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kotatsu stories

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超短編集の第1弾になります
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Sの驕り

Sの驕り

くだんの店に入ってからも違和感は拭えなかった。

Sの様子はというと、生ビールの注文を済ませるなり、例の”おねいさん”を引き留めて本気で誘惑しているように見える。
評判の映画『スペンサー・オーラムの厄災』に誘っている。

どこか垢抜けない若い女店員も満更でもないような、それでいて抜け目のないような目でSを見ている。
値踏みをしているようだが、もうひと押しかもしれない。

Sの身長が伸びて、生前は、

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ラブレター

ラブレター

廃屋で紙魚(シミ)に喰われ、
朽ちて行く、
百五十年周期の行幸だったのかもしれない、

手渡された恋文。

上手くいく筈もなく、
生まれなかった、夢で会った息子のため息を
思い浮かべ、

(赦しを乞うだけ)

駅舎のベンチで、
背筋を伸ばして座る、

バトミントンラケットを持つ君に。
#現代詩 #ラブレター #恋文

電源喪失

電源喪失

あの十五分間の事。

おそらくわたしは狂ったのだと思う。

一通の、512バイトに満たないメールにより易々と喚起された、
吊しの狂気。

十五分間のループの間、身体は固化し、音は消え、体温を失った。

無限ループを抱えたまま、レンゴクの手前だったのかも知れない

カンダタの糸か、天使の矢線か、

ナノミクロンの一筋に吊られた身体は、
樫ノ木モックの様に、直立歩行で歩き出す。

いつの間にか手にした

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Sの復活

Sの復活

死んだ筈のSは生きていた。

あの日、駅までの道をやけに軽くなったSを抱えて歩いていると、大仰な笑みをたたえた大男が現れ、大して広くもない道が狭まったように感じたものだった。
やあやあ、これはこれは。いえねえ、おおごとだと聞きまして、我々はこうやってSを迎えに来たのです。
我々? なるほど、大男の側には小男が立っている。大男の存在が圧倒的なためか気がつかなかった。
「これは変死なのです。病院とか警

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沈黙の理由

沈黙の理由

 広場の中央に設えられた祭壇近くの椅子で、しばし瞑想していた男は、ゆっくりと目を開くと「いったい何の事やねん」と誰に聞かせるでもなく呟いた。
 男は混乱しているのか、取り巻く人々とあらゆる動物の群れが発するざわめきや、気遣う近親者のかける声さえも届かない。

 男は、椅子から身体を引き上げると、膝の具合を確かめながら、夕闇の迫る広場を歩き始めた。今しがた見せられた箴言とビジョンを反芻する。
 神さ

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解説のある夢

久しぶりに夢を見た。

突然、自分でも見知らぬ職場に、片想いだったひとが訪ねてくる。
ずいぶん久しぶりだね、などの通り一辺の会話はあったのだと思う。わたしと彼女は連れだって職場の近くにある広場に向かう。
夢で会うのは何度目だろうか。
最後に会ってから二十年ぶりの邂逅であり、当然、彼女は年齢を重ねている。
だが美しい。様々な経験が折り重なった上の、上澄みのひとすくいが見せてくれる美しさというものだろ

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将来の夢

父「将来の夢は何だっけ?」
娘「建築家だよ」(何回言わせんだよ)
父(だったら算数しみじみやれよ)
娘「パパの夢は?」
父「パパはもう……そうだな、会社の金を横領して場末のバーのママと駆け落ちだな。夜汽車で北にね。トレンチコート着て」
「それから……」
妄想はPriceless

※パパの妄想部分はテレビ番組『冗談ストリート』からパクりました。

父に会う

父に会う

以前書いたものを修正して再掲します。

母の死と、もうひとつの事を伝えるために一年ぶりに父に会うことにした。
今更、あの父に母のことを伝えることに意味などあるのだろうかと、何度も自問した末の結論である。

幾つかの路線を乗り継いで、父のいるGセンターの最寄り駅に降り立つ。

今の父とはこのセンターでしか会うことはできない。技術的な問題では無く、利用者保護の観点から面会時間や面会の頻度などが、制限さ

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Sの奢り

今日はSがおごるというので
わざわざ電車に乗ってやってきたのだが
肝心のSは約束の時間を大分過ぎても現れない
家に電話を引いておらず携帯を持たないSにこちらから連絡をとるすべはない
明日は暇かい? などとSからの連絡はいつも公衆電話から一方的にかかってくるだけである
このまま怒って帰っても大人げないと思い、二人で行くはずだった飲み屋に落ち着くことにした
ビールをちびちび飲んでいると、大慌てのSが店

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六角橋仲見世商店街彷徨

昨夜もこのバーで酔いつぶれたようだ
いつものようにピン札を置いて店の外に出ると、狭くて長い商店街を歩き出す
様々な匂いが空腹を責め立てるように漂っていた
狭い商店街は人と売り物のガラクタと臨時の屋台がひしめき合っていて、前に進むことが難しい
焦っては駄目だと言い聞かせていても背中に冷たい汗を感じ始めていた

もうすぐ、あれが通る筈だ

そして、それは現れた
チンドン太鼓を先頭に、サキソホン、インデ

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太郎

鬼ヶ島に辿り着いたのは、この太郎、只ひとり

冒険の数多(あまた)は字数の理(ことわり)で割愛せざるを得まい

特筆すべきは次の事柄のみ
雉は、猿と犬と太郎が食し
犬は、猿と太郎が食し
猿は逐電した

さて目指すは、一鬼のみ

美しき女人族の導きがあるも鬼との邂逅の時は僅かなり

問答も無く討ち果たした鬼の骸を荼毘に伏すと、最早、目的を喪いし太郎は島に留まる天命に従うばかり

幾年の歳月の果て、太

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ホッチキス

奇跡的に繋がったTwitterに流れて来た画像を見て、思わず声が漏れる
青いホッチキスの写真
赤いテプラに擦れて薄くなった名前
あれはわたしが貼ったものだ
昔、放課後のひとの少ない教室で、気まぐれに作り、貼った彼の名前
まだ持っていたんだ

脇腹の痛みに堪えていいねを押そうとした刹那
ふと見上げた先に、無表情が張り付いた少年兵の顔があった
他人事の様な銃声を聞いた後
ゆっくり視点が変わり
誰かの足

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帰郷

帰郷

おれは何年か振りに故郷の駅に降り立った

駅前のロータリーを歩き出すと
見覚えのある小型車がゆっくりと近づいて来るのが見える

運転しているのは恵子

上京を口実に別れた女
そしておれを呼び出したひと

目が合った、と同時に彼女の車は急に速度を増した

おれは撥ね飛ばされ、ロータリー中央のモニュメントが目の前に迫った

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妖精

妖精

その商店街に
小体なカウンターバーがあり
二階にはおじいさんの姿をした
妖精が住んでいる

夜中になると妖精は帰ってくるがその姿は客達には見えない

「妖精が通るよ」

希に酩酊に依って発動された無垢の心の者の発言で
妖精は可視化される
だが妖精が二階に上がれば
客達はその存在を忘れてしまい
呪いのカウントがプラスされたことは

誰も気がつかない