスオーバー人材
L 領域を越境しながら、新しい結合を生む人材が求められている
L 広範な領域に関する知識習得には「独学」するしかない
● 独学システムの4つのモジュール
1)戦略
・どのテーマに対して知的戦闘力を高めたいか方向性を考える
L 武器を集めると思って学ぶ
L 戦略なしに闇雲に武器を集めても、知的戦闘力は高まらない
L 情報の密度を高水準に保つため、不要な情報は遮断することも大事
L 他人と差別化するために、いかに違うインプットをするかも大事
L 戦略は精緻でなくて良く、偶然の学びによる洞察や示唆も大切にする
L 知の創造は予定調和しない(偶然の結合がイノベーションに繋がる)
2)インプット
・戦略の方向性に基づいて様々なソースを通じて情報を得る
L 書籍だけでなく広範囲な情報ソース(マスメディア・Web)
L 日常生活の中からも五感を通じた知的生産を続ける
L インプットの絶対量を上げる(単位時間あたりの出力 × 稼働時間)
3)抽象化・構造化
・インプットした知識から自分なりの示唆や洞察を得る
L ビジネスと結びつけづらい教養は、示唆の抽出(意味づけ)が必要
L 知識から知恵へ、抽象化によって示唆や洞察を引き出す
L 抽象化された定理は真実である必要はない(ただの仮説で良い)
L 構造化によって別の知識と紐付け、情報を組み合わる
4)ストック
・知識と示唆や洞察をいつでも使えるようにセットで整理する
L 忘れる前提で、知識をファイリングしてストックしておく
L デジタルデータで記録し、検索やタグで引き出せるようにしておく
1)戦略
テーマが主、ジャンルは従
L どのジャンルを学ぶかよりも、どのテーマについて学ぶかが先
L どのテーマに結びつけるかが明確な方が、情報に対して意味付けしやすい
L テーマとジャンルを交差させることで独自の示唆や洞察が生まれる
ex)テーマ:自発的学習習慣はどうすれば身につけられるか?
ジャンル:心理学・歴史・哲学・文学・アート etc…
テーマ
・自分が追求したいテーマに方向性をもつ
L 独学の目的 = テーマに対して自分なりの答えを追求するため
ジャンル
・テーマに対して何かしらの気づきを得られるかどうかで判断
L 自己プロデュースのポイント = 他の人にはない組み合わせを作る
L それぞれの要素はトップクラスでなくても良い、掛け算の希少性
L 欲しいもの(ない物ねだり)への努力は人並みにしかならず、価値は低い
L 自分では当たり前のことで気づきにくい、持っている強み活かす
L 事実関連の情報は具体性(5W1H)が欠如すると説得力がなくなる
2)インプット
インプットの目的
・短期的な仕事で必要な知識を得るためのインプット(ビジネス本)
・自分の専門領域を深めるためのインプット(ビジネス本+教養本)
・教養を広げるためのインプット(主に教養本)
・娯楽のためのインプット(なんでもあり)
知識の量よりも、洞察や示唆の密度が重要
・独学のシステムの出力を最大化するために
L 情報量よりも、それを抽象化・構造化する情報処理能力が大切
L 大量のデータから、いかに自分に意味のある洞察を抽出できるか
L 知識を咀嚼せず、丸呑みしてそのまま吐き出すことをやめる
インフォメーション(単なる情報)
インテリジェンス(情報から示唆や洞察を得ること)
間違ったインプットは問題を引き起こす
・知識の償却を怠らず、質の良いインプットでアップデートする
L 技術やビジネスモデルの旬の期間が短縮化し、知識がすぐに陳腐化する
L いつまで経っても時代遅れになった方法論や知識にしがみつく残念な人
L 知識のクオリティと権力の大きさのバランスを崩すと老害となる
・教養の習得自体を目指さない
L 教養を頭でっかちに備えるだけでは、人生に豊かさは与えない
L 偏屈で扱いづらい人間になっていくだけ
リベラルアーツ = 「自由の技術」
数百年・数千年という時間のヤスリにかけられ残っている
L 変化の激しい世の中でも価値を失うことがない礎となる知識
L 長期間、知的戦闘力に寄与する(不良資産化しない)知識
普遍的で永続的な理(= ことわり)が真理
その時、その場所だけで支配的に物事を見る枠組みから自由になれる
自分はどう振る舞うべきか?これから何が起きるのか?
