断章随筆/男女観は何処にある?
1.男性観と女性観。男性とはこのようである、女性とはこのようであるという個人的あるいは文化的、社会的見解。男女の関係性の内容や在り方の私見、あるいは文化的、社会的見解。必ずしも普遍的ではないが、あたかも時代や文化が違っても変わらない生物的な性質であるかのように語る他人がおり、語られる場面があることもあり、その場合は偏見と言われるもの。
というところでしょうか。
それぞれの人が、それぞれの距離感で男性でも女性でも男女の関係性でも、男性同士または女性同士の絆でも、いがみ合いでも、喧嘩でも、助け合いでも、見る。そして、声に出さずとも頭の中で言葉や経験、記憶、他人の意見を麻雀牌のようにシャッフルして、かき集めた自分の分の牌を自分にだけ見えるように並べる。
なんてね。
というところでしょうか。
2.男女観はぬり壁。取っ掛かりがなく、すべすべしてるように見える。
前まで手を掛けられそうだったところが、這う蔦のような毟り剥がれてしまう程度のもののように思えてきているからか。
3.そもそも男女?男、女、….........? 間にスラッシュでも入れるの?
4.私と話したり、作業したり、遊んだりした他人たちは、公だった。
例えば話をする場合。テーマから逸れずに話を進めて行けた。性別を気にせず話せる。サークル活動や講義のグループワークといった、集団で共有できる。
部室の掃除などの作業の場合。
やり取りは滞りが無い。少なくとも、性別が関係する滞りは覚えが無い。滞りを性差のせいにして苛立つ人も、覚えが無い。違う人なら「いや、いたよ、アイツとか」っていう人がいるかもしれないけど、もし言われたら、途方に暮れる。私はその人に、何と答えればいいのかわからないからだ。
遊びの場合。
女性たちとは、ご飯に行ったり、カラオケ行ったり、ボーリング行ったり、講義や日常の話をしたりした。
演劇で選んだ音響とその編集を褒めてもらえた。演劇でやった浴衣の着付けで、舞台中なるべく着崩れない着方を考えてくれた。
お菓子を分けてくれた。持ち物や服装が珍しくて、褒めやすく、雑談がしやすかった。
よく笑っている人がいたら、つい見てしまう。いい気分になる。すきっ歯や並びがユニークな小さな歯が愛らしい。
普段がポーカーフェイスの人は微笑みや笑い声にバリエーションがあって魅力的。笑った顔が優しい。滲み出るように笑う。
怒鳴り声や涙声を聞くと胸がキリキリと引っかかれる感じがする。
男性たちとは、サークル部室で時間潰しにやってたUNOに入れてもらった。
アニメや漫画の話をする。世界観やストーリーの構成などの読みが深い。自然と深く読んでしまうのか、それともそうしようとしてそうしているのか、それはわからない。
演劇サークルで書いた脚本を見てもらって、感想を貰う。演劇サークルの公演準備で話し合いや確認をマメにしてくれる。
頼み事が簡潔で的確。例えば、何処で何をいくつ買って来て欲しいか、お金もちょうど出せばいいだけの小銭を託す。
演劇のDVDを貸してもらった。
身だしなみが小ぎれい。足が細い人が目についた。ジャージがストンとしてて、歩くたびにぺらぺら余ったところが揺れてた。ジーンズは皺が寄ってた。
5.作家や音楽家や画家や漫画家や映画監督はよく男女観を語る。
文章で読んで、理解はできるけど、ん? って首を傾げる。ああぁわかる、とならない。
理解できるとは、違う人が書いた小説や評論、歌、絵で見たことがある、と思い出すということだ。
そうでなくても、理論的に考えて、そうなのかな? あり得そうだな? 自分はそんな目に合ったり、人に会ったりしたことはないようだけど、この作家さんはこう感じていて、それは大袈裟なことではないのかもしれないな満更、とワンクッションもツークッションも置かなきゃならない。
6.男とか女とか考えたこと無いです。私は人間として振る舞っています。
そういう人には、「へー、シアワセなんだねー!」と言っておきましょうと、斎藤美奈子さんが本で書いてた。
7.耳と胸が痛いのは、何故?
