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『SFG 2023 vol.06』 の紹介に感想をまぜてみた。

文学フリマ東京38同人小説感想5作目になるのがSF文学振興会のみなさんによるSF情報ガイドです。同人誌の形態をとる内容の濃いSF情報誌でした。これから「SFをはじめる」かたのための情報が豊富に収められています。「SFをはじめる」とは。そもそもSFとは。どんな作家がいて、どんなSF作品が創られてきたか。SFの今、最前線を教えてくれる親切な一冊となっています。ぱっと見で一般商業雑誌となんら変わらず書店に並んでいるかと思いました。さらに本誌には、嬉しいことに文学フリマエージェントの架旗透氏の作品も掲載されています。今回この場で本誌を紹介しない手はないですね! 私の感想記事では一応、同人小説の感想と銘打っていますので、小説以外の部分はかる~くふれる程度の紹介にさせていただきます。


※本記事では作家の方々には「敬称:さん」で書かせていただいています。


『ガイド案内』

特集:電脳
発行年月日:2024/05/19
サイズ、ページ数:A5判、164ページ
対談:池澤春菜「SFの流儀」、結城充考+蝸牛くも+大森望「サイバーパンク2023」、天沢時生+水町綜「ヤンキーVSドンキ」、オガワコウイチ「おやすみホログラム/ニューロマンサー」、草野原々「特集創作」、名川潤「SF的・世界のつくり方」
コラボ企画:KAGUYA Planet×SFGマイクロノベルバトル『カレーvsラーメン』(カレー10作品ラーメン10作品掲載)
ほか:電脳SF作家・作品カタログなど色々情報たくさん
1500円

対談

池澤春菜「SFの流儀」
 池澤さんがどんな環境でSFと出会い現在に至ったかなどのおはなしが載っています。こちらで私が印象にのこった箇所は「本は私を裏切らない」というくだり。本だけに限らずいわゆる「読み好き人間」の思考の根底にある理由の一つがこれなのではないかと思いました。
 
結城充考+蝸牛くも+大森望「サイバーパンク2023」
 こちらは序盤あたり、結城さんと蝸牛さん(覆面を被っておられる)お二人がご覧になった映画、読まれた漫画や小説などの話題で語っておられます。中盤から大森さんが参加されています。ここで私がはっとさせられたのは、「……」でした。SNSでのポストでわりと多用してします。黒丸尚、黒丸文体、はじめてしりました……(これはちがうこれはちがう)
 
天沢時生+水町綜「ヤンキーVSドンキ」
 こちらもお二人がこれまでにふれてこられたSF作品について語っておられます。ここで興味深かったのが「ヤンキー理論」でした。私はヤンキーというから古典アメリア北東部民への蔑称のことかと思っていたら違いました。いや、語源はそうなんでしょうけど、ね。つまりその、気骨あるバンカラ兄貴ということですね。(表現古い)
 
 オガワコウイチSFと音楽/おやすみホログラム「ニューロマンサー」
 
オガワさんがこれまでにふれてこられたSF作品などからはじます。この対談で興味深かったのは「SFと音楽がうまく組み合わない」ことについて語られている場面でした。なぜ存在しないのか。その理由。オガワさんが考えるSF音楽などを語られていました。楽曲のほうはまったく知らなかったのでYouTubeMVを確認させていただきました。
 

特集創作『【実録】これでわたしも登場人物の気持ちがわかりました!~長年、登場人物の気持ちがわからず悩んでいたわたしを救ったたったひとつの方法を大公開~【以下、有料メールマガジン『あなたも不労所得が手に入る!楽して大金を稼ぎたい人に〈当り屋〉が超絶オススメな理由』より引用】』 作:草野原々

