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生成AIは人材育成の敵か、味方か? ─ 新事業開発での活用から見えてきたこと

はじめに:AIと人材育成に関する一般的な懸念

生成AIの急速な進化により、ビジネスの様々な場面でAIの活用が進んでいます。しかし、その一方で「AIが人間の仕事を奪うのではないか」「若手社員の下積み業務が代替されて、成長機会が失われるのではないか」という懸念の声も多く聞かれます。私も当初は、人材の育成には一定レベルの経験量が必要であるという考えから、これらの懸念に同意していました。しかし、現在は新事業開発やnoteの記事作成で生成AIを積極的に活用してきた経験を通じて、この考えはちょっと違うのかな、と思うようになりました。

個人的な経験として感じているのは、AIとのコラボレーションは、予想外にも私自身の成長を促し、新たな学びの可能性を拡げてくれているということです。本稿では、私の実体験をベースに、生成AIが人材育成にもたらす効果について探っていきます。

【経験1】noteの記事作成を通じた成長

まず、noteの記事作成を通じた成長の実感について書いていきます。
生成AIを活用する前にnoteの記事を執筆する際は、基本的に自分の知識を総動員してよりよいアウトプットを創造することに集中していました。確かに一般的な情報は検索で確認しましたが、主に自分の頭の中にあるものを絞り出す作業でした。記事を書き終えた時には、ヘトヘトでカラカラに枯れて、出し尽くしたという感覚になっていました。

しかし、生成AIを活用し始めてからは、この感覚が大きく変わりました。

1. 新たな気づきと発見:知識の吐き出しから学びの旅へ

生成AIを用いた執筆プロセスでは、既知の概念に関する新しい気づきや発見が次々と生まれます。AIが提示する多角的な視点や情報は、私自身の思考を刺激し、より深い理解を促します。

例えば、"Why now"の重要性について記事を書こうとしていた時のことです。私はこの概念自体を知っていましたが、AIに「"Why now"を考察する際の具体的な視点を5つ挙げてください」と指示しました。

AIの回答には、私が理解していた要素が体系的に整理されており、さらに意外な視点も含まれていました。特に、「先行者と侵略者」という視点は、私に気づきを与えてくれました。

「なるほど、"Why now"は市場参入のタイミングだけでなく、どのような立場で参入するかという戦略的選択にも関わるのか」

この気づきから、私はAIと対話を重ね、"Why now"に関するより詳細な視点を得ていきました。新事業参入における市場リスク、技術リスク、ビジネスモデルリスクという3つのリスクの観点など、"Why now"を考察する際の多層的な視点が明らかになっていきました。

その結果、記事を書き終えた時には、"Why now"に関する知識がより体系的に整理され、その実践的な適用方法についての理解を深めた感覚を味わうことができました。

この経験から、既知の概念についてもAIとの対話を通じて再考察することの価値を実感しました。AIが提示する多角的な視点や情報は、私自身の思考を刺激し、新たな発想を促します。その結果、記事を書き終えた時には、知識を吐き出し切った感覚ではなく、むしろ新たな学びで潤い、成長した感覚になるのです。

2. 具体的な執筆プロセスと各段階での学び

ちなみに、私の具体的な執筆プロセスは以下の通りです。

1.テーマとタイトルの決定(人間)
2.導入文の作成/個人の文体をAIが学ぶ(人間)
3.構成と見出しの作成(人間)
4.生成AIによる文章のタタキ作成(AI)
5.タタキの大幅なリライトと生成AIとの対話(コラボレーション)
6.人間が書いたラフな文章を生成AIで整形する(AI)
7.整合性と校正の確認(AI)
8.最終確認&リリース(人間)

小池のnote作成手順

このプロセスの中で、特に4から6の段階で多くの学びが得られます。AIが生成した文章を批評的に読み、リライトする過程で、自分の考えがより明確になり、同時に新たな視点を取り入れることができるのです。

現在は、知識を深めたいテーマがある時は、積極的にnoteを書くようになりました。執筆そのものが、AIとの対話を通じた学習の場となっているのです。そして、もちろんこの記事も生成AIとのコラボレーションによって書かれて、めちゃめちゃ学びを獲得しています。

【経験2】事業開発における生成AIの活用と成長

次に、事業開発における生成AIの活用と3つの成長について書いていきます。

1. 構造的思考の育成

事業開発においてAIを活用する際、狙い通りの内容と品質の成果を得るためには、自分の考えを構造的に整理してAIに伝える必要があります。AIは私たちのように空気を読んだり、文脈を推測したりはしません。

新事業プロジェクトで生成AIを活用しはじめた当初は、漠然とした指示をAIに出していたため、返ってきた回答は的を射ていませんでした。

「なんか、生成AIって一般的なことばかり回答してきて、使えないな。」という感覚になった方も多いのではないでしょうか?

