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となりの未亡人 作・草凪優 読書感想文

実家の揉め事から逃げ、郊外で慎ましやかに暮らす伊庭三樹彦30歳。小さなアパートに住み、タウン誌の編集者として働いている。

ある日、三樹彦の隣に溌溂とした女性が引っ越してくる。舞香と名乗る25歳の無邪気な未亡人に三樹彦の心は揺さぶられる。

作りすぎたカレーを舞香におすそ分けしようとしたことをきっかけに2人の距離は縮まる。急接近してくる舞香に対し、「亡くなった夫に似ている」と言われたことや今まで交際してきた女性との関わりで経験した失敗などが影響して真面目な態度を取る三樹彦。

舞香はそんな三樹彦の屈折した気持ちを読み取り、少しずつ真っすぐに戻らせていく。

この小説には二人の未亡人が現れる。1人目は上記にある舞香。主人公の三樹彦は舞香と出会い、身も心も溶け合わせる純愛を経験する。その純度の高さが二人の関係を変えていくのが切ないところ。舞香の選択はあれで良かったのではないかと私は思っている。ただのセクシーなだけの女の子ではないということもよくわかった。

2人目の未亡人は、会社で三樹彦の隣の席に座っている女性。中途入社でやたら体のラインがわかる服を着こなす大人の女性・知世。見た目が派手で自由奔放な知世に三樹彦は抵抗を感じるが、どんどん彼女のペースに乗せられてしまう。関係が深まっていき、知世が実は中身が地味な女性であることを知る。やがて再び三樹彦は実家の揉め事に翻弄されるようになり、それは知世を脅かすものとなっていく。

物語を通して言えるのは、三樹彦の人を愛する純粋な心とひたむきさがとても眩しかったということ。優しくて素直であり、とても真面目な人柄でこれが官能小説の主人公なのかと唸るほど。もちろん、官能小説なので性描写もふんだんにありますが、それに関しては何となく市井に転がっていそうな展開だし、それよりも三樹彦の心の動きのほうが際立っていているという印象を持ちました。いい青春小説です。それゆえ、題名と帯の誘い文句が内容と合っているようで合っていないというか。他にもっとふさわしい題名があると思うのですが、官能小説というくくりで考えるとこれが正解なのでしょう。

他にも官能小説を2冊読んだのですが、人物造形や心の動きをきっちり書いているなあと思ったのはこれだけ。作者の草凪優さんは官能小説の作家として長年人気なのだそうです。たぶん、性描写だけではなく人物の描き方の丁寧さなどが人気の秘訣なのではないかなと思いました。また機会があれば草凪優さんの本を読んでみたいです。


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