 まず笑います。この長いタイトル。私は感想書くとき、割と強い誉め言葉のひとつとして「セコイ」をしばしば使うのですが、本作にも使わせていただきましょう、セコイ! と。前半第一章から第四章まで、これはもうセコイの極みです。インテリが眼鏡をクイッとしながら説き伏せてくる。そんな得意げな語り口を聞いている気持ちになります。語り口がセコイのではなく内容です。内容がかなりセコイ。当り屋というアウトローな存在(言語)を引っ張り出してきて巧みに読み手の解釈を独占する。簡単にいってしまえば、想像の世界は無形である。無形のモノは語の表現によって想像の世界に形を成し存在たらしめる。ということなんでしょう。それを面白おかしく物理学、科学、心理学の言葉を素材に表現されていてユーモアに笑えます。前半を読んでしまえば後半はもうちょちょいのちょいです。作家のペースに乗って勢いのまま読み上げていくテンポは軽くてコミカル。会話文はまるでコントみたい。わたしという存在がどのような暴力のもと、無慈悲に傷めつけられ粉々にされても言葉の仕業。ただの空想世界に形を与えられている。笑いの光景にしかならず作家が創った虚構の狂気に浸れます。遊ぶ心地で面白おかしくそのベクトルを楽しむときが過ぎていく作品でした。
 
 
SF的・世界のつくり方 川名潤
 本の装丁・デザインをなさる川名さんとの対談が収録されています。組版やデザインの仕事をするようになったきっかけや、実際にデザインするときどんなふうになさっているのかが語られていました。世代的に私は近いかたで、あの当時のMacを思うと懐かしい気持ちになりました。広告業界全盛期、キラキラした就職先をめざす……。そういう人たちをみる気持ちに共感するところがありました。
 

KAGUYA Planet × SFG コラボ企画 マイクロノベルバトル 『カレーvsラーメン』

 今回の感想更新でSFG vol.6を紹介したい理由、その大本命がこちら。KAGUYA  PlanetさんとSFGさんによるコラボ企画のマイクロノベルバトル。監修は牧野大寧さん。誌内およそ6ページにわたり全20作品が掲載されています。バトルというからには闘い競う。カレーとラーメンの各応募数より勝敗が決まっているらしいです。そして今回、応募数を上まわったのはカレー。83作品の応募により勝ちとなったそうです。
 ことの発端はSFGさんがVG+さんとのコラボ企画考案中に湧いてきた昼ごはんに何を食べるかという2択から。それが発展、VG+さんを巻き込み、SF界隈ではどちらが愛されているのか。野良SF作家への調査に及んだという。なるほど、面白い企画があったらしいのですね。
 企画監修者である牧野大寧さんの作品はネット上で読ませていただきました。臨場感あふれる学え……おっと、いけない。SFGvol.6本誌への掲載はないので感想は控えてさせていただきます。

 誌面掲載作品へは心ばかりで恐縮ですが少し感想を書かせていただきました。私は最近noteで作品への感想更新をはじめたばかりで作家さんのお名前や作品をたくさん知っているわけではありません。ですから、もし、どこぞの誰とも知らない者からの感想を不快に思う作家さんもおられるかもしれません。無視できない際はご一報ください。感想はすみやかに取り下げます。
 この感想が昨今小説界隈の最前線で活躍なされている作家さんがたの紹介になれば幸いです。全作、レベルがとても高かった。正直、字数を150字前後でそろえて簡潔に書くのが難しかった。ホントに驚かされ心揺らされました。楽しませてくれてありがとうございます。

一作品目~五作品目

一作目《カレー》 安戸 染さん
■作家さんです。カモガワ奇想のほうで作品読ませてもらっていました。
 ちまたのカレーもの、ラーメンものを掲げるファイトでテンポがとても良かったです。ラーメンへ指導、強い語気にこちらまでハッします。ラーメン発見伝3巻はいけないのでしょうか!? 乱暴にカレーへ変貌させられていくラーメンを見ていく心持ちになります。瞬く間に奪い去られるラーメンのセリフ。苦悶するラーメン。カレーなる静寂の読後感。素晴らしかったです。