現在は、私は指示を細分化し具体的な条件を付け加えていったり、ドキュメント型プロンプトの記述スキルを向上させたり、自分の考えを明確に構造化して伝えることで、AIからより的確なアイデアを引き出せるようになりました。

例えば、競合調査をする際は、目的やカテゴリ条件を明確に定義するなど、工夫をしています。

1. ** 国内競合分析 **
‐この分析を通じて、自社の提案サービスが市場内でどう位置づけられ、どのように競合と差別化できるかを明確にします。
‐カテゴリ1〜3について{#カテゴリ条件}のマッチ度が高い競合サービスをカテゴリごとに5個ずつ調査してください。

#カテゴリ条件
   - **カテゴリ1(完全競合)**: 同じ顧客層を対象とし、同様の問題を解決する方法を提供する競合。
   - **カテゴリ2(代替競合)**: 同じ顧客層を対象とするが、異なる解決方法を提供する競合=代替品。
   - **カテゴリ3(目的競合)**: 顧客層は同じで、解決するジョブは類似しているが、具体的な課題や解決策が異なる競合

競合調査ドキュメント型プロンプトの一部

生成AIは自分のリアルな写し鏡となっています。そのため、言葭を厳密に使い、自分の考えを論理的に整理し、明確な評価軸を設定する必要があり、そのスキルが強制的に磨かれていきます。

これは、汎用スキルであるプレゼンテーションやコミュニケーションスキルの向上にもつながる貴重な経験となっています。

2. 視野の拡大と創造性の獲得

AIは、私が必要としているテーマに関して、多角的な情報や視点を提供してくれます。これにより、自分の視野が大きく広がり、新しい思考のフレームワークを獲得することができます。

例えば、エンターテインメント企業のグローバル展開戦略を検討していた際、AIが提示した「各国におけるコンテンツの受容性とフォーマットの多様性」という視点は、新たな洞察をもたらしました。この視点から分析を進めたところ、以下のような興味深い傾向が浮かび上がりました。

コンテンツの文化的受容性の違い:
・アジア圏では、特定のジャンル(例:アニメ、ドラマ)において強い親和性が見られる一方、欧米では異なるジャンルや表現方法が好まれる傾向にあることが分かりました。
・これらの違いは、各地域の文化的背景や、メディア環境の発展過程などに起因していることが示唆されました。

コンテンツフォーマットの受容性の違い:
新興国市場では、モバイルファーストの環境を反映し、短尺コンテンツの人気が顕著でした。
・一方、成熟市場では、長尺コンテンツやシリーズ形式が依然として強い支持を得ていますが、視聴形態の多様化が進んでいることも明らかになりました。

AIから生成された洞察例(超抽象化版)

この洞察は、我々のグローバル展開戦略に大きな影響を与えました。AIとの対話を通じて得られた視点は、グローバル展開における「ローカライゼーション」の本質的な意味を再考させ、より洗練された市場別戦略の立案を可能にしました。

このようにAIとの対話を通じて、多角的な視点や情報に触れることで、固定観念にとらわれない柔軟な思考が養われ、複雑な問題に対する新たなアプローチを生み出す力が育まれます。

3. 高速フィードバックループによる迅速な成長

生成AIの大きな利点の一つは、即時にフィードバックが得られることです。以前は、自分のアイデアや仮説を評価してもらうために、必要な情報を揃え、評価者のスケジュールを調整するなど、かなりの時間と労力を要しました。

しかし、AIを活用することで、このフィードバックループが劇的に高速化されました。アイデアを思いついたらすぐにAIに評価してもらい、その結果を基に修正を加え、再度評価を受ける。このサイクルを短時間で何度も繰り返すことができるのです。