多分、そう宣うことを一時期、目指してたように気がするからだと思う。
男とか女とか考えたこと無い、わけは無いと、思う。私は。
8.小学校3年生までは、男の子に間違われると、ちょっと嬉しかった。
女より男の方が凄いから、という優越感はほんのちょこっとだけだ。それはもう学習して、それは構造的に偏った価値観だと知る。
一緒に遊んでいた女の子たちは、あきらかに女の子だったと思っていた。髪が長くて、目が大きくて、笑うと可愛くて、勉強も出来て、手紙を書くのが上手で、お習字もきれいに書いて、得意な運動は縄跳びで、幼稚園のプリーツスカートが似合ってて、淡い色のセーターがよく似合って、ピンクの糸で筆記体英語の刺繍がされたブルージーンズと赤いスニーカーが似合ってて、魔法少女の玩具の服やステッキが似合ってて。
男の子に間違われるのは、女の子に似合うものが自分に似合わない、ちゃんとした理由があるんだよ、という安心感だった。
9.性差を脅迫的に暴力的に意識させられたことは、小学校から中学校3年の二学期くらいまでに軽めのいじめにあった時にいくつかある。
それ以降は他人から受けたものは無い。いじめもない。背が伸びて、顔つきも体型も変わって、話し方も、身だしなみも板について来て、つまりは公的になってきたからだろうと思う。
10.中性的、という言葉が魅力的だと思うようになる。
11.哲学的な悩みを抱えているのは男性、という噂を真に受けてた。
そして、私は男性に親近感を勝手に持っていた時期を経る。
12.自分は女性であるから、女性たちと集まって過ごすことは多い。
途方に暮れるような感覚が慢性的に来て、疲れる。
そして、私は女性の集まりに疎外感を勝手に持つ時期を経る。
13.一人称を、サークルの会議や劇場の管理人と話す時は「私」、先輩や先生には「僕」、同期と後輩には「俺」と使っていた人がいた。私は、大変だな、と思った。その人は、その場を収めるための言動と、実は納得いってない、実は大変なんだ、実はこれがこう言う理由で好きなんだ、実はこれだけ勉強してるんだという、「実は」をよく見かける人だった。
14.合宿所に泊まり、歯ブラシの代わりに指で歯を磨いた四年の先輩、男女二人の話を聞いた。潔い感じ。
15.美人や可愛い子、大人しい子が憤るのを見ると、びっくりする。
次第に、そんなことでびっくりする私は、こんなレベルなんだなぁと、未熟と思うようになる。
ちゃんと、見据えなければ。もっと視野を広く、ゆったりと、柔らかく。柳や竹が風にしなるように、立たなければ。
16.大学四年。就活で、新聞社を受けた。サークルの女の子と面接が一緒になった。一緒に社員食堂でご飯を食べ、その後に面接だった。
自分の長所と短所を聞かれた。
彼女の答えは「私は他人に嫉妬をしてしまう」だったのが、衝撃だった。
彼女は、禍々しさや暑苦しさ、みたいな嫉妬のイメージが全く無かったから。自分の役割をきちんと引き受け、良いよね、と言われてたと思う。私も、素敵、と思ってた。
それとも、だからなの? と思ったけど直ぐに退室の時間になった。
ちなみに、新聞社は落ちた。彼女は何処に行ったか、よく知らない。
17.よく脚本を読んでくれたサークルの男性と卒業式の日にダベれたのがほっとした。
18.卒業式で、荷物を整理しようとしていたサークルの女性の巾着を預かった。
袴と着物は見ているのが好きだ。アクセサリーも見ているのが好きだ。
袴と着物とアクセサリーは造形作品だという感覚だったのだ。見るものって、見てるのが楽しくて、うっとりして、胸が甘く緊張する。
矢羽柄も小梅柄も、細身の鳥の柄もうっとりする。袴の折り目が歩く度にパラリパラリと揺れるのも好き。
雑貨屋で見つけた紫陽花の花のチャームのネックレスも良かった。紫陽花の花びらの細工がリアル。花びら薄くて、折れとか歪みがついてて。
自分がつけるのは、頭に無い。