二作目《ラーメン》 ハギワラシンジさん
■護麺官(X Profileより)の作家さん。作品は本作がはじめてです。
 冒頭からぶっ飛んでいた。否、ぶち浸かっていた。創生の遠い過去へ遡るラーメンの書き出しに心をギュッと掴まれました。重厚で奥深いラーメンの真髄を知った気持ちになります。奇知の領域へ達するがごとく描写された篤いラーメンへの信仰心からは、職人が神棚を拝む姿を想像させてくれます。麺から漂う人間愛も美しい。長編作に負けない立派な強さがありました。

三作品目《カレー》 萬朶維基さん
■小規模に創作中(X Profileより)の作家さんです。Xタイムラインで過ぎ行くポストをまれにお見かけします。作品は本作がはじめてです。
 ゼロカレーってなんだ!? 驚かされました。ゼロを原料にってことは完成するのもゼロ、無なのでしょうか? つまりそこには概念のカレーが存在し、カレーは存在しない。だから香りを想像力で。すごい世界です。まじめな文体から鉄壁の虚無を感じさせられました。ゼロという言葉にすべてがのみ込まれていく気持ち。割る、割るって、それも、ゼロ……。

四作品目《ラーメン》 赤い尻さん
作家さん、作品、ともにはじめてお目にかかります。
 文字の画を使うアイディアにおしゃれさを感じました。画が道具になりゆくさまを想像すると馴染みやすい日本語教材の動画のようで親しみも湧いてきます。遊び心を感じました。いろんな言葉でシリーズ化されるのを見てみたくなりますね。カルタにもできそう。ラーメンの2つめの作品にしてこんなに凄いのを読むとは。発想が柔軟さに感動させられました。

五作目《カレー》 秋永真琴さん
■作家さんです。Xタイムラインで過ぎ行くポストをまれにお見かけします。このかたの作品、はじめてお目にかかります。
 一文目、いきなり共感。書き出しで心を捕まえられた気持ちでした。すごい。二文目も良くて、スパイスやハーブのイメージで読み手をおいていかない表現に優しさを感じます。確かにスパイスってどこか魔術的。ノベル展開も素晴らしい本作。これは……、ドラマ性にすきがない。鮮やかで軽快、気持ちのいい読了感。震撼するほど良かったです。

 六作品目~十作品目

六作品目《ラーメン》 作業体Yさん
■作家さん、作品、ともにはじめてお目にかかります。
 ここは一体? どういうことなのでしょうか。皆目見当もつきません。失意が伝わってきました。仮に、ガラスケース内が六次元で、外側が七次元であれば。ラーメン、或いはカレーは、ハンバーグに見える可能性があるかもしれない? 四次元までしか体感できない身でありながら別次元を虚構世界で目にしている。そんな現象に立ち会う面白い気持ちにしてくれました。

七作品目《カレー》 草野理恵子さん
■作家さん、作品、ともにはじめてお目にかかります。
 イメージする光景は奇想的なファンタジーでした。匂いのする「もの」って何だろうというふしぎさもあり。ピアノを弾く優雅な世界観で熱を帯びる感覚から刺激的なカレーが思い浮かびます。表現が素敵だなあ、と。ひょっとして、窓からは楽譜だったのでしょうか。漂う香りは奏でる旋律と似て空間を移動する。見えずとも感じ覚える。そんな描写の面白みがありました。 

八作品目《ラーメン》 蒼桐大紀さん
■作家さんです。Xタイムラインで過ぎ行くポストをまれにお見かけします。作品は本作がはじめてになります。
 書き出しでチャルメラが聞こえてくるような心地よさがありました。いい雰囲気でドラマが始まる世界観にスッと引き込まれます。家を出てからの移動、屋台という特定の目的地へ進んでいく情景描写にも歩調がうかがえて視界の美しさを感じました。トラックに引き寄せられる仕草から逸る気持ちがうかがえます。時をかける屋台のからくりに思わず笑えました。

