ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。大きく分けて数パートに分かれていて夫々が緩く繋がっているという、いつものホン・サンス。今回は女性小説家ジュンヒが主人公になる。彼女はずっと昔に小説家仲間だったが今は引退してしまった旧友に会うため、彼女が経営する本屋にやって来る。その帰り道、恐らく彼女の小説を映画化しようとして断念したという知り合いの映画監督夫婦に偶然出会い、彼らと歩いていると少し前に引退してしまった若い元女優と偶然出会い…と偶然の出会いが連鎖していく。登場人物全員が芸術関連の仕事をする中で、若い二人の人物(元女優の夫の甥と本屋の店員の女性)以外は創作に行き詰まりを感じていて、大なり小なり他人と比較してしまっている。そんな人々への讃歌である。本屋の女性店員が、ジュンヒの本の一部と思わしき一節について、勉強中の手話に翻訳するというシーンがあり、それをジュンヒが"新たな表現言語の獲得"のように嬉しそうに受け取る姿が美しかった。あと、キム・ミニが黒い革ジャン来てるんだが、ハレーション起こすくらい明るい外を背景に室内で話しているとこのコントラストが好き。最後にキム・ミニとの不倫旅行みたいなイチャイチャ映像が突然出てきたのが最高にキモかった。あれ、ジュンヒの撮った映画ってことなの?だとしたら余計にキモすぎでは?
・作品データ
原題:소설가의 영화
上映時間:92分
監督:Hong Sang-soo
製作:2022年(韓国)
・評価:60点
・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品
★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか
★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記