母親から、厄除けのペンダントや数珠を貰ったことがあるが、つけていると、ブレスレットをつい眺めてしまって、講義が疎かになるくらいなので止めた。外すとただの雑貨になってしまうので、インテリアの小物になってしまっている。
19.大学院に入ってから、ジェンダー論の講義にもぐるようになる。
20.院生研究室は男女で分かれているので、女性と話す機会が多くなる。研究している内容や生活、経験、お仕事、自分の国の文化、家族の話、考え方についての話が楽しくなる。
21.自戒の念を込めて、斎藤美奈子さんの本を買い漁る。
22.男女観は薄ぼけたぬり壁。なにがなんだか、話せない。途方に暮れる。
23.元々の身体の性別を自分の気持ちに合わせた人がいる。
男女観とのんびりゆったりとした付き合い方をしている人もいて、がっぷりよつで取っ組み合わざるを得ない人もいて。飄々としている時も苦しんでる時もあって。
24.杉田俊介さん『非モテの品格』、前川直哉『男の絆―明治の学生からボーイズ・ラブまで』を読んで、11.から解放。
25.斎藤美奈子さんの本を読む。
ジェンダー論の研究をしている社会人大学院生の同期生の方々、違うゼミナールの後輩のレジュメ発表や話を聞く。
大学の先生方の関係性の雰囲気がゆったりしてる。
それで、12.からも解放。
26.男女観があって、そこから在り方が細く枝分かれしていくのですか?
27.男女観は薄ぼけたぬり壁。そう表すのが今の限界。
28.男女観を何処で見つけたのだろう?
恋愛、親子、兄弟、姉妹、友達という現実から? 苦しそうに聞こえる。
小説、音楽、絵画、映画、ドラマ、演劇という、現実を燃料にした灰の中? 最近、そんなの聞いてると、前にも聞いたよ、ってイラっとしてしまう。
聞いてると、あなたは傷ついたのか? と不安になるのですが、どうすればいいのか、なんて考えるのは余計なお世話でしょうか。
29.私はそんな目に合わない、と自信満々でいたら、後々そんな目に合ったっていうの、カッコ悪くないですか。
気をつけようと思う。
他人が見つけてしまったものを、ちゃんと見よう。見た感じを伝えて、話を聞こう。
30.よく、酷い目にあった人の話を聞いた人が、「そんな目に合ったからこそ、こんなことができるようになったのね」という感想を言う人がいる。
唸りながら首を傾げる。
合ったからこそって、合って良かったみたいな言い方? 誰でも、そんな酷い目だったら合わなくていい。
合ってしまった、見つけてしまった、どんどん襲ってくるものがあって、ぐだぐだ宣う暇が無かった。
その人がやっと話した時、どうしていたらいいのか、その時のために備えておこう。
31.私はそんな目に合わない、と自信満々でいたら、後々そんな目に合ったっていうの、カッコ悪くないですか。
32.男女観は何処にある?
33.他人が現実とやり取りしているのを見る時があると、悲しいと思うようになった。
飲み会で、酔ったおっさんに着ているビスチェを褒められて、「好きですか?」と返す、自分より年下の社会人の女性を見た時、悲しかった。彼女がどう思ってるのか、聞ける機会がある時は、頑張ろう。風にしなる柳のように竹のように。
34.男女観は遠くにある。
35.私は子供。優しい人。しっかりしてる。面白い。と言われる。
おおよそ、性別との関係が薄そうに見られていそうだ。
36.29.と24.と25.に戻って、また距離感をはかる。
37.気をつけようと思う。
他人が見つけてしまったものを、ちゃんと見よう。見た感じを伝えて、話を聞こう。
38.男女観は薄ぼけたぬり壁。距離を感じている人としての、男女観もあり得る。
39.私はそんな目に合わない、と自信満々でいたら、後々そんな目に合ったっていうの、カッコ悪くないですか。
40.男女観は何処にある?
41.随筆なので、思い出し次第、追記するかもしれない。