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2025年3月に「夢における空間論」を書き上げるまで

旧「2023年3月に博士論文を書き上げるまで」。博士論文を書き上げるまでの日々を綴っていました。今は延長戦中です。月に1回フランクな研究報告書がとどきます。どうVR×建築の研究が…
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記事一覧

研究日記2025年1月の報告書。

未来についてある時死にたい気持ちがして、それをChatGPTに話してみたら、それは疲労や身体の状態があなたに見せる幻だ、と言われた。死にたいという感情は自分の意思ではなく、外在的な要因によってみせられる幻覚のようなものだというのである。道元の「衆法合成」を思い出した。主観はさまざまな世界の要素がたまたまそこで集結して“発生”するものであって、自分のものではない。仏教の世界観だ。 とはいえ、大きな蜘蛛が幻覚と言われれば、見えているものは物理的に存在しないわけで、何が本物で何が

研究日記2024年12月の報告書。

はじめにうまく言えないことを書いておく。 とある大学の公募の面接で、論文を書く気はあるのですか、と問われた。建築系としては最低限には書いている方と思うが(そもそも建築意匠系に論文を書く文化はほとんどない)、コンピュータサイエンスなどの方に寄ればよるほど圧倒的に少ない。僕としてはもちろん書く気はあるが、より主観的な視点も挟める論考も重要と思っています、というような答え方をした。実に損な答え方だ。 面接の最後に審査員の一人から、論考も重要と思いますが、時間的な耐用年数という意

水のない池に飛びこむ蛙

芭蕉に「古池や蛙飛びこむ水の音」という句がある。この句を聞くと、池に蛙が飛び込みチャポンと音がする情景が見え、聞こえる気がする。それはある種のVRのように、僕らを別の世界へ誘うようにも思える。 しかしこの池には本当は、水は入っていなかったのではないか、と最近思うようになった。この池はどうも芭蕉庵のそばにあった池らしい。魚の生簀などとしても使われていたらしいが、芭蕉が句を読んだ時はすでに池は枯れていて、ただ土の窪みがあっただけなのではないかと思うのである。 芭蕉がかつての池

研究日記2024年10月の報告書。

Hills Breakfast登壇今月のHills Breakfastに登壇した。会場は虎ノ門ヒルズ。朝は早かったが面白かった。実験YouTuberとしての資金を株で稼ぐたんくんさん、発達特性のある小児の課題に取り組む医者の西村さん、着物の文化を伝える伊藤さんとの登壇だった。皆さんのお話が面白かった。着物は、鏡を使わないで着付ける方が綺麗に着られるという話などが印象的だった。 クマ財団同期の團上君が朝から聞きにきてくれていた。朝早いイベントだったので、彼は朝ごはんのパンとヨ

研究日記2024年9月の報告書。

今月は素晴らしい本や作家に出会えた月だった。月の前半は忙しかったし、全体的に細々とやることはあったが、あまり記憶がない。月の前半と後半で大きく印象が分かれていて、前半はもう2ヶ月か3ヶ月ほど前のように遠く、後半は眠ってばかりいたので記憶が曖昧である。正確に言えば後半は、一日12時間くらい寝ていたものの10時間くらいは作業していたし、色んなことを考えていたはずなのだが、あまり印象に係留していない。そして本ばかり読んでいた。そのことだけを覚えている。 今月読んだ書籍『なつかしい

研究日記2024年8月の報告書。

宮大工棟梁・西岡常一さんのこと今月、最後の宮大工といわれる西岡常一さんのことを知った。西岡さんは元々法隆寺の修繕をする宮大工の家系に生まれた人である。のちに薬師寺の西塔の再建にも尽力された。西岡さんのお話はYouTubeでもみられるし、Amazon プライムでドキュメンタリーを観ることもできる。どうして知ったかというと、井伏鱒二の話し方が急に知りたくなってYouTubeの動画を漁っていた時に、偶然おすすめに出てきたのであった。 やはり卓越した木についてのお話が面白かった。法

研究日記2024年7月の報告書。

はじめに今月はなんだか早かったような気がする。印象的なこととして、畑田君と収録しているPodcastの収録を3回連続で失敗した。一度目は僕が寝坊してしまい、二度目は僕自身の研究についてのディスカッションが白熱しすぎて、4時間ほど話しっぱなしでPodcastの収録はできずに終わった(有意義ではあった)。三度目は予約したはずの部屋が取れていないトラブルがあり収録できなかった。僕は一か月ほどの間、あまり人と話さない。そのため畑田君と話すとディスカッションでえらいことになる。まずは僕

