ナポレオン・ハラスメント【人間観察】
そこに意識的な誘導が含まれていようがいまいが、“同調圧力”の齎す悲惨で悪夢的な結末は常に救い難く、特にそれが個人の特異能力に準拠するような場合、自ら人間としての尊厳を損なわせる選択肢を提示していることで、極めてタチが悪い。
奴は己の仕事に並々ならぬ誇りを持っていて、軽々しく立場や肩書きを口にするような男ではないものの、その頑固で自分に厳しい性質が、他人に波及してしまうほどの熱意を持て余している。加えて、三大欲求の全てを研究意欲で満たす変態的体質を持ち合わせることは、数少ないゼミ生を大いに悩ませるのであった。
研究室は、一度入ってしまえば出る事のかなわぬ地獄の不夜城であり、奴はそこに籠居するジキル博士と考えるのが分かりよい。常人の寝静まる頃、どこからともなく現れる寡黙なハイドは、沈黙と、窓から漏れる灯りを以て薄気味悪い圧をかけ、学生から帰宅と睡眠の自由を奪うのである。自由が生んだ不自由は消極的な徹夜を促し、彼らは学生の本分を返上するに留まらず、無茶な能力の引き上げを求められる。当然、無茶とは至極薄命なもので、今年も朝日に怯える睡眠不足のゾンビが、無垢なマッドサイエンティストの手によって生み出されるのである。
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