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教員が見た少年院の「中」-東北少年院を見学してきました④-
こんにちは!
「東北少年院・青葉女子学園(=女子少年院)スタディツアー」のレポート第四弾です。
今日はいよいよ、少年院内の様子について書きます。
前の記事で紹介した生活指導や職業指導を、どんな部屋で行うのか?
少年たちの様子はどんな感じなのか?
ツアーと同じ流れで紹介していきます!
東北少年院・青葉女子学園の基本情報
まず、2つの少年院についての情報を簡単に整理しておきます。
日本には 44庁の少年院 があります。
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東北少年院や青葉女子学園に入るのは、主に東北地方に住む少年たちです。
▼東北少年院の特徴-職業指導に力を入れる-
・初犯など、犯罪傾向の進んでいない少年が収容されます
・高度な職業指導に力を入れているため、東京などから指導を受けるために移送されてくる少年も多いそうです(全体の50%くらい)
▼青葉女子学園の特徴-心理療法的アプローチ-
・犯罪傾向の進んでいない少年、進んでいる少年の両方※が収容されます
少年院に入る女子は少ない(男子の10分の1)ため、一つの施設で様々な人を受け入れます。
※…少年法では、女子のことも「少年」と呼びます
・在院生のメンタルを安定させるために、心理療法的なアプローチに力を入れています(後述)
1. 少年院の入り口-刑務所との大きな違い-
少年院の入り口に足を踏み入れてすぐ、刑務所との大きな違いを感じました。
・非常ボタンがない(目立たない)
・在院生が描いたポスターや作文が貼ってある
↑掲示物のイメージ
半年前に函館少年刑務所に入った時、まず驚いたのが非常ボタンの多さでした。所内に100か所以上…いたる所に非常ボタンがありました。
しかもそれだけでなくて、「ここに非常ボタンがあります」という看板(言葉はもっとシンプルです)が、天井から吊るされていたんですね。
物々しい雰囲気でした。
東北少年院にはそういうものはなくて…代わりに、在院生が描いたポスターや作文が貼ってありました。
「職親プロジェクトとは?」みたいな、学校で見かけるような手作りのプリントが貼ってあったりもしました。
(学校だと「地球温暖化とは?」みたいなイメージですね)
2. 医療エリア&散髪室(男女共通)-健康管理と髪型のルール-
少年院の建物に入って、最初に案内されたのが医療エリアです。
まず驚いたのが、歯医者の歯科ユニット。
2週間に1度、歯の治療が受けられるそうです。
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少年院に来る子は、歯の状態が悪い場合が多いのだそうです(おそらく、健康を気遣う習慣が家庭にないため)
体についても週に2回、東北大学病院の医師が来て診察をしているそうです
次に案内されたのは散髪室です。↓のようなルールがあります。
男子は入院時に丸刈りにする
3級〜2級生は自分で頭を刈る
1級生になると月1回、院内の床屋で散髪してもらえる
丸刈りについては議論がありますが、美容師の人件費などコスト面とのバランスが難しいそうです。
女子は希望があった時のみ散髪。茶髪や金髪でも染め直したりはしないとのことでした。
3. 東北少年院の個室寮-最初は個室に入る-
次に案内されたのが、「新入時教育棟」という個室寮です。
少年たちは、まずここで少年院での生活に慣れます。
(個室の画像は見つけられなかったのですが、下の方にある「5.集団寮の居室」の動画とほぼ同じです!)
・部屋は4畳半ほど(たぶん) 手前にトイレ・奥にベッド
・机と椅子が1セット。机の上には蛍光灯があり、暗くなっても読書や勉強ができるように配慮されている
・窓から自然光が入って日当たりが良い。暖房も完備
・天井には監視カメラ(自傷行為などトラブルを防ぐため?)
