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矢口ラン
2023年12月11日 18:33
ソーシャルネットワーキングサービス。いつかのバルカン半島よろしく、極めて引火性の高いバーチャル火薬庫である。電子化した偽善や同調圧力の充満する世界では、思想に僅かな摩擦が生ずれば、忽ちにして燎原の火の如く言の葉が燃え広がり、その炎は鎮んでも消えることはない。投稿文は常に火種となる可能性を孕んでおり、この世界の住人は背負い切れるはずのない責任と隣り合わせで指を動かす。一度引火すれば最後、悪性のバイ
2023年4月11日 08:31
そこに意識的な誘導が含まれていようがいまいが、“同調圧力”の齎す悲惨で悪夢的な結末は常に救い難く、特にそれが個人の特異能力に準拠するような場合、自ら人間としての尊厳を損なわせる選択肢を提示していることで、極めてタチが悪い。 奴は己の仕事に並々ならぬ誇りを持っていて、軽々しく立場や肩書きを口にするような男ではないものの、その頑固で自分に厳しい性質が、他人に波及してしまうほどの熱意を持て余している
2023年3月6日 17:28
縁とはまことに奇怪なものである。目に見えぬ強大なエネルギーは“運命”という形態で人知れず専横的に作用し、人類は誕生から今まで、如何なる学問を以てしても我々を翻弄する縁について何らの科学的説明も用意できていない。唯一信頼できるのは文学で、Marriages are made in heavenとは実に言い得て妙である。縁は我々の及ばぬ範疇から来訪するout of the blueの巡り合わせと考え
2023年2月27日 10:39
現代社会は巨大な時計である。多くの個人がその支配下から逃れようと懸命に知恵を働かせる中、彼女は喜び勇んで秒針の奴隷となり、社会の走狗として駆け回る。彼女にとって予定とは酸素であり、スケジュール帳に空きがある状況即ちそれは死の宣告である。彼女は「〇〇は寝て待て」に入る言葉が“死神”であると信じて疑わない。鮪さながら、動き続けなければ危殆に瀕するの勢いで限度ぎりぎり予定を組み続ける。 ただし、予定
2023年2月13日 14:16
責任の所在が未確定の状況で、非難の目が自己に向けられている場合、弁護士や詐欺師であれば話術を、有名人や政府関係者であれば賄賂を、権力者や裏の人間であれば暴力を以て、切り抜けようとする。 当然、疑惑の色が濃くなるほど支払うコストは大きくなるわけで、相手の譲歩を引き出すだけでも困難であるのだから、立場を逆転させることなど、極めて無理難題と思われる。そしてそれは、実際に非がある場合に限らない。こつこ
2023年2月6日 19:27
情報とは巨大な津波であり、カスケードである。確実性の低い不可抗力は、現存する慣習や価値観を一斉に呑み込み掃き攫う。後に残るのは無辜のマジョリティと先の短いトレンドだけで、それもまた呑み込まれては一切を変容する。脳科学者は、「大人も子供も巻き込んだ壮大な実験のようだ」と顔を顰めるが、すでにデジタル社会はシステムの根を張り終え、我々の脳と手足を動かすシナプスに成り替わっている。 彼女の家は、謂わ
2023年2月1日 19:44
転ばぬ先の杖に従って、何事も用心するに越したことはないのだが、奴の場合、用心に用心を重ねるあまり、屋上屋を架す有様で済むならともかく、全く趣の異なる土俵で槍玉に挙げられるのだから慰みきれない。残念なことに、中学までは愛嬌、ともすれば高尚な洒落と解釈されたやもしれぬ奴の念入りな性向も、高校より上がった社会では通らない。加えて、奴は不運にも内申点が高かったとかで、地元では名の知れた進学校に入ってしま
2023年1月24日 08:21
人間が社会的動物である以上、年齢相応不相応というものはどうしても存るわけで、奴が青天の霹靂と解し損ねたる卒然のモテ期到来も、当然この説を背負い込んで説くに易い。奴は母の腹で煙草を呑っていたような老け顔を持って産まれ出た。奴はこれまで非劇場版ベンジャミン・バトンを長々演じてきたのである。そして、如何に数奇なる運命といえど、年月という効き目と信頼の確実な魔法は、差別なくその数奇度を薄めてくれるわけで
