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震える甘さ!?メキシコのケーキ事情

メキシコのケーキはとにかく甘い。初めて食べた夫は、その甘さに身体が震えたらしい。クリームはじゃりじゃりと砂糖の音がしそうなほど重く、その下のスポンジはフォークで押すとジュワーっと甘い水分が出てくる。

「メキシコ人ははっきりした味が好きなんだ。辛いものはとことん辛く、甘いものはとことん甘い方が良い。」と友人は言うが、美味しさには『ちょうどよさ』が必要なのではないか、と私は思ってしまう。

メキシコに住み始めてから何度かケーキを買った。今度こそいけるのでは!?という期待に胸をときめかせながら、ケーキが無造作に入れられた箱を大事に持って帰り、そーっとお皿に乗せる。お茶を入れ、座ってフォークを刺した瞬間、手元に感じるのはふわっとした軽さではなくじっとりとした重さ。不安を感じながら口に入れた後に舌と喉で感じるのは想像をはるかに超えた甘さ。そこから日本の2倍ほどもの大きさがあるカロリーお化け相手に黙々と格闘する。完食後に残るのは満足感ではなく「また無駄に脂肪を蓄えてしまった」というやり場のない哀しさ。私はこの一連の不毛な行為を4回ほど繰り返し、自分の甘さに関する味覚がメキシコのそれとは完全にずれているということを身をもって学習したため、こちらでケーキを買うことをやめた。

食べたいものは自分で作るのが一番、とスーパーで必要な材料を買い込み、スポンジケーキを焼いてフルーツたっぷりのショートケーキ作りにトライしたことがある。幸いフルーツは新鮮で美味しいものが安く手に入る。上手にふわりと焼けたスポンジを前にテンションが上がりつつ、私は冷蔵庫から出したばかりの生クリームをハンドミキサーで泡立て始めた。たっぷりの生クリームにキウイやバナナ、贅沢にマンゴーものせて、ひさしぶりにシュワっとフワッとしたケーキが食べられる、と心を弾ませながらハンドミキサーを動かす。が、一向に固まる気配がない。かなりポジティブに見ても、最初トロトロとしていたクリームがドロドロになったくらいの変化だ。必死でボウルの底に氷を当てたり、部屋の温度を下げたりしながら15分以上格闘するも、リビングからキッチンの様子を見ていた夫の「それはいくらやっても無理だと思う。」という容赦ない一言で終了した。

その晩泣く泣くスポンジケーキと準備していたフルーツを食べながら調べてみると、生クリームが泡立つには乳脂肪分が35%以上必要だが、メキシコのスーパーなどで一般消費者向けに売られている生クリームは、乳脂肪分が30%しか含まれていないことが分かった。じゃあ紙パックのパッケージに描かれたホイップクリームのイラストと、ご丁寧に書かれた『泡立てる用』というフレーズはなんなんだ・・と憤慨しつつ、超文系脳な私は科学的に無理と言われるとすっきり諦めがついた。

そんなわけで、メキシコで生活していると、日本のケーキが頻繁に恋しくなる。特に、口に入れるとシュッと溶けて優しい甘さがほんのり残る生クリームと、食べたか忘れてしまうほどふわふわ軽いスポンジでできた、ショートケーキ。娘を寝かしつけて一日が終わりかけたとき、疲れた頭に真っ白なふわふわクリームが突然浮かんできて、私は夜な夜な製菓本を開いて写真をみてはため息をつく。

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