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イマジナリースワッピング【人間観察】
縁とはまことに奇怪なものである。目に見えぬ強大なエネルギーは“運命”という形態で人知れず専横的に作用し、人類は誕生から今まで、如何なる学問を以てしても我々を翻弄する縁について何らの科学的説明も用意できていない。唯一信頼できるのは文学で、Marriages are made in heavenとは実に言い得て妙である。縁は我々の及ばぬ範疇から来訪するout of the blueの巡り合わせと考えるのが最も腑に落ちる。
故に、降りかかる運命や成り行きは一生ものの僥倖と受け取り重宝するのが努めて平和であるように思われるが、奴はといえば、己の運命が実は詐欺や惰性の類ではないのかと疑うことで日々神経を擦り減らしている。
一途とは最も安泰で平穏な選択である。しかしその一方で、一度転ぶと立ち直るのが極めて困難だという高いリスクも伴う。奴にはマンネリズムを何周もした交際期間の長いパートナーがいるのだが、果たして己の享受した幼馴染との縁が真に適当な選択肢であるのだろうかとまじめに頭を悩ませているから難しい。一生かけて一人の女性をしか知らぬ男とは、ややもすればひどく間抜けで単なる臆病者に過ぎないのではないか。己は世の一般男児がその男性的品格を形成するに必要な諸々の手続きを知らぬ間に素通りしているのではないか。これまで身の周りに多くの選択肢が用意されていたのにかかわらず、その内最も貧相で想像力に欠けた道を選んでしまったのではないか。そんな考えが頭にもやもやと浮かんでは執拗に囚われ、他人の別れ話や未だ恋愛経験のない友人を羨んだりするのである。
親友の助言を受けてしばらく彼女と距離をとることを決めた奴は、意識的に一人の時間を作っては己が他の異性と交流する姿を妄想することを始める。それは思っていたよりもずっと新鮮で、心弾む楽しい試みであった。しかし、必ずどこかの時点で妄想のクオリティは著しく低下し、背徳感と或る強い欲求が心を覆ってしまう。奴は欲求の正体が幼馴染の姿をしていることに気づいて、己の運命が本物であることを悟る。後日、奴の稚拙で半端に沈んだ浮気心などつゆ知らぬ彼女は、突然告げられた愛の言葉に少し驚き、大いに照れる。