これらを得られる「教養」がリベラルアーツ
リベラルアーツを学ぶ意味
1)イノベーションを起こす武器になる
L 当たり前だと思っていた前提や枠組みを取り払う視座として
2)キャリアを守る武器になる
L 世界のありようについて部分適応しながらも
強く立ち回り変革の機会を待つための強い足腰として
3)コミュニケーションの武器になる
L 前提として知っていて当然とされる
教養によるコミュニケーションプロトコルとして
4)領域横断の武器になる
L 必ずしも該博な知識がない問題について、
全体観点によって対処していくためのスキルとして
5)世界を変える武器になる
L 世界の脚本の歪みに対して立ち向かい、
新しい脚本を書くための本質的で普遍的な立脚点として
インプットには偶然性も大事
・キャリアビジョンから逆算するような長期目標の読書は不要
L キャリアの8割は本人も予想しない偶発的な出来事によって形成される
L キャリアの目標を明確化し、興味の対象を限定すると8割の偶然を逃す
・イノベーションは体系化できるという誤解(予定調和しない)
L 予測不能な適度なランダムさが、新しいアイデアの組み合わせをもたらす
L いつか役に立つかもしれないという感覚が大切
L ブリコラージュ(日曜大工)によってユニークな知的生産につなげる
恒常的なインプットがいつか活きる
・インプット量をどう維持し、整理し、定着を図るか
L アウトプットとインプットの量は長期的には一致する
L ひたすら興味の赴くまま、無目的で無節操にする勉強こそ後で活きる
L 継続的な知識戦闘力を維持するために重要
L 必要になった時に、付け焼刃でインプットする表面的な知識こそ無駄
・常に「問い」を持ってインプットに臨むことが重要
L 日常生活の中で感じる素朴な疑問をメモする癖
L 人間や世界を理解するきっかけとなり、ビジネスに対する示唆となる
心地よいインプット(同質性)の危険性
同質性の高い意見や論点 =「共感」「賛同」できる心地よいインプット
知的ストックが極端に偏って独善に陥る可能性がある
同質性の高い意見や志向の人たちが集まると、
知識水準が高かったとしても知的生産のクオリティは低下してしまう。
関連分野を固めて読む
本と本のあいだにはメタファー(隠喩)の関係と、メトニミー(換喩)の2種類の関係があると構造化を進めやすい。
3)抽象化・構造化
モデル化する
・本質的なものだけを強調して抜き出し、残りは棄て去る
L 抽象化 = 細かい要素を捨ててミソを抜き出すこと
L「要するに〇〇だ」とまとめてしまうこと
L「どんな場所」「どんな時代」でも通用する「公理」に書き換える
L 個別性を低下させることで、知識応用の対象を広げ、再現性を高める
抽象化の力を高めるコツ
L 得られた知識は何か?
L その知識は何が面白いのか?
L その知識を他分野に当てはめるとしたら、どんな示唆や洞察があるか?
4)ストック
・学んだ知識と抽象化によって得られた仮説は、セットでストック
L 状況に応じていつでも調達できるようにイケスに生きたまま泳がせる
L はなから記憶に頼らない心構えの方が合理的
知識ストックの構築がもたらす貢献
・洞察力が身に付く
L 目に見えない現象の背後で何が起来ているのか?
L この後、どういうことが起こり得るのか?
・目の前の常識を相対化できる
L 目の前の常識が「いま・ここだけ」のものに過ぎないことに気づく
L 誰もが懐疑せずに信じきっている前提や枠組みを相対化してみる
L 相対化するためには、時間軸と空間軸を広げることが重要
単純に「常識を疑え」ということでなく、なぜ世の中に常識というものが生まれ、根強く動かし難いものになっているのかという論点への洞察する。
・創造性が向上する
L 創造性は後天的に高めることができる
L 異なる分野からアイデアを借用するアナロジーの活用
L 新しいアイデアを得る(創造 = 新しい組み合わせを作ること)
情報を選り抜く
1)後で参考することになりそうな興味深い「事実」
2)興味深い事実から得られる「洞察」や「示唆」
3)洞察や示唆から得られる「行動」の指針
共感する内容だけでなく、反感を覚える情報にもアンダーラインを引く
迷ったらアンダーラインを引き、再読時に転記に値するかを選り抜く
● 最後に
山口さんはこの書籍を通じて、『「独学への契機」を得た人が、やがては社会的な変革を牽引するリーダーとなって欲しい』と読者に伝えています。
現行システムへの最適化するだけの学問を通じて盲目的になるのではなく、本質的な学び(単なる物知りではなく、高い知的戦闘力を持ったリベレーターの一人として)を追求していきたいと思います。