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「人間臨終図巻 1」山田風太郎著 読書感想文

様々な人物の最後がどのようであったかを短かったりそうでもなかったりする文章でまとめているシリーズ第一弾。

今月初めに参加した読書会にてその存在を知り、もともと歴史が好きなのもあってkindleで読んでみることにしました。

色んな人が出てくるわけですが、男性の小説家はだいたい喀血して死に至っています。

noteには小説家を目指す方がたくさんいて、その志の理由は多種多様でしょうが、どこかで念願叶った暁には今よりもっといい生活ができるのではないかと少なからず考えているのではないのでしょうか。戦後からバブル崩壊まで本がよく売れました。CMにまで出演する小説家もいましたっけ。雑誌やテレビなどで「好きなことでかなえた優雅な生活」を披露する小説家の姿を観るのも一昔前は珍しくありませんでした。

しかし、戦前の小説家はほぼド貧乏で最後は喀血です。末路を知ると憧れる職業ではありません。noteの小説家志望である方々のうちどれだけが今喀血しているでしょうか。少なくとも私は喀血していません。逆流性食道炎でしょっちゅう喉元にぬるいものがこみあげてきているけれども。みんな、離れて!危ないよ。

あと、やはり死に様まであまり好きになれないのは幕末の志士とか戦国武将ですね。日本人男性の多くがおじさんになるとハマるみたいですが、たぶん、モテない理由は彼らのファンだからです。

さて、前置きが長くなりましたが、年代毎に気になった死にざまを上げていきましょう。

十代…死にほぼ濁りがない。

☆藤村操…享年十七歳。美少年の一高生。哲学を織り込んだ遺書をしたためたのち華厳の滝で投身自殺。上級生の青年がこの遺書を読んでは泣いていたという。日本にも「トーマの心臓」のような世界があったとは。

☆愛新覚羅慧生…享年十九歳。ラストエンペラー愛新覚羅溥儀の姪。学習院大学で青森県出身の大久保という青年と出会う。「人生をごまかして生きるより、清らかに死ぬほうが立派だ」という大久保の考えに同意。大久保は慧生に婚約指輪を渡し、二人は旅に出る。道中、二人は旅館に宿泊するが、寝所は別々だったそう。清らかな愛を貫いたともとれるが、やはりこれは大久保の慧生が高貴の出であることへの敬意も含まれていたのだと思う。高尚な愛は、天城山でピストル心中にて幕を閉じる。

二十代…踏みにじられる若さ。

☆樋口一葉…享年二十四歳。「たけくらべ」は、発表時に話題にはならなかった。生活に困った一葉が雑誌への再掲載を出版社に頼み込み、二度目の発表に至る。森鴎外や幸田露伴が絶賛し、その効果もあって一葉は一躍名作家となった。しかし、一葉は病と貧乏に屈してしまう。一葉はかねてから借金をしていた高利貸しに妾にならないかと言われていたらしい。山田風太郎は言う。「死は一葉を汚辱から救ったのである」。

☆源実朝…享年二十七歳。源頼朝の息子。あらためて源実朝の親族を読み取ると、母方の実家である北条家のサイコっぷりが半端ない。特に北条時政な。娘の政子の子ども、つまり、孫でも権力のためなら殺しちゃう。実朝の兄頼家なんてさっさと始末。そら、世の中嫌になって和歌や蹴鞠で現実逃避しちゃうよ。宋にまで逃げようとしたってどんだけ!北条家にたきつけられた兄頼家の子公暁に殺されるという悲しすぎる末路に。いや、親も親戚も選べないとはいえ、血で血を洗いすぎ。

☆円谷幸吉…享年二十八歳。東京オリンピックマラソン第三位。自衛隊体育学校宿舎個室でカミソリ自殺。遺書に家族が与えてくれた数々の食事について書き、最後に「父上様、母上様、幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」と締める。まったく彼の頑張りとは比較にならないのだが、子供の頃、勉強ができなくてひどく叱られたあとの食事で「こんな自分でも食べていいのか」と後ろめたくなったことを思い出した。「がんばって」って言葉、私はあまり好きじゃない。たまには言うけど。

☆高橋お伝…享年二十九歳。凄みのある美貌の持ち主。夫のハンセン病発症をきっかけに故郷上州から夫婦で横浜に出てきた。やがて夫は死去。昔の話だけにここまででもかなりの苦労がお伝にのしかかっていたと思う。やがて売春を生業にし、枕探しを発見され相手を殺害。情夫の名を叫びながら斬首刑を受ける。この本には書いていませんが、彼女の大事なところが、某有名大学でホルマリン漬けになっているって本当ですか。悪趣味にも程がありますね。でも、たまに開催されているという展覧会があれば行ってしまいそうです。

三十代…だんだん人生に手垢がついてくるせいか、印象に残る人はほとんどいませんでした。モーパッサンくらいかな。でも割愛。

四十代…それぞれ本来の姿に戻る

☆有島武郎…享年四十五歳。婦人公論の記者である波多野秋子と不倫。秋子の夫に妻を譲る代償として金銭を継続的に支払うことを要求される。有島はそれを「愛する女性を金に換算できない」と拒絶。もともと自殺願望のあった有島は、肺の弱い秋子と死を決意する。「死にたい男と女がめぐりあって恋愛したのだ。とめてくれるな」。最後に彼が残した遺書には愛と死の現実についてつづられており、二人の遺体は蛆にまみれて発見されたという。あれ、この人「路傍の石」書いた人だよね。真面目な人だったんだなあ。※間違いました。「路傍の石」は山本有三でした。

☆寺山修司…享年四十八歳。トレンチコートの似合う男。病死後に発売された週刊誌の絶筆エッセイにて。「墓は立ててほしくない。私の墓は、私のことばであれば充分」。美学炸裂の遺書である。

「人間は中途半端な死体として生まれてきて、一生かかって完全な死体になるのだ」。

おっしゃるとおりで。

おしまい。







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