白・黒・モノクローム:2 /五島美術館
(承前)
五島美術館の建築は、吉田五十八の設計。平安時代の寝殿造を模しており、バックヤードの部分を除くと、おおむね「凹」字の形をなしている。
展示室はもともと右側の出っ張りのみだったが、2011年の改修を経て、左側の出っ張りにも小ぶりの展示室ができた。
今回は右側の第1展示室で「白・黒・モノクローム」を開催するいっぽう、第2展示室では、特集展示として日本のやきものを公開。「白・黒・モノクローム」に該当するやきものから、黄色いやきもの、赤いやきもの、緑のやきもの、古九谷の色絵磁器までがぎゅっと詰め込まれていた。
入ってすぐの覗きケースにあったのは、愛してやまない《黄瀬戸平茶碗 銘 柳かげ》(桃山時代・16~17世紀)。見込の、みずみずしいツヤ! ほんとうによい。
きょうは、鉄釉の焦げが気になった。トーストの焦げ目を思わせるこんがりが見込に貼りつき、けっこうな盛り上がりとなっている。他に、目跡や降りものもある。いっぽうで、印花のところには凹みもあるはずで、茶筅が引っかかって点てづらいだろうなと思われた。丈も低いことであるし……
「平茶碗」とされているが、他の黄瀬戸の「茶碗」と同様、本来は向付としてつくられたと思われる。見立ての転用には、使いづらさがついてまわるものだ。
でも、そんな欠点に目をつぶってまで、このうつわで点てたいと茶人に思わせた……その事実こそが大事であるし、わたしにもその気持ちは痛いほどよくわかる。
光悦《赤楽茶碗 銘 十王》(江戸時代・17世紀)。写真よりも、赤は強めだった。かなり大ぶりの茶碗。
キャプションの銘をみて、これを十王、すなわち閻魔大王と認識してしまうと、あの赤ら顔が頭から離れないもの。
けれども、赤くて大きかろうとも、形(なり)だけを観れば、たいへんおおらかである。家元の書付にある銘とのことだが、十王という物々しい名前には似つかぬほど穏やかで、飽きのこないかたちだと思う。両の手のひらで、ぜひとも抱えてみたい……
《織部舟形手鉢》(桃山時代・17世紀)。竹や籐の籠を模した形状と思われる。
目の醒めるような、緑釉の発色がすばらしい。その流れや溜まりを、いつまでも眺めていたいほどだ。たまらなくよい。
そちらについ目が行って、おろそかになりがちなのが、謎多き文様である。織部の文様には、なにを表しているのかわかっていないものが多くある。
本作の見込に描かれる細長い「なにか」も、説明しようとすれば、解説にあるように「短冊風」とでもいうしかない。われわれの知っている短冊に近いけど、ちょっと違うから「風」。これがなんなのか、あれこれ考えてみるのもおもしろい。
考えるといえば、盛り付け。これだけ緑が目立つと、さらに緑を重ねるのは野暮か。刺身などを、ちょこっと盛るのが正解であるのだろう。
庶民派のわたしとしては、舟形ということで、たこ焼きを乗せたらどうか?……などと、いつも考えてしまう。無粋と罵られようが、頭のなかで考えるだけなら、まったくもって自由なのである。(つづく)
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