世界を旅する「ノマドシェフ」という生き方が面白い【全文無料】
働く場所を一箇所に決めずに、あちこち旅をしながら働く人たちのことをノマドワーカーと呼びますよね。10年ほど前からよく耳にするようになりました。
このノマドワーカー、実は飲食の世界にもいるのをご存知でしょうか。
ノマド × 飲食。つまり時間や場所に囚われないレストラン経営のことです。私も最近知りました。
興味深い働き方のひとつなので、ここでシェアしておきたいと思います。
現地で食文化を学び、仕入れも行なう
先日こんな記事を読みました。
25歳の若きシェフ、ジェームス・シェルマンは、仲間とともに世界各地で期間限定のポップアップレストラン (*) を開催しているシェフの一人。
「20ヶ月・20ヶ国・20のレストラン」を開くことを目標に、2年間ホームレス生活になることを覚悟で旅をしているのだそうです。
(*)ポップアップレストランとは、不定期・不特定の場所に出現するレストランのこと。空き店舗などを利用することが多い。
彼らの活動が面白いのは、ひとつはどんな場所でもレストランにしてしまうところ。
「どこでレストランを開くか、ルールはない」
バンコクでは高層ホテルの53階で、現在滞在中のインド・ムンバイではAirbnb(エア・ビー・アンド・ビー)で見つけた一般人のお家のキッチンと居間をレストランにしてしまうという。
20ヵ国のうちのひとつ、ネパールでは、なんとエベレストでのポップアップに挑戦。旅とレストランを掛け合わせた強烈な顧客体験を提供したのです。
エベレストにレストランをオープンしたところで、登山してまで誰が来るんだ、とはじめは冗談だと受け流していた。「でも最終的に『いや、できるかもしれない。ぼくたちが真剣なら、きっとみんなついてきてくれるだろう』という結論に達したんだ」
もうひとつ興味深いのは、食材が現地調達であるという点です。
現地の市場に出向くのはもちろんですが、野菜の収穫を手伝ったり、調理法や美味しく食べるコツを地元の住民から聞いたりもします。
ポップアップで提供するメニューを考えながら仕入れを行ない、同時に自国では決して学ぶことができない、他国の食の知恵も身につけることができる。
この経験はシェフたちにとってまたとない貴重な資産となっているはずです。
こちらの動画に出てくる、シェフで冒険家のジョック・ゾンフリロもそう。
この回の舞台となっている屋久島では、地元の漁師と海に潜ったり、シカを捕まえるために罠を仕掛けたりと、冒険家らしくアクティブに学ぶ姿勢が印象的でした。
食べ慣れない鹿肉のレバ刺しや、魚の白子も気に入ったようです。
顧客にとっても初めてづくしの体験ができる
唯一無二の経験ができるのは顧客も同じことのようです。
遠い国からやってきた若手シェフによって、自分たちの馴染みの食材がまったく新しい料理に生まれ変わる。
日本でいうと、フレンチにご飯が出てきたり、洋食に味噌を使ったりするような感じでしょうか。
絶対合わないような気がするけど、仮にそれが驚くほど美味しかったら、一生忘れられない味になることでしょう。
また冒険家シェフのジョックは "世界の食文化" を自国に持ち帰っては地元レストランで提供しています。
顧客は行ったことも見たこともない辺境の地の食を、プロの料理人によるアレンジで贅沢に楽しむことができるのです。
白子、鹿肉、たこに黒ニンニク。
どれもおよそ西洋人が好むとは思えない食材ばかりでヒヤヒヤしながら見ていたのですが、初めは名前を聞いただけでしかめ面をしていた客たちも、そのほとんどが完食し、ディナーは大成功をおさめたのでした。
シェフと顧客、両方にとって初めてづくしの時間。
こんなにワクワクドキドキするレストランは聞いたことがありませんでした。
シェフだって自由きままでいい
ところ変わってこちらの彼、セオ・フリードマンは、自分ブランドのポップアップダイニングのみで生計を立てている23歳のシェフです。
ニューヨークの小さなキッチンスタジオを拠点に、アメリカ各地で自由気ままにポップアップを開催しているのだそう。
「会場は僕のキッチンスタジオの日もあれば、裏庭やカクテル・ラウンジの日もある。参加者だってお一人様からカップルまで十人十色だよ」。
自由すぎませんか。と言いたくなりますが、これが毎回チケットが完売するほど人気なのだそうです。
ただ23歳と若いですから、長年にわたって修行を積んだというわけではなさそう。
レストランでのキッチン経験はあるものの、レシピはYouTubeと料理本から学んだ程度で本格的に料理を学んだわけではない。
やはり。
これ、ポップアップレストランをやっている人たちの大きな特徴なんです。
中にはプロもいるのですが、多くの若手は独学で料理を学んでいるんですよね。
だからか、良い意味で常識はずれだったり、コンセプトが独創的で風変わりなのが魅力だったりするのです。
セオのフルコースは“当日解禁”。一切告知はない。さらに「頭の中のアイデアと、実際お皿に盛りつけられた料理は全然違う!なんてことも多々あるんだ」というから、馴染みの客になってもいい意味で裏切られそうだ。
参加者からのリクエストは一切受けつけず、あくまで「自分の作りたい料理」を提供と少々強気な姿勢。
羨ましいぐらい自由気ままですね。この辺を読んでいると、雇われるのが向いていないっていうのが少しわかる気がします。
ちなみにチケットの宣伝方法はSNSとメルマガだそうです。
高い家賃や広告費など、余計なことにお金が掛からないからでしょうか。
物価の高いニューヨークで、10〜15品のフルコースが1万円前後というのは嬉しい価格帯。
最近は海外にも足を伸ばしているのだそうです。
10年ほど前にアメリカでポップアップレストランが流行し始めた背景には、若手シェフの資金不足がありました。
腕はいいのに資金がない。
そのため独立を目指すシェフたちは、自らの実力を広く知らしめて投資家を募るために、低資金でオープンすることが可能なポップアップレストランを相次いで開催したというわけです。
しかしセオのように、好きな場所で好きな料理を好きなように作りたいという考えの持ち主には、むしろ外野からの資金は不要そうですよね。
料理人にもこんな自由な働き方があるなんて、若い人たちへの希望になりそうです。
*
ノマドシェフという働き方は、単なるお金儲けのための職業のひとつではなく、料理人としての生き方の選択なんだということがわかりました。
このさき日本人でも有名なノマドシェフが出てきたりするのでしょうか。同じ業界にいるものとして非常に楽しみです。
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