九作品目《カレー》 化野夕陽
■作家さん、作品、ともにはじめてお目にかかります。
 カレーとは何でしょう。それは我々日本人にとって、どういう食べ物なのでしょう。物質的な説明が必要なのではなく、カレーが私たちにとってどういう存在として日々の食卓で寄り添ってきてくれたか、そしてこれからどんな存在であって欲しいかが本作に込められていたように感じます。文芸性の高さを見れた一作だと思いました。すばらしい。その一言に尽きます。

十作品目《ラーメン》 鮨崎ムル
作家さん、作品、ともにはじめてお目にかかります。
 女たちの会話で気の赴くまま、ふんわりとした雰囲気を感じました。百合……とみていいのでしょうか。気のおけない仲で一緒にいる時間の共有。信頼関係みたいなものはあるけれど、何となく強いほう弱いほうの人物像が見えてきます。けだるさもあるようなテンポが良かったです。ラストのひっそり揺れる気持ちに苦味を感じてしまいました。

十一作品目~十五作品目

十一作品目《カレー》 木江巽さん
作家さんです。SF創作講座のほうでお名前とレビューをnoteで拝見させてもらったことがあります。Xタイムラインでまれに過ぎ行くポストをお見かけします。
 朝起きたらお年寄り、昼には赤ちゃん、夜には中年のおばさん或いは若いおねぇさんかもしれない。そんなふしぎな現象が身に起こりつつ暮らすって奇妙で面白い体験だなあと思いました。わずかなノベル世界の中にファンタジックな童話世界をみる気持ちになりました。ほほえましくて心が温まります。息抜きになるような癒しある優しい一作に思えました。

十二作品目《ラーメン》 子鹿白介さん
■作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 たしかに本作一文目、同じことを考えて食べることがあるので同感の喜びで笑みがもれました。実際の食事中は一心不乱にラーメンへ焦点が定まるのでスケールは大きくならない。ですが、ラーメンを食す行為を作品として構成しパーンアウトしていくと、本作のように映像的な美を観るようです。広大な宇宙観を見せてくれる描写へ神々しさも覚えました。面白いです。

十三作品目《カレー》 エレガントザリガニさん
作家さんです。作品はXのタイムラインで面白い回文が過ぎ行くとき、しばしば楽しませてもらっています。X Profileより大木芙沙子さんの別名と知りました。バゴプラさんより発売トウキョウ下町SFアンソロジーでも作品を執筆されています。
 幻覚なのか、見ている世界への間違い探し。発見の叫び。軽妙で勢いがよくて思い浮かぶ世界観の雰囲気に心地よく引き込まれます。手を使って食す場面でうんうん、おかしい、と共感。熱いしベトベトしちゃ食べづらいですよね。米のダウトの発見からは、日本式カレーには日本の粘つく甘い餅のような食感の米があう。納得感があり、日本食文化の独自性も感じました。

十四作品目《ラーメン》 ときのきさん
作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 中華帝のお話でしょうか。幼帝がラーメンを覗き見て論ずる光景に聡明な少年像がうかがえます。ラーメンの構造に心打たれ、食べたいけれどラーメンを乱したくないという感情、わかる気がします。完成度の高い食べ物はそれだけで美や宇宙観があるように感じますものね。食べてしまえばそれは失われてしまう。食は儚い秩序の美。ぐっと心にくる作品でした。

十五作品目《カレー》 見坂卓郎さん
作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 バカ。バカ。のところにリズム感があってノッてしまいました。間髪をいれず続く説教じみた言葉には相手を思う切実さもあって気持ちのこもる重みを感じます。考えるより行動に出てしまうのも反射的な愛情からなのでしょうか。喜びと怒りが混ざる感情、人情が鮮やかに伝わってきました。残されたわずかな時にこそ人のとる行動と心理。真に迫るすばらしい一作だと思いました。

