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Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生

Jöns Jönsson長編二作目。2022年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。主人公ユリウスは友人たちから愛される若き美術館員だ。職場の新人エリックには仕事のアドバイスをして、バスで出会った見知らぬ人の会話に入るくらい社交的で弁も立つ。しかし、この"バスで出会った見知らぬ人の会話"をすぐあとに、自分に起きた出来事として友人に語り始めてから一気に不穏な空気が漂い始める。次のシーンでは友人たちと一緒に母親所有のヨットでセーリングに行こうという挿話になるのだが、そもそも母親はヨットを持ってなかったというオチに戦慄する。このときは近くの店でユリウスが倒れてしまい、病院送りになったのでバレずに済んだが、認知が歪んでるんじゃないかと心配になるレベル。こういう"エピソードへの強迫観念"みたいなの、分からんでもない。特に日本だと…という書き出しで始めるのが妥当かどうかは微妙だが、バラエティ番組での芸人たちの面白人生の断片とかが(彼らの様々な技術も含めて)魅力的に見えてしまう時期が私にもあった。その後もユリウスは嘘っぽい本当の話っぽい嘘を重ねていく。ユリウスの母親は病院でセーリングの一行と会ってユリウスの嘘話を聞いて"まだやってんのか"と怒っているが、ユリウスは取り合わず、なんならこの友人たちを"真実を知ってしまったから"という理由であっさり切り捨ててしまう。オチの付いた華々しいエピソードに満ちた人生を送る爽やか青年のイメージを壊したくない、恋人でさえ懐に入れたくないのだ。面白いのは、全裸中年男性のネタを恋人の前で披露したシーンだ。何度も登場する彼の鉄板ネタだったが、実はこれは恋人のネタだったことが明らかになる。私も昔、私がTwitterに書いたことを自分の意見のように語る人に会ったことあるもんね。恋人の顔を見て、あのゾッとする感じを思い出した。ただ、全裸中年男性を目撃した話は誰も傷つけないけど、職場を偽ったり、母親を死んだことにしたりするのはいつか自滅するので、誰もがそれなりに嘘付いてるけど、大丈夫なとことアウトなとこの線引は明白(axiom)ということですかね。お後がよろしいようで。

・作品データ

原題:Axiom
上映時間:108分
監督:Jöns Jönsson
製作:2022年(ドイツ)

・評価:60点

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記

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