・着替え用のポンチョが支給されるなど、プライバシーへの配慮もある
・刑務所の場合はまず集団室に入って、空きができたら個室に移れます。
少年院の場合はまず個室なので、ここも手厚いところです。
・1人につき1セット、机・イス&蛍光灯が用意されています。
しかも固い木の椅子ではなくクッション性のあるもので、学習面でかなり手厚いと感じました。
※塾を経営していて感じますが、勉強する時の椅子はとてつもなく重要です。特に子どもは固い椅子だと疲労が早いため、学習効率が相当落ちます。
4. 集団寮の食堂ホール-テレビも見られる-
続いて、集団寮へ進みます。
食堂ホールは、在院生が食事をしたり、テレビを見たりする場所です。
・ドアには鍵がかかっておらず、在院生は建物内を自由に移動できます
・壁には大きめのテレビ。番組は在院生の多数決で決めます
・もし、部屋を移動するためにいちいち教官の許可が必要だったら、自立のための自主性は育てられないですよね。
ドアに鍵をかけないのは、在院生の自立意欲を失わせないための工夫だと感じました。
・少年院は、少年たちに時事情報を与える義務があります。テレビやラジオはそのために利用されているとのことでした。
5. 集団寮の居室-机と椅子付き4人部屋-
集団寮の居室は4人部屋。
↑集団室の様子。これは狭めの部屋。
・十数畳ほど(たぶん)の広さ
・設備は個室とほぼ同じ
・トイレは居室の外に、共用のものがある
・室内に監視カメラはない
トイレが部屋の外にあるのが、刑務所との最大の違いです。
函館少年刑務所では、集団室(6人部屋)の中に和式トイレがありました。刑務所の居室は外側から施錠されているので仕方ないのですが…精神的にかなり辛そうです。
着替え用のポンチョといい、後で紹介する図書室といい、少年院はかなり人権やプライバシーに配慮された施設だと感じました。
6. 工場-職業指導の場-
工場では 車の整備 などが行われていました。
少年院と刑務所との違いを最も感じたのがこの場所です。
見学中、在院生の少年がこちらをチラチラ見てきたんです。
少年らしい、自然な反応ですよね。
函館少年刑務所では、(もっと年上とはいえ)受刑者の方たちはほとんどこちらを見ませんでした。
刑罰としての作業なので当然ではありますが…目を伏せて、黙々と作業をしていました。
また、人間関係もまったく違います。
少年院では、在院生と法務教官が自然な言葉づかいで談笑していました。
先生と生徒のような、とても温かい雰囲気です。
刑務所では、基本的に刑務官の方は大きく鋭い声を出します。
笑顔を見せるのもはばかられるような雰囲気だったので…「少年院では、笑いながら教官と話していいんだ!」というのが、私の中でとても衝撃的でした。
7. 配膳室-配膳係が盛り付ける-
食事は管理栄養士が献立を作り、 宮城刑務所で作られたものが運ばれてきます。
それを、配膳係の少年が盛り付けます。学校の給食とほぼ同じ仕組みですね。
アレルギーについても、個別に対応しているそうです。
8. 面会室-仕切りのない応接室-
少年院の課題の一つに「親子関係の改善」があるそうです。
家庭内の不和は非行の原因になります。
それに、第二弾の記事で説明した通り、家庭環境が悪いと保護観察が機能せず、更生の可能性が低くなります。
そのため、面会室に工夫がされています。
刑務所と違い、アクリルの仕切りがありません。
もし、刑務所のように仕切り越しにマイクで話すとしたら…自然な会話は難しいですよね。
普通の応接室で、机を囲んで面会をすることで、少しでも親子関係を改善しやすくしているのだそうです。
9. 青葉女子学園の医務室-学校の保健室-
東北少年院の次は、青葉女子学園を見学しました。東北少年院に隣接する女子少年院です。
第一印象は「内装が明るくて綺麗」なこと。
建物の中は白地にオレンジ、ライトグリーン、ピンクが基調のパステルカラーで、明るい雰囲気です。
窓の一部はステンドグラス調で、青葉女子学園のロゴがペイントされている壁もありました。
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在院生のメンタルを安定させるために、心理療法的なアプローチがとられているそうです。
最初に案内されたのは医務室。
・学校の保健室とかなり似ている。室内は白を基調としていて清潔感がある
・月1回、精神科の診療がある
青葉女子学園では、在院生の8-9割が精神科の診療を受けています。
女子は環境の変化に弱い傾向があるため、メンタルケアを重視しているそうです。
10. 食堂ホール-デイケアのような雰囲気-
続いて、食堂ホールを見学しました。
・大型テレビなど、基本的には東北少年院と同じ設備
