『82年生まれ キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ)
著書名:『82年生まれ キム・ジヨン』
『82년생 김지영』
著者名:チョ・ナムジュ(조남주)
1978年、ソウルで生まれた。梨花女子大学校社会学科を卒業し、<PD手帳> <不満ゼロ> <生放送 今朝> などの時事教養番組作家として10年ほど務めた。2011年に長編小説『耳を傾ければ』で文学ドンネ小説賞を、2016年には長編小説『コマネチのために』でファンサン(黄山)ボル青年文学賞を受賞した。
あけましておめでとうございます。
2020年、ことし一年も韓国文学に関する情報やレビューをtwitterやnoteを中心に紹介していければと思います!
新年最初のレビューは韓国で2016年に出版され約20ヶ国語で翻訳出版、また2019年にはコン・ユとチョン・ユミ主演で映画化もされた『82年生まれ、キム・ジヨン』です。
日本語でも翻訳版が出版され、かなり話題になりましたよね。昨年のK文学流行を象徴する作品でもあります。
*できる限りネタバレをしないように簡単な流れだけを紹介しています。
<あらすじ> (韓国語版をもとにレビューを作成しています)
この小説は主に6部から構成されており、その区分は次のように時系列で区分されています。
1. 2015年秋
2. 1982〜1994年
3. 1995~2000年
4. 2001~2011年
5. 2012~2015年
6. 2016年
詳しくみていきましょう。
1. 2015年秋
小説の始まりは、2015年の秋です。1歳になる娘を育てながら家事をこなすジヨン。その夫であるチョン・デヒョンはIT系列の中堅企業に務めるサラリーマン。忙しい夫にかわりジヨンが育児を全ておこないます。この章でのポイントは、’ジヨンの一風変わった症状’です。ある日ジヨンの口から突然(ジヨン)母親の口調でデヒョンに話しかけます。少し変だなと思ったデヒョンでしたが何かの冗談で母親の真似をしているのかなぁと思うだけです。
しばらくして、大学時代ジヨンの登山部の先輩でありデヒョンとも同級生だったチャ・スンヨンの口調で話をはじめたりと症状がひどくなっていきます。問題は、ジヨン本人がまったく気づいておらず、無意識の状態でこのような’憑依’とも言える症状が現れることです。いわゆる産後憂鬱症なのか、それとも他に精神的な病気なのか心配になった夫は精神科医のもとに相談しにいきます。
2. 1982〜1994年
この章では、主にジヨンの小学校(国民学校)時代のエピソードが書かれています。小学校というのは子供からしたら最初の社会生活とも言えるほど人間関係の難しさを学ぶ場でもあります。ここでは主に2つのエピソードが軸になっています。
一つ目は、授業中にジヨンにちょっかいをよく出してくる隣の席の男子生徒との話。二つ目は、学校での給食を受け取る順番(男子→女子)の話。
二つの話を通して、ジヨンは幼いながらに男子と女子の間に置かれている待遇や扱いの違いに違和感を持ち始めます。
他にもジヨンと弟との関係を通じて、このような男女間の違いが語られています。
3. 1995~2000年
中学に進学したジヨン。ここでのエピソードは中学校での男女間の服装の違い(男子生徒だけ運動靴を履いてもいいなど)についてが中心です。高校に進学してからは、実際に経験した痴漢やストーカとも言える被害をジヨン自身が実際に経験するようになります。また、大学進路を決定する際も女性としての難しさを経験します。
4. 2001~2011年
大学時代から社会人生活を扱うこの章では、就活と会社での仕事(昇進や会食)を軸に女性としてジヨンが経験したことが紹介されています。ジヨンの恋愛や先輩との関係、就職活動などを通して女性がどのような困難を抱えているのかについて見ることができます。また、前のこれまでの章でもそうなのですが、ところどころ必要なところでは韓国の男女比較をした統計結果を引用しています。ジヨンが経験している出来事がけっして個人的で一部の人だけが抱えている問題ではなく、韓国社会で女性全般がそのような境遇に晒されているということが強調されています。もちろんジヨンの母親や姉、同級生や先輩を通しても語られています。
5. 2012~2015年
結婚、出産、そして育児。婚姻届にある"子息の姓"に関する話から育児観の話などが盛り込まれています。主にジヨンとデヒョンという夫婦の会話を通して生じる問題が男女問題に置換されるかたちで話がすすみます。もちろんデヒョンが悪意をもっている’悪い人’という訳では決してありません。ジヨンのことを思って、という意図にジヨンの考えとズレが生じてしまうのだと思います。
6. 2016年
ふたたび現在に戻ってきます。今までの話はデヒョンの紹介でジヨンが通っている精神科医が、ジヨンの話を元に書いた話であることが明かされます。この男性精神科医はジヨンの回復と幸せを願っています。しかし、その反面では自身が抱えている家族問題、また院内の看護師との関係を通して医師としての彼と’男性’との彼という二重の姿がよく浮き彫りになっています。
小説を大きく整理するとこのようなあらすじになっています
<感想>
小説のなかでジヨンが成長しながら、女性としてどのような経験をしてきたのか様々なエピソードを通して読者は見ることができます。もちろんここに紹介した簡単な流れには含まれていないジヨンと家族の関係だったりも小説では詳しく語られています。
ジヨンの個人的な話を聞くと、’でもこれってジヨン個人の話じゃない?’とか’小さな問題にジヨンが深刻に考え過ぎなだけでは?’と感じる方ももしかしたらいるかもしれません。先にも言ったように統計を通してジヨンの経験が決して一部の人に限った話ではないことを知ることができます。また、ジヨンは基本的に何か女性としての問題にぶつかった時に、沈黙を通します(もしくは沈黙を強いられます)。しかし、そのような状況で女性としての苦悩を告発するのはジヨンの側にいる女性達です。母親や小学校の同級生、そして会社のチーム長など。ジヨンが耐えられない瞬間にはいつも側にいる女性達が声をあげます。ジヨンに憑依するのが’女性だけ’という点を考えても、ジヨンの体を通して多くの女性の声を聞かせることが作者の狙いなのではないでしょうか。ジヨンという人物を通して彼女を取り巻く環境や境遇が決して個人的な問題としてだけ扱われるのではなく、韓国社会に生きる女性としての普遍的な問題であるということを私たちは目撃することができます。
昨年映画化された『82年生まれ キム・ジヨン』は、小説に続き再び韓国で話題になりました。実際映画館で見たのですが、満席で映画の上映中には泣いている女性も多かったです。
この本は、まさに(この本の裏表紙に書いてあるように)
”韓国社会で女性として生きていくこと
その恐怖、疲労、戸惑い、驚き、混乱、挫折の
連続についての人生現場報告書”
であると思います。
ぜひ、日本語の翻訳も出ているので一読してみてください!
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