研究日記2024年6月の報告書。

時代を考えることについて現代は、時代を考えることにリアリティがなくなった時代、と言えるのではないかと思う。自分はどこから来てどこへ行くのか。時代をどう掴まえ、どう応答するか。そういう問題と個の存在が離れてしまった。その結果として現代の多くの言説はふわついていて、足場がない。 LLMもApple Vision Proも、正直なところ、そういうのもういいよと半分では思っている。技術を持て囃すだけの愚な議論にもう飽きた。皆は飽きないのかしら? 長く作業をするときに、よく宮崎駿さ

研究日記2024年5月の報告書。

今月も実に暇だった。暇すぎて心の調子を崩した。そんなことってあるのかと思った。いや暇すぎたせいなのかはわからないけれど、とにかく調子は変だった。5月の中旬くらいに、毎日驚くほど頭が痛く、やる気は出ず、上半身の両腕あたりの表面が、熱を出した時のようにおぼろげで悪寒が走り、座っても寝てもいられなかった(と言っても熱はないし、下半身は普通だった)。白花油を額に塗り、親の仇のように香をこれでもかと焚き続け、頭痛薬をしこたま飲み、リポビタンDをごくごくと何本も流し込んでなんとか座ってい

研究日記2024年4月の報告書

この4月のことこの1ヶ月は自分でも驚くほどに何もなかった。仕事が決まったりはしたし、研究員の仕事は(多少は)していたけれど、とにかく暇だけがあった。3月末から4月初旬にかけていくつかの重要なメール(その中には設計事務所で働いてみたいという相談のメールもあったし、頼まれていたことへの返答もあった)を送ったけれど、多くの人の4月の忙しさのせいか、メールの内容が悪いのか、ほとんど返信は返って来なかった。エアポケットに入りこんだように、ほとんど誰とも会わず、何も起きなかった。 本だ

研究日記2024年3月の報告書

今月は異様にのんびりしていた。ほとんど大人の夏休みだった。モラトリアム。もちろん仕事もしていたけれど、それよりも膨大に本を読み、展覧会を訪れ、いくつかの文章を書いた。たくさん読み、なにかを書いてみるほどに、自分が何を考えようとしているのかよく分からなくなった。たくさん考えたような気もするし、何も考えていなかったような気もする。時間は溶けた気もするし、長かったような気もする。一人になると、時間感覚はバグって長短のコントラストが異様にくっきりとして記憶が朧げになる。 そういう1

研究日記2024年2月の報告書

1. 東京都現代美術館での展覧会、大詰め現在、自作を3作品展示中の東京都現代美術館にて、2月23日、2月24日にギャラリーツアーを実施した。23日に1回、24日に2回実施し、各回ともに20人から30人の方が参加してくださったようだった。 3月2日にも1回、3月3日にも1回ギャラリーツアーを実施する。Virtual Renovationのデモも、特段トラブルがなければ、この機会にのみ体感してもらえる。 日時|①3月2日(土)16:00~ ②3月3日(日)17:00~ 各回1

研究日記2024年1月の報告書。

12月からコンペに取り組んでいるものの、うまくまとまらずにパニック気味。考えた内容やアイディアは沢山あってもプレゼンとしてうまくまとめられない。難しい。パニック気味な月末。 ツイートで自分を奮い立たせてみたが悪手だったかもしれん。 新建築の巻頭論考の執筆新建築の原稿を急に書くことになって、10日ほどで書き上げて一週間ほど細かくやり取りして校了した。内容は、博士論文で考えたことをまとめた。期間こそ短かったものの大変貴重な機会でありがたい限りだと思った。 そういえば、このn

研究日記12月の報告書

1. MOTでの展覧会東京都現代美術館の企画展「アニュアル展extra」にて、新作2つを含む3作品を出展している。 ひとつは博士論文をまとめ直した『歴史におけるVR的なもの』、2つ目は2019年のMR時代の都市構想『Virtual Renovation』(デモは新しく作り直した)、3つ目は新作のコンセプト『Off-Real』の展示である。 このnoteマガジンは「夢」についての原稿を今年度末までに書き上げることを目標としてきたが、美術館の展示という形で期せずして一つの段