見出し画像

『エッセイ』<魅せる>本屋さんについて考える

毎週水曜日はエッセイもしくは雑文の日。実は他のテーマを考えていたのだけれど、こんな企画があったので乗っかりたいとおもってしまいました。

#本屋さん開店します

本、と名のつくものを僕が外すわけにはいかない、ということで。ニコニコ。
こちらの企画はメディアパルさんからです。

そして、こちらの企画を知ったのは松ぼくりさんの以下の記事からです。






専門書店は経営が難しい

初めて絵本専門店というものを知ったのは、デザイン学校で絵本の講義を受講していた頃だった。当時は、田島征三さん長谷川集平さんといった新進気鋭の作家が続々と生まれていて、業界にも勢いがあった。そんななか、東京の「クレヨンハウス」、四日市の「メリーゴーランド」と並んで有名だったのが、名古屋の「メルヘンハウス」。年代的には「メルヘンハウス」が一番早く、オープンは1973年だったとおもう。


絵本の講義で作った自作絵本/撮影takizawa


授業の一環でもあり、「メルヘンハウス」には何度か訪れたことがある。もう何十年も前のことであまり正確には記憶がないけれど、子連れのお母さん方がいらっしゃって、こちらは時には若い男子学生が2、3人。すごく居心地が悪かったことだけは覚えている。

そんな具合に有名どころがあったせいだろう、絵本専門店、というのがある種流行のようになっていて、3つのお店に続くように、地方の都市でも小さな個人経営の絵本や子どもの本のお店が幾つもできては何年も保たずに消えていった。若い女性がああ可愛い〜、とか言って、ひとりでできるようなものではないのだ

それから20年ほどして、僕はある文芸サークル誌に参加して小説など載せてもらうようになった。そんな頃、名古屋の駅前、といっても駅から地下街を真っ直ぐ東へ歩いて突き当たりを上がったところに、詩歌の専門書店が店を開いていた。そこの若い女性店主と僕はすぐに顔見知りになり、当時は自費出版本の販売と言えば大半がコミケだったので、文芸誌など自分たちで売れるような場所はなく、そのお店に置いてもらったりした。女性店主さんは歌人の水原紫苑さんを「紫苑ちゃん」と呼ぶような人で、短歌結社の話題などで大いに盛り上がったけれど、置かせてもらった本は一度も売れなかった。そうしてそのお店も採算が合わなかったのか、気づけば郊外に移転してしまった。


当時参加していた文芸サークル誌「ふらら」/撮影takizawa


最後に個人経営のような小さな本屋さんというか、その手のお店と僅かにご縁があったのは、僕も起業家としてコミュニティペーパーを作っていたときだ。本屋さんではないけれど、ブックカフェ、というものを特集したのがそれ。それこそ郊外の、2軒続きの平屋の半分を改装した小さなお店で、ブックカフェというよりはむしろ、カフェとブック、と言ったほうが近い体のところだった。ごく狭い店内のコーナーごとに3本ほど、2メートルにも満たない普通の家具の本棚が置かれてあって、特別テーマがあるわけでもない本が雑然と並べられていた。こちらも店主は学生のような顔をした若いお兄さんで、それでもコーヒーには一家言あるらしく充実していたけれど、ご本人は狭い店内の一番奥にぽつんと立っていて、じっと見られているようで落ち着かないこと甚しかった。でもここは逆に、しばらくしてもう少し都心部に近いところへ出て行ったので、彼に経営の才があったのかもしれない。


来店してもらうのに、こんなお店なら?

最後のブックカフェは別として、個人経営のような小さな本屋さんはなかなか続けることが難しいようだ。それこそ経営的なことを言えば、お客が来てくれないことには如何ともし難い。ごく狭い専門的なニッチな部門を狙えばそれに強いこだわりのある人が来てくれるかもしれないけれど、品揃えという点で言えば、たぶんネットには敵わない。何よりネットではできない、その場所(というか、それが実際にあるところ)でなければ楽しめない、そんな仕掛け。それがいるのではないだろうか?

思い至った場所がある。美術館や博物館。たくさんの展示品や収蔵品を味わうには実物を見るに越したことはないし、例えば◯◯展、とかの企画展などは、テーマに沿った作品が一堂に介していることで雰囲気に接することができる。もちろんweb展示、とかいった形もあり得るけれど、作品の持つ力だったり熱量だったり、webでは得られない感慨がそこにはある。重要なのは、一度に数に当たることができるということ。ネットでは、ある程度の量の実物に一度に当たることはほぼ不可能に近い。

そこで考えたのだけれど、<見る>ということに特化してみたらどうだろう? 最近の出版物は、フィクションに限らずエッセイやビジネス書でも、ときには哲学書でさえ、著名なイラストレーターがカバーを描いていることが結構ある。それは新しい小説に限ったことではなく、近代文学や古典にも広がっている。そういった、カバーイラストを<見せる>本屋さんがあっても面白いのではないか?

例えば宮島未奈さん『成瀬は天下をとりにいく』のカバーで有名なイラストレーターのざしきわらしさんなど、他にもいろんな仕事をしていらっしゃって、数を集めれば十分見応えがある。もちろん本だから内容が重要なのは言うまでもないけれど、カバー絵とストーリーの関係とか、アイデア次第でいろんな面白い企画ができそうだ。一冊一冊はネットで見ることができるけれど、カバー絵展とか、一度にたくさんその面白さ・楽しさに出会うには、それ専門の本屋さんがあるとよい


こちらも売れたのはカバーの影響もあるかも? 「百年の孤独」ガルシア・マルケス/新潮文庫
 takizawa蔵書


そんなに広いお店でなくてよいとおもう。それこそ生涯学習センターの一室とか、その程度の広さにあとはお茶が飲めるスペースが併設されていて、本は閉じた状態のそれと広げたカバーが、真ん中に置かれた平台に並べて平置きにされている。そしてここからが重要なのだが、美術館などで言うキュレーター、学芸員のような人がいて、本の内容とイラストレーターどちらにも精通している。場合によってはカバー絵の原画展を開催したり、キュレーターが発掘した新人作家と新人イラストレーターをマッチングするイベントを開催したり、そんなことがあってもいいかもしれない。

何にせよ、そこに行くことで楽しめること、ネットではできないこと。昔、「<見せる>は<魅せる>」と言った人があったけれど、<見せる>はお店に来てもらう方法のひとつになり得るのでは、と僕はおもうのだけれど、いかがだろうか?




今回もお読みいただきありがとうございます。
他にもこんな記事。
◾️辻邦生さんの作品レビューはこちらからぜひ。

◾️これまでの詩作品はこちら。

散文詩・物語詩のマガジンは有料になります。新しい作品は公開から2週間は無料でお読みいただけます。以下の2つは無料でお楽しみいただけます。

◾️花に関する詩・エッセイ・写真などを集めます。
#なんの花・詩ですか  をつけていただければ、マガジンという花壇に
 植えさせていただきます。ぜひお寄せください。




いいなと思ったら応援しよう!