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本にまつわるエトセトラです。
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#コラム

失う寂しさ、出会えた喜び

出会うはずのなかった本。 そしてきっと出会うべくして出会った本。 『昨夜のカレー、明日のパン』は私にとって、そしてこれを偶然読んでいるあなたにとってそんな本かもしれない。 …とここまで書いてキーボードを打つ手を止めた時、かけっぱなしにしていたBGMがディズニー映画『リメンバー・ミー』の主題歌に切り替わった。出来過ぎている。どちらも逝ってしまった人を想いながら生きる人を描いた作品だから。 ♪リメンバー・ミー  忘れはしない  リメンバー・ミー  夢の中で  離れていてもい

時代を超えて「いいもの」が遺る理由−外山滋比古さんの訃報に寄せて

考えるのは面倒なことと思っている人が多いが、見方によってはこれほど、ぜいたくな楽しみはないのかもしれない。 −『思考の整理学』あとがきより。 1.本棚にあった著者の生きた証 『思考の整理学』(1983)を著した外山滋比古さんが96歳でお亡くなりになりました。 この本のタイトルを一度は聞いたことのある方も、または実際に手に取ってみた方も多いのではないでしょうか。 訃報を聞き、私はすぐに本棚にあった『思考の整理学』を手に取りました。著者の外山さんの不在を実感できないままに

何度でも、また出会いたい

10代の頃、とてもすきで繰り返し読んでいた本がある。菅浩江著『永遠の森 博物館惑星』。(今見たら、Kindle版は660円だった…!) 全世界の芸術品が収められた衛星軌道上の巨大博物館〈アフロディーテ〉。そこでは、データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、日々搬入されるいわく付きの物品に対処するなかで、芸術にこめられた人びとの想いに触れていた。切なさの名手が描く美をめぐる9つの物語。 昔から美術やファンタジーがすきだったわたしにとってツボすぎるこの作品。あちこ

「一万円選書」当選物語:#7『トリツカレ男』

私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。 *** 7冊目は、いしいしんじ著。『トリツカレ男』。 「何かに夢中になると、寝ても覚めてもそればかり」な主人公、「トリツカレ男」のジュゼッペ。この物語はこんな風に始まる。  ジュゼッペはみんなから「トリツカレ男」ってあだなで呼ばれている。一度なにかにとりつかれちゃうと、もう、ほかのことにはいっさ

「一万円選書」当選物語:#6『今日の人生』

私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。 ***  6冊目は益田ミリ『今日の人生』。  どんな本かなと思ったら、中身は主にマンガでちょっとびっくり。ピンク、きみどり、水色、そして真っ黒なカラーページに印刷された見た目も美しい本。本の中では、イラストレーターのミリさんが、いろいろな「今日」を彼女の目線で切り取って伝えてくれる。  お盆に帰

「一万円選書」当選物語:#5『横道世之介』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。 ***  5冊目は吉田修一著『横道世之介』。  主人公は、大学進学のために長崎から上京した横道世之介18歳。地元を離れ、進学・就職したことのある人なら誰しも「こんなことあったな」、「この気持ち覚えてる」と思えるようなそんな小説。  中国語でも出版され、映画化もされています。映画の出演陣は高良健

「一万円選書」当選物語:#4『チーム』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。 ***   4冊目は堂場俊一著『チーム』。テーマはタイトルの通り、『チーム』について。文庫本の紹介文を引用します。 箱根駅伝出場を逃した大学のなかから、予選で好タイムを出した選手が選ばれる混成チーム「学連選抜」。究極のチームスポーツと言われる駅伝で、いわば"敗者の寄せ集め”の選抜メンバーは、何の

焦がれ続けた夢、叶う瞬間の静寂

 夢が叶う瞬間はいつも静かだ。叶うまでは、そわそわしたりどきどきしたりするのに、夢が叶う瞬間はいつも心がしんと静かなのはなぜだろう。 ■15年近く好きなひと 先日、私の人生の夢がひとつ叶った。夜の下北沢で。かれこれ15年近くファンの作家・江國香織さんに会いに行くという夢が。本屋B&B主催の江國さんの新刊『彼女たちの場合は』刊行記念のトークショー。  熱狂的にすきな作家やアーティストがあまりいない私。でも江國さんは別。どのくらいすきかというと、江國さんの長編小説やエ

「一万円選書」当選物語:#3『昨夜のカレー、明日のパン』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。 ***   3冊目は木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』。2014年、本屋大賞第2位。NHKでドラマ化もされています。ドラマの出演陣も豪華。仲里依紗、星野源、鹿賀丈史などなど。  ちなみに「木皿泉」というのは夫・和泉勉、妻・鹿年季子による夫婦脚本家の名前だそう。夫婦で何か一緒に作品を作るって、い

言葉の宝石がつまった絵本『誰も知らない世界のことわざ』

『翻訳できない世界のことば』という本を知っている人もいるかもしれない。詳しい紹介は以下の記事に譲るとして、この本には、世界中の様々なユニークかつ「そうそう!」と共感できるような言葉たちがきらきらと散りばめられている。 何十もある言葉の中には、日本語の「コモレビ(木漏れ日)」や「ツンドク(積ん読)」もある。どれも世界共通で存在している事象だけれど、それを単語として切り取るかどうかは各言語によるのだろう。 *** 今回紹介したいのは、同じ著者による『誰も知らない世界のことわ

「一万円選書」当選物語:#2 『あん』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。  前回からは私が実際に選んでいただいた10冊の本をそれぞれ紹介しています。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。  2冊目に紹介するのは、ドリアン助川著『あん』。  町の小さなどら焼き屋さんから始まるストーリー。さえない店長・千太郎と、突然バイトにやってきたおばあさん・徳江による、「あん(餡)」の製造工程が丁寧に描かれていて、地元の

「一万円選書」当選物語:#1『夏への扉』

 私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。  今回からは私が実際に選んでいただいた10冊の本をそれぞれ紹介していきます。今までのnoteはマガジンにまとめていますのでよろしければどうぞ。  記念すべき1冊目はロバート・A・ハインライン著『夏への扉(原題:The Door Into Summer)』。ちょうど夏ということもあってまずはこの本から。  主人公は牡猫ピートと暮らす技術者ダン。彼を「技術者」と呼

種をまく人

 子供のときに読んだ本の記憶はやけに鮮やかだ。  その本を通して初めて知った世界や感情があるときは特に。  『種をまく人』という本がある。子供のときに読んだ淡い緑表紙の薄いそれの内容を、大人になった私はほとんど覚えていなかったけれど、その本を読み終わったときの、あたたかな気持ちだけは覚えていた。  一ヶ月前に近所の八百屋兼花屋で朝顔の苗を買おうと思ったとき、同時に思い出したのは『種をまく人』のことだった。  自宅に苗を持ち帰ったあと、近所の図書館で『種をまく人』を借りた

「一万円選書」当選物語:序章後編

私が「一万円選書」に当選するまでとその後、選んでいただいた10冊の本について紹介していくシリーズ物note。 今回は私が「一万円選書」に応募・当選して本が届くまでのお話です。 前回のnoteはこちら。 なんとなく知っていた「一万円選書」にノリで応募してみた。私は「一万円選書」については以前からなんとなく知っていました。きっかけはなんだったかよく覚えていないのですが、確か母からの情報だったと思います。 私の両親は本好きで、子供の頃は毎週のように図書館に連れていってくれま