・在院生が作った イラスト付きの当番表 が貼ってある
椅子や机などの備品、在院生の作品、ポスターの雰囲気から、メンタルクリニックのリワークデイケアにかなり近い印象を受けました。
落ち着いていて温かく、居心地の良い感じです。
(デイケアでも患者の作品を部屋に飾ったり、患者自身が当番表を作って役割分担をしたり、食卓を囲んだりします)
心理療法的なアプローチがここにも生かされているのかも、と感じました。
11. 教育棟(男女共通)-教室や図書室のある建物-
ここで再び、男女共通の教育棟に案内されました。
・教室:
黒板・チョークがある。学校の教室のミニサイズ版。
中学校の教科書や、基本的なワークが一式ある。
使い古したものではなく、綺麗なものが揃っている。
・図書室:
広くはないが、蔵書は約5,000冊。
漫画もあり、毎年新しい本が追加される。 例『宇宙兄弟』
4冊まで貸し出し可。居室で読むこともできる。
・在院生の作品(作文・イラスト・刺繍):
かなりしっかりした文章が書けている。字の綺麗な少年も多い
ハロウィンのカボチャや雪だるまが可愛く笑っている作品。
前向きな雰囲気が伝わってきた。
教育棟で一番驚いたのは、在院生の作文です。
まず、字が綺麗です。
そして、思ったよりずっとしっかりした文章でした。
たとえば、「Aだと思ったので、Bをテーマに選びました。」という表現がありました。
論理の流れがスムーズなんです。
実は、「根拠→自分の意見」のように因果関係をシンプルに正しく書ける中高生は、それほど多くありません。
勉強が苦手な子だったら、「Aだと思いました。それにBで、Cで…」のように、一文が長くてとっ散らかった文章になるのが普通です。
書いた方の年齢は分かりませんが…教官の添削が入っているかもしれないとはいえ、すごく勉強が苦手そう、とういう印象は受けませんでした。
環境さえ悪くなければいろいろな可能性のある少年たちが、少年院に来ているのかもしれない、と想像しました。
12. 調理実習室-自炊を学ぶ-
教育棟には 調理実習室 もありました。
ここでは調理師さんから料理を学べるそうです。
自炊は自立の基本ですね。
13. 体育館-合唱練習-
最後に案内されたのが 体育館 でした。
中の様子は学校と同じ。刑務所の体育館とも大きな違いはありませんでした。
少年たちは寮歌の合唱を練習していて、体育館の外まで歌声が響いていました。
屋外にはグラウンドもあり、少年たちはここで体育指導を受けて健康を保ちます。
今日のまとめ
・東北少年院は高度な職業指導に力を入れている。そのため東京から移送されてくる少年も多い
・青葉女子学園は心理療法的なアプローチに力を入れている
・廊下に物々しい非常ボタンはなく、代わりに在院生の作品が貼られている
・医師や歯科医の診察を受けられる。女子と男子1級生は散髪も可能
・最初は個室で少年院の生活に慣れる
・居室は日当たりが良く、明るい
・在院生1人につき、机&椅子と蛍光灯1セットが用意されている。図書室で本も借りられる→学習面で手厚い
・集団寮では、食堂で食事をとる。テレビやラジオも聴ける
・トイレは集団室の外にあり、プライバシーに配慮されている
・在院生が教官と談笑する場面も。温かくて前向きな雰囲気がある
・食事は配膳係が盛り付ける。アレルギーは個別に対応
・面会室には仕切りがない→親子関係改善のための工夫
・青葉女子学園の内装は明るいパステルカラー→心理療法的アプローチ
・在院生の8-9割が精神科を受診している
・女子学園の食堂はリワークデイケアのような雰囲気
・教室は、学校の教室のミニサイズ版のような感じ
・在院生の作品や作文は、かなりしっかりしている印象
・調理実習室で自炊を学べる
・体育館やグラウンドで運動や合唱などをする
次回予告
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
この情報を必要とする人が検索できるように、できるだけ詳しく書きたくて、長くなってしまいました。
次回はいよいよ最終回。
見学の後の質疑応答の様子について書きます。
法務教官の先生方が、私たちの質問に丁寧に対応してくださいました。
ここまで、日本の少年司法や少年院の仕組みについて説明してきました。
でも結局、
少年犯罪を減らすために、私たちにできることって何なの?
と思いませんか?
実は、ツアーの後に法務教官の先生たちと懇親会(飲み会)に行ったんですが…この点について東北少年院の院長先生にお話を伺いました。
次の記事ではこの時の話と、私の考えを書いて連載を終えようと思います。
次回もぜひ読んでいただけると嬉しいです!
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