鞠智城跡「特別研究」成果報告会 若手古代史研究者が研究成果を発表
3 月 10 日(日)、熊本大学工学部百周年記念館にて「鞠智城跡特別研究成果報告会」が開催され、4人の若手研究者が研究成果を発表した。
この報告会は、国指定史跡「鞠智城跡」に関する研究の蓄積と若手研究者の支援・育成を目的とした熊本県教育委員会の研究助成事業の成果報告会として実施されているもので、平成 24 年から現在に至るまで 50 名を超える研究者が採用されている。第 12 回にあたる今回は、4 名の若手研究者がそれぞれの研究について成果を発表し、会場に集まった約 200 名が耳を傾けた。
研究テーマはいずれも鞠智城に関するものだが、朝鮮半島との関係や古代日本の軍事動員体制、古代の広域行政制度、公営田に起因する地域社会の変化など、様々な角度から鞠智城とその周辺にスポットを当てる内容となっており、日本ひいては東アジアの歴史研究を考えるうえで示唆に富んだ研究発表会となった。
早稲田大学の植田氏は「鞠智城は唐・新羅の侵攻に備えるために築城・維持された」とする従来の学説には新羅側からの視点が欠如していると指摘。そこで新羅側の史料である「三国史記」の築城記事の分析を行い、698 年に行われた鞠智城の繕治が対新羅の防衛戦略とは別の目的で行われたのではないかという仮説を提示した。
九州歴史資料館の小嶋氏は、外征軍として北部九州に駐屯した国造軍が古代山城の築城にも関与した可能性について考古学的な手法により実証を試みた。
岡山大学の柴田氏は、菊池川中流域の古代集落が 8 世紀後半に急増し 9 世紀前半までにその多くが消滅するという先行研究の成果に注目し、9 世紀後半まで存続する二つの遺跡群(御宇田遺跡群、赤星福土・水溜遺跡群)と鞠智城の遺物を比較分析することで、これらの遺跡と同時期の鞠智城倉庫群が公営田関係者にかかわるものではないかという仮説を提示した。
福山大学の古内氏は、古代日本における山城の管理・運営体制について文献史料からその変遷を追うとともに、百済の古代山城の出土品から得られた情報を整理し、日本において古代山城を導入するにあたり、ハード面・ソフト面ともに朝鮮半島からの影響があることを指摘した。
この研究成果発表会の講評は、熊本大学の小畑教授とくまもと文学・歴史館の佐藤館長が勤めた。熊本大学の小畑教授は、講評の中で「科学分析の結果も踏まえたうえで、改めて鞠智城の考古遺物を分析する必要性がある」とコメント。また、くまもと文学・歴史館の佐藤館長は「鞠智城の特別研究は 12 年間にわたり研究の成果が蓄積されてきた稀有な事例であり、日本のみならず、東アジアの古代史研究にとっても貴重な成果である」と述べ、今後の鞠智城跡特別研究事業の展開に期待を寄せた。
(2024 年 3 月 10 日)
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