例えば、新事業のコンセプトを検討する際には、自分が考えた事業コンセプト(顧客セグメントと課題、解決方法、収益モデル、競争優位性)に対しての客観的な評価に加えて、事業規模、成立リスク、先行事例、隣接領域、改善ポイントなどが瞬時に生成され、ブラッシュアップのヒントがすぐに得られます。これにより、従来は1サイクルしかできなかったフィードバックループが、無限に実行できるようになりました。結果として、試行錯誤の回数が飛躍的に増え、経験値の蓄積スピードが格段に上がりました。

この高速フィードバックループは、個人の学習曲線を急激に加速させ、短期間での能力向上を可能にします。つまり、短期間で多くの経験値を積むことが可能になります。さらに、多様な視点からのフィードバックに常に触れることで、思考の柔軟性と創造性も養われていきます。

生成AIがもたらす新たな人材育成の可能性

長々と経験を書いてきましたが、生成AIとのコラボレーションは従来の座学&OJTベースとした人材育成に大きな変化をもたらせる可能性があると感じています。
個人の経験としても、AIとの対話を通じて、多角的な視点/知識を獲得し、思考の幅を広げ、複雑な問題に対する洞察力を磨くことができます。さらに、高速なフィードバックループにより、経験値の蓄積が加速され、創造性と批判的思考力が育まれていきます。AIを活用して自らの能力を最大限に高める新しい自己学習モデルが構築されつつあると感じています。

生成AIを活用した自己学習モデル

1.自己主導型学習の促進

生成AIとの対話は、本質的に自己主導型の学習プロセスです。AIは膨大な情報を提供してくれますが、それをどう解釈し、どう活用するかは学習者自身が決定します。この過程で、自ら学ぶ力、問いを立てる力が自然と育成されていきます。

学習者は、AIとの対話を通じて自分の知識のギャップを認識し、それを埋めるために能動的に学習を進めることができます。これにより、生涯学習のスキルが培われ、常に変化する環境に適応する力が養われます。

2.創造性と批判的思考力の向上

AIの出力を鵜呑みにせず、批判的に評価し、それを基に新たなアイデアを生み出す過程は、創造性と批判的思考力の両方を鍛える絶好の機会となります。AIとの創造的な対話を重ねることで、これらのスキルが着実に向上していくのです。

例えば、AIが提示したアイデアの長所短所を分析し、それを自分のアイデアと組み合わせて新しい解決策を生み出す。こういったプロセスを繰り返すことで、創造的な問題解決能力が磨かれていきます。

3.効率的な知識獲得と応用力の強化

AIを活用することで、特定の分野の基礎知識を効率的に獲得できます。しかし、より重要なのは、その知識を実際の問題解決に応用する力が養われることです。AIとの対話を通じて、知識の文脈や関連性を理解し、それを様々な場面に適用する能力が磨かれていくのです。

AIは膨大な情報を瞬時に提供できますが、それを現実の課題に適用するのは人間の役割です。AIとのコラボレーションを通じて、情報を咀嚼し、実践的な知恵へと変換するスキルが育成されるのです。

これらの要素により、AIは個人の成長を加速させ、より適応力の高い人材の育成につながります。従来の教育方法では得られなかった、多角的で深い学びの機会を提供し、急速に変化する社会で活躍できる人材を育成する可能性を秘めているのです。

結論:生成AIと共に成長する未来

生成AIは、私たちの学びと成長に新たな次元をもたらします。AIとの対話を通じて、我々は多様な視点を獲得し、思考の幅を広げ、複雑な問題に対する洞察力を磨くことができます。高速なフィードバックループにより、経験値の蓄積が加速され、創造性と批判的思考力が育まれていきます。

しかし、AIへの過度の依存には注意が必要です。自主的な思考を促す取り組みや、共感力や倫理的判断力、実行力、調整力といった人間特有のスキル、つまり人間力を磨くことが重要になるでしょう。

これからの人材育成は、AIと共に学び、創造する力を育むものへと進化していく必要があります。AIリテラシーを高めつつ、AIを活用して自らの能力を最大限に引き出す方法を学ぶ新しいモデルが求められています。

生成AIは、決して人材育成の機会を奪うものではありません。むしろ、適切に活用することで、これまでにない学びと成長の可能性を私たちにもたらしてくれるのです。AIと共に学び、共に成長する姿勢を持つことで、AI時代において真に価値ある人材として自らを磨き上げていくことができるでしょう。

ではまた。

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