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Kae
2020年5月4日 04:31
2020年4月。いま私はメキシコシティにいる。この街で暮らすようになって半年。太陽光が痛いほど強くて、時間の流れがとんでもなくゆっくりで、ものすごく適当だけどなんだか憎めない街。ここで起こる出来事は、日本で過ごした30数年の人生で培った常識をいとも簡単に覆し、「ほっこり」とはかけ離れた違う何とも言えない脱力感と一緒に、小さな笑いを誘う。「どうでもいいけど、ちょっとおもしろいから誰かに話した
2020年5月4日 04:50
夫と自分の食事に、そして娘の離乳食にも欠かせないのが新鮮な肉や野菜だが、メキシコでの生活を始めて間もないころ、スーパーマーケットでヒョロヒョロに痩せ細ったにんじんや萎れた葉野菜を見てがっかりした。そんな私を見た友人が、市場に連れて行ってくれた。 『ティアンギス』と呼ばれるメキシコの青空市場は、週に一度、街のあちこちで開かれる。普段は何もない路上にずらりとテントが立ち並び、お
2020年5月6日 04:28
メキシコシティは富士山5合目とほぼ同じ高さに位置している。引越しが決まったあとこの事実を聞いても、私はまだ高地に暮らすということが自分の生活にどのように影響するのか、よくわかっていなかった。ただ、メキシコシティでの生活を経験された方からの「圧力炊飯器と圧力鍋はぜひ持って行った方が良い」というアドバイスに従い、ドタバタの引越し作業の中で、昔使っていた圧力炊飯器を引っ張り出し、また父が貯めに貯
2020年5月7日 13:32
メキシコシティの街中を歩くと、そこかしこで目に付くのが屋台。歩道の端に簡易テントやビーチパラソルが立てられ、その下でエプロン姿のおばちゃんがきびきびと動き回っている。売っているものは店によって異なり、それぞれ特色がある。メキシコ伝統のスープを売る店があれば、駄菓子専門店もある。フルーツジュース屋では、ずらりと並んだ大きな透明のプラスチックボトルから、キウイやマンゴー、グアバなどのフルーツ入りシロッ
2020年5月10日 11:59
メキシコのケーキはとにかく甘い。初めて食べた夫は、その甘さに身体が震えたらしい。クリームはじゃりじゃりと砂糖の音がしそうなほど重く、その下のスポンジはフォークで押すとジュワーっと甘い水分が出てくる。「メキシコ人ははっきりした味が好きなんだ。辛いものはとことん辛く、甘いものはとことん甘い方が良い。」と友人は言うが、美味しさには『ちょうどよさ』が必要なのではないか、と私は思ってしまう。メキシコ
2020年5月12日 12:29
メキシコシティ国際空港から東へ10km程度離れた場所にシウダデラ市場はある。煉瓦造りの古い外壁をくぐり抜けて一歩中へ足を踏み入れると、そこは薄暗く、微かな埃の匂いが漂う中にいくつもの細い路地が静かに伸びている。ついさきほどまでぎらぎらと照り付ける太陽光を肌に感じていたのに、もうひんやり肌寒くすら感じる。煉瓦の壁一枚を挟んで広がる異世界。そこにひしめき合う小さな店でメキシコ各地の民芸品が売られている
2020年5月14日 05:05
私はいま歯医者に通っている。3月の最初の日曜日に初めて治療を受け、それ以来毎週末、娘を夫に預けて通院しているので、すでに10回以上通ったことになる。昨年末、よりによってメキシコシティから成田行きの飛行機に乗った直後に右上の奥歯が痛み始めた。日本滞在中に必死に歯医者に通ったものの、メキシコシティに戻ってほどなくしてまたじわじわと痛み始め、常温のバナナすら激痛で食べられなくなった2月末に、メキシコ
2020年5月16日 11:50
メキシコシティに来たら必ず食べてほしいもの、それは『エル・モロ』のチュロスだ。この街に10店舗以上を展開する『エル・モロ』は、路面店もあればデパートのレストランフロアで営業する店もある。私がよく訪れる店には厨房に小窓があり、でーんと迫力あるお腹のおじさんが白い帽子を被り、油たっぷりの巨大な鍋の前に仁王立ちして、大きな渦巻状のチュロス生地を揚げているのが通りから見える。店の外まで香ばしい油の良い
2020年5月19日 04:34
「牛乳1本買ってきて。」日本ではごく普通に通じる簡単なおつかいのお願いだ。だが、ここメキシコでは絶対にこう聞き返されるはずだ。「どの牛乳?」一度スーパーに行ってみれば、この質問の必然性が分かる。乳製品売り場には凄まじい数の牛乳が並んでいる。単純に牛乳の種類だけでも、全乳、低脂肪乳、脱脂乳、低乳糖乳、無乳糖乳、オメガ3が添加されたもの、カルシウムが増量されたものなどがあり、低脂肪や低乳糖
2020年5月26日 04:29
我が家の隣には、明るく面倒見の良いメキシコ人一家が住んでいる。昨年夏に初めて話をしてから、困ったときは何かと助けてもらっている。そんなお隣さんとの間にちょっとした『事件』が起きたのは、昨年末、私が日本への帰省のために、夜中に成田行きの飛行機に乗ることを予定していた日の午後のことだった。荷造りも8割がた終わり、一息ついた私は娘を連れ、今夜からしばらく留守にする旨と、早めのメリークリスマスを伝