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メキシコシティで愛される、週末のおやつ

メキシコシティに来たら必ず食べてほしいもの、それは『エル・モロ』のチュロスだ。

この街に10店舗以上を展開する『エル・モロ』は、路面店もあればデパートのレストランフロアで営業する店もある。私がよく訪れる店には厨房に小窓があり、でーんと迫力あるお腹のおじさんが白い帽子を被り、油たっぷりの巨大な鍋の前に仁王立ちして、大きな渦巻状のチュロス生地を揚げているのが通りから見える。店の外まで香ばしい油の良い匂いが漂い、近くを通ればふらふらと引き寄せられてしまう。

白壁に青の模様が可愛らしい店内に入ると、厨房の奥でおじさんが先ほどの巨大渦巻きを30センチくらいずつの長さにハサミでカットしているのが見える。注文を受けたカウンターのお兄さんが、揚げたてあつあつのチュロスにたっぷりと砂糖をまぶし、紙袋に入れてくれる。その雑さがまた良い。値段は1本6ペソ(約30円)。なんとも言えない良い香りに我慢できずその場で頬張れば、外側はサクッと軽く、中はふんわり柔らかい。夫も私も初めて食べたときからこの店のチュロスが大好きで、週末の昼に出かけると必ずおやつに買って帰る。

今年で85年目になるこの店は、スペイン・ナバラ州のエリソンドという村からやってきたフランシスコ・イリアルテという人物が創業したそうだ。1933年、当時まだチュロスが売られていなかったメキシコで、手押し車1つでチュロスを売り歩き、徐々に知名度を上げ、2年後の1935年に店を構えた。店名は、かつてスペインでアラビア人達が、同じように手押し車で村から村へチュロスを売り歩いて生活しており、彼らの呼び名が『エル・モロ』であったことに由来するという。

この店のチュロスは子供から大人までみんなに愛されている。この素朴であたたかいおやつをかじりながら、家族の時間をのんびりと楽しむのだ。日曜日、私は白地に青い模様の紙袋を抱え、店の外で待つ夫と娘のところへ向かう。ベンチには80歳近いおじいちゃんがお孫さんらしき小さな女の子と並んで座り、砂糖たっぷりのチュロスを嬉しそうにかじっているのが見える。メキシコシティの穏やかで美しい週末の景色がここにある。

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