#21 再登校してからが本番
再登校した息子の制服のポケットの中にはいつも数冊の本が入っていました。
学校で一人で過ごすために、本で武装するかのようにブレザーのポケット全部に本を詰め込んでいたんです。
「誰も近づくな!」
って休み時間に本を読み続けることで周りの人たちから自分を守ることに必死だったのかもしれません。
息子は、少しずつ少しずつ登校時間を早めていきました。
登校時間が少しずつ早くなっても、一度学校が危険なところだと脳が学習してしまっているからか、登校しようと思う気持ちとは裏腹に体が拒絶反応を起こしてしまい、息子の登校するまでの辛さは何も変わっていませんでした。
やっとの思いで家から出て、歩き出したとしても、学校に着くまでに何度も何度も葛藤が起こります。
そして、
学校に行くには、踏切を渡る必要がありました。
息子はいつも踏切前で立ち止まり、その場から一歩も動き出せなくなり、電車が何本通過しても、背中を小さく丸めて、その場でボーッとただ立ち尽くしていました。
「一進一退を繰り返しながら人は成長するんですよ。」
螺旋階段のように人は成長していく。
結果に目を向けると、一進一退のギャップでストレスを強く感じてしまう。
だけど、経過に目を向けると、クルクルと螺旋階段を上るように成長していくことができる。
私は、息子から見えない場所で、息子が踏切を渡れるのを祈るような気持ちで毎日見守っていました。
何十分もその場に立ち尽くしていても、踏切が渡れずに家に戻ってくることもあったし、その場から逃げ出してしまうこともありました。
だけど、
「息子が電車に飛び込むかもしれない…」
って不安になったことは、ただの一度もありませんでした。
「息子は大丈夫。必ずこの問題を乗り越えられる。」
と心の底から息子を信じていたからです。
今になってあの頃の事を振り返ってみると、息子としっかり信頼関係が築けていたんだなって思います。
もし、私の心が不安で揺れてしまっていたら、踏切を目の前に立ち尽くしている息子をドンと構えて見守れているはずがありません。
「この子は大丈夫!」
根拠なんて何もないけど、自信はありました。
息子は、ずっと立ち尽くしていても、覚悟を決めると歩き出し登校していきました。
ふらりと登校していく姿からは、息子の葛藤なんて伝わらないんだろうなと思います。
息子は幼い頃から何故か貫禄があり、何をやらせても余裕そうな顔をしています。
だから、なかなか息子の繊細さは周りに理解してもらえませんでした。
その頃の息子は、「学校に居場所がない」「友達がいない」が口癖でした。
そして、
「僕のお友達は本だけなんだよ」
って寂しそうにいつも呟いていました。
「本が親友って素敵だね。」
「本は、いろんな世界に連れてってくれるから楽しいよね。本を友達にできるってスゴいことだと思うよ。あなたは学校で一人で過ごす力があるんだね。大人になるとお友達とずっと一緒にいるわけでもないから、一人でいる時間を工夫して過ごす力を身につけておくとすごく役に立つね。たくさん本を読む力もあるし、本を読む集中力も素晴らしいね。」
息子が教室で過ごす心細さを少しでも解消するのに、息子の読む本を私が選ぶという不登校の底の頃のコミュニケーション方法がとても役に立ちました。
息子はあり得ないスピードで本を次々と読み終え、「もうすぐ本を全部読み終わっちゃうから、新しい本をお願いします」っていつも私に頼んでくるんです。
息子の今の気分に合わせて本を選ぶ。
息子にヒットする本を選べるとすごく嬉しかった。
ついでに私も息子が読み終わった本を読んで、本の感想を話し合うのが楽しみで…。
ドラマ化したら配役を誰にするか、小説の中のフレーズを使って会話をしたり、小説の主人公になりきって思い出のシーンを二人でふざけて演じたりもして遊んでいました。
私が選ぶ本を通して、息子に共感したり、息子を励ましたり、寄り添ったり。
楽しい気持ちや元気のパワーを息子に届けられたらいいなって。
「人はひとりで生まれ、ひとりで死んでいく。この言葉って孤独に向き合う言葉なんだって。だけど、お母さんはあなたのことをいつも見守っているからね。いつだってあなたはひとりじゃないよ。」
息子にさらりと伝えていました。
そして、そんな気持ちを込めて選んだ本は、息子のポケットの中にいつもお守りのように入っていました。
息子が教室登校に慣れたころ、本を読むペースが落ちてきました。
不登校の頃に見つけた息子のリソースを使って、お友達と休み時間に遊ぶようになったんです。
「モノマネ」をお友達同士で披露し合って、みんなでモノマネの練習をしたりして、いつの間にかクラスのムードメーカーに変身してました。
「笑いすぎてお腹が筋肉痛になっちゃった!お腹が痛いよ~!」
と笑う息子を見て、めちゃめちゃ感動!
トイレから出られない腹痛じゃなくて、筋肉痛になるほど笑い過ぎてお腹が痛くなる日がくるなんて…。
不登校の頃に必死で息子のリソースの種を探したことで、再登校後に少しずつ芽が出て来ているように感じました。
だけど、せっかくお腹が痛くなるほど笑いあえるお友達ができたのに…進級すればクラス替えがある。
試練を1つ乗り越えると、また新しい試練が目の前に立ちはだかりました。
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