月ぬ走いや、馬ぬ走い・諸行無常・永劫回帰 『月ぬ走いや、馬ぬ走い』【勝手に寄稿】
第67回群像新人文学賞受賞作『月(ちち)ぬ走(は)いや、馬(うんま)ぬ走い』。
琉球大学に在学中の豊永浩平さんが書いた本作は、沖縄を舞台とした小説だ。戦中から現在までの80年あまりの長い時間の中で、各時代を生きた人間たちによる「語り」が展開されていく。
「14章の構成で沖縄の近現代史を描き切る」これは、本作の帯にある古川日出男氏の言葉だが、まさにその通りで、過去と現在に徹底的に向き合って執筆したことがわかる。
沖縄が積み重ねてきたものと、その上で今流れている時間を筆者にしかできないであろう方法で表現している。
月ぬ走いや、馬ぬ走いとは、沖縄のことわざのようなもの<黄金言葉(くがにくとぅば)>で、意味は月日は馬が走るようにあっという間に過ぎていく、という意味だそう。
作中では、馬の走りのように約80年ほどの時間の流れがあるが、その流れには絶え間ない変化と、繰り返しがあった。
社会も生活も言葉も思想も常に変わり続ける無常の中で、痛みや苦しみ、寂しさ、ひもじさが回帰する。物語冒頭の日本兵による「永劫に反復する」という語り、ラストに少女が触れた詩『忘れっぽい天使』の「繰り返し」は、作中でも印象的な節だった。
馬のように駆け抜けていく時間の重み、常に変わり続ける虚しさ、何度も何度も繰り返す途方もなさを感じながら私達はどうやって今を生きていけばよいか。彼ら、彼女らの語りを聞いてしまった今、もう後には戻れない。