ホラー小説のネタバレなし読書感想『死体でも愛してる』大石圭
こんにちは。
間が空きましたが、今回、感想をご紹介するのも角川ホラー文庫からです。
ジャンルとしては、サイコスリラーに近い、作風ですね。
『呪怨』や『死人を恋う』などでも有名な、大石圭さんの『死体でも愛してる』のご紹介です。
オムニバス(聞き手となる人物のお話と、各章で違う登場人物)で描かれた、今作を表すなら「4つの愛の物語」です。
四季の名前で4つに分けられた章のそれぞれに登場する人物たちが、自らを燃やすほどの狂おしい愛に身を焦がされ、破滅する姿が描かれています。
ひとがもつ愛……それは真っ当な形のものばかりではありません。
父と娘の禁断の愛。
愛するがゆえに、そのひとを食べたいという、カニバリズム。
死んだあとも、愛するひととの時間を大切に過ごしたいという、ネクロフィリア。
世間からは禁忌とされている愛の物語を、ヒットメーカーのベテラン作家である大石圭さんが、抒情豊かな表現力で、じつに官能的に綴ってらっしゃいます。
個人的には、料理という、文化的で楽しい出来事を通じて、美味しそうに人肉を調理し、それを食べるシーンがとても刺激的でした。
官能的、と書きましたが、濡れ場なども、惜しみなくしっかりと描かれています。
……大石圭さんを初めて知ったのは、絶版になった『死人を恋う』からですが、今作でも、それに近い死体遺棄もしくは、ネクロフィリアのシーンが描かれています。
グロいといえばそうなのですが、文章表現の巧みさも相まって、不快な感じはしません。
むしろ、自分が知らなかった、ひとの愛の闇の部分。
禁忌とされてきた、愛にも、愛としての純粋でピュアな一面があるのだと気づかされます。
あとがきでは、「自分が犯罪者になる」と思っていた幼少期が、愛するひととの出会いによって、数々の奇跡とも呼べる、幸福と出会えた、と綴じられています。
巧みな文章表現で、人間の暗黒面、愛の暗い一面を描かれることに定評のある、大石圭さんの作品を初めて手にとったときには、クリスタルのように純度の高い輝きのようなものを感じた覚えがあります。
それほどまでに、純粋で、美しい文章表現をとても、とても暗い物語で描かれることに、ある種の解放感のようなものを感じずにはおれませんでした。
しがらみのある、世の中にあって、誰しもひとに言えない、薄暗い一面があります。
目を背けていた世界に、そっと後押ししてくれるような作品。
そんな素敵な読書体験が、大石圭さんの作品にはあるように思えました。