十六作品目~二十作品目

十六作品目《ラーメン》 正井さん
■作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。バゴプラさんの大阪SFアンソロの編者さん? でしょうか? ブンゲイファイトクラブの? 違っていたらスイマセン。
 室生犀星のオマージュでしょうか。在米となった身、私にはラーメンは故郷を思う食べ物の一つです。過去を思い同時に未来を思う食べ物です。アメリカにあってラーメンは豚骨が主流。見えやすさとは違うのですが人気です。よく見えるとは、いったい何が。とても気になりました。遠い遠い、はあ(溜め息)、何だろう、それ、気になりました。

十七作品目《カレー》 べっちさん
作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 あはっ、甘酸っぱい気持ちです。本作はとても分かりやすい感情なのでしょうか。納得というか、気持ち良さというか、「俺」の本質的な内面を見た気がします。そこに行くという動機付け、最初は違えど女の子になったわけですから。思うに食欲を満たす行為にも吊り橋効果みたいな現象がおこるのでしょうか。違うのかな? 何にせよ、秘めたる純情さに微笑ましいと思いました。

十八作目《ラーメン》 入り江わにさん
■作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 書き出しからキメてくる強気さ。いったいどこから来るのでしょうこのカレーの自信ありげな態度に笑えました。(実際カレーの勝ちでしたね)。連なる文言からもツッコミを入れないラーメンの姿が想像できます。たった数行の短い本作ですが名文の凝縮に感じます。幕引きにスケールが広がる感覚が心地よかったです。

十九作品目《カレー》 1/2初恋、あるいは最後の春休みのさん
作家さん、作品ともにはじめてお目にかかります。
 もう、なにがなんだか。読めないインドの文字っぽい連なりがあります。わからなくてごめんなさい。ですがとても楽しそうに見えました。雰囲気読解の解釈になりますが自由さがいきいきと感じます。多様な作品のありかたにSFの懐の広さを見る心地でした。よく分からないのですが、なんか、まともな感想にならなくて恐縮です……。

二十作品目《ラーメン》 架旗透さん
小説サークル、グローバルエリートの一員にして文学フリマエージェントでもある作家さんです。毎度お世話になっております。エージェントの作品は、とうぜん全作追って把握しています。(※文学フリマエージェント架旗透さんへはエージェント功績の謝意を込め、全ての執筆作品へ感想1000字盛っています。)
 ほかとは一線を画する掲載仕様にひときわ目がいくのではないでしょうか。私はいきました。マイクロノベル最後を飾る作家さんがおりなす奇想の発露に、いよいよ震えるときがきたのかと心の準備をさせてもらいました。5月の文学フリマ東京38その現場でも話題となったのが本作です。
 気迫のこもったラーメン屋大将の挑発的なセリフから、頭に思い浮かべて見えてくるのは大きさ規格外のラーメン鉢。そこになみなみと溢れんばかりに入った桁違いなラーメンの量。おどろきの無限盛りです。両手で大鉢をよっこらせと運ぶ大将は楽しげに、なおかつ不敵な微笑みを浮かべていそうです。その表情はすでに勝ち誇った、自信に満ちる笑顔なのかもしれませんね。強気な大将からは食い尽くされる不安は微塵も感じとれません。無限への絶対的な自負がそうさせるのでしょうね。ああこわぁ~。
 偏見かもしれませんが、ラーメン屋の大将といってイメージするのは頭にタオルを巻いた体格のごっつい、それでいて人が良さそうなおっちゃんです。兄貴肌のあるおっちゃんです。勇んで作り上げたご自慢のラーメンはいったいどんな味がするのでしょうか。そちらも気になるところです。醤油かな、ミソかな、豚骨かな……。
 私は日本を離れて久しいので家系も二郎も知りません。一蘭は商品名くらいでしか知りません。本作からよみがえる記憶、それは2000年代初頭の大食いバトルがテレビ番組として盛んだったむかしの日本です。それは遠い記憶になりましたが、あのころの大食いファイターたちをみていた緊張感や期待感を呼び起こしてくれた気がします。懐かしいです。
 とはいいますが、そこはさすがの架旗ワールド。一味も二味も違う大食いのありかたをフィクション世界で見せてくれていました。自由さ満開、巷でいうキャッチ―な虚構表現を斜めから一刀両断してくれます。奇知に富んだ表現で瞬く間に独創的な世界観へ我が心をひっぱって連れて行ってくれました。そのユニークな光景から目を離すことができません。
 おわかりいただけるでしょうか、なんと、麺はオスとメスによって繁殖を繰り返し増え続けていくのです。世代交代をつづけ絶えることはない。無くならない麺「無限の麺」です。どれほどすさまじい繁殖力で食べる者を圧していくのでしょうか、食うか食われるかという生き死にの連鎖を想像します。ラーメン屋の大将はとんだ隠し玉をもっていたのかと驚かされました。食う者を殺しにかかるいきおいに圧倒されます。対する客も客で、恐るべき胃袋を持ち合わせた人物(人なのでしょうか、それは定かではありません。)として描かれていました。こんな客が来たら普通の飲食店じゃ間違いなく破産確定でしょう。余裕をぶちかます姿と心理描写に笑いがこみ上げて耐えきれません。初回読了後に本作の度肝を抜かれる奇想っぷりに騒いでいたのを思い出します。想像を絶する胃袋の持ち主、その未曾有な食いっぷりは大将のラーメンを制圧するのでしょうか。食べる者、フードファイターの真正狂気を見守る予感、観戦者の緊張感を味わう心地です。ラーメン屋の内に渦巻く闘争の波、好奇か怖いもの見たさか、私の心はもうあと戻りはできない。どんどん引きずり込まれていく心地でした。

ほか、電脳SF作家・作品カタログ

 それぞれのインタビューごとに電脳SFの作家と作品の案内が豊富に盛り込まれています。種類はサイバーパンク、アーティフィシャルインテリジェンス(AI)、サイバーテック、リアリティーハックなど。他には連載があり、アートの紹介があり、ちょこちょことレビューなども掲載されており興味深いです。たしかにSFをこれからはじめる人間には良いガイドになりますね。これからでなくても、既にSFが好きな人でも楽しめる情報量ではないかと思いました。ぎっしり色んな情報満載です。ホントにこれ同人誌なの? ってくらい密度のあるガイドでした。
 一度に全部読み切るのは大変なので気の赴くときいつでも開いて読める、そんな感覚で楽しむと良いかもしれませんね。

 以上をもちまして本誌SFG2023vol.6の紹介と感想はおしまいです。BOOTHのほうではまだ本誌の入手は可能でしょうか。もしこの紹介記事で興味を持たれましたらお手もとにいかがでしょう。ほかのバックナンバーもあるようですのでそちらを試してみるのも良いかもしれませんね。特集が毎号異なるので各ガイドでちがう楽しみがあると思います。
 私は今回バゴプラさんとの合同企画でとても楽しませてもらいました。マイクロノベルですと、作品収録数もそこそこあるのでバラエティーに富んだいろんな作家さんの作品が楽しめます。この合同企画だけで立派なアンソロジーになっていると思いました。この企画を考案されたKAGUYA  PlanetさんとSFGさんに感謝するところです。次があるのかと誌面では書かれていますが、ぜひ第二回もお願いしたいですね。作家さんがたのさらなる活躍がみられるのを楽しみにしています!!!

感想の次回予告

 次の6作品目の感想更新で文学フリマ東京38同人小説感想は最後の作品になります。感想更新は先になりますが12月頃を予定しています。
 紹介する作品タイトルはサプライズとしてまだ秘密にしています。架旗氏の感想もいただけるとのことで、少し準備を進めています。どんな作品がくるかおたのしみ。おたのしみ。
それでは次回更新まで

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