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予想しなかった偶然を活かしたキャリアアップ~計画的偶発性理論とアガサ・クリスティ

 「ミステリーの女王」として知られるアガサ・クリスティ。
 名探偵ポワロやミス・マープルなどの魅力的な登場人物を生み出し、また数多くの斬新で大胆なトリックで多くの読者を魅了しました。
 今も世界中で愛読され、発行部数は20億冊以上にもなると言われています。
 
 そんなアガサも、実は、初めから小説家になろうとしていたわけではありません。紆余曲折を経て、そのキャリアを作っています。

 例えば、青洲時代に情熱を注いだのは意外にも数学だったとか。
 しかし、初めてのテストで大失敗し、成績は最下位。

 次に、ピアノやオペラの音楽学校に通うようにもなりましたが、発表会などのここ一番という時になると、緊張して弾けなくなったり、オペラの劇場関係者からは「あなたの声はオペラにしては力強さが十分ではない」とダメ出しされたりと挫折をします。

 そして、夢を立て続けに断念し、インフルエンザにかかって療養している最中に、母から「短編小説を書いてみてはどう」と進められます。

 母としては、病気で伏せっていて、元気のないわが子を励ますつもりで行ったのだと思います。アガサ自身は、はじめ「私にはとてもできそうにない」と乗り気ではなかったそうですが、「できないとは決まっていないでしょう。だって、やってみたことがないんですからね」と背中を押したそうです。
 
 でも、これが、ミステリーの女王の誕生のきっかけとなったというのですから、本当に人生ってわかりません。そして、こういう偶然の出来事が意外にもキャリアづくりに生かされていることが多いものです。

 実際、「計画的偶発理論」という考え方があります。
 この「計画的偶発性理論」の考えによると、個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定されるそうです。

簡単な要約は次の通りです。
 
「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)は、心理学者のジョン・D・クランボルツ教授によって1999年に発表されたキャリア理論です。クランボルツ教授がビジネスパーソンとして成功した人のキャリアを調査したところ、そのターニングポイントの8割が、本人の予想しない偶然の出来事によるものだったそうです。
 
 学校でも「キャリア教育」が行われ、いろいろな実践がなされています。
 例えば、自分の特性や強みを知って、自分に合う職種を選ぶことです。
 例えば、実際の企業や施設などに行っての職場体験実習です。
 
 さらに、「何か目標を決めて取り組む、達成する」ということも、キャリア教育のベースにあります。具体的には、将来の目標を決め、計画を立て、それに向かってキャリアを積み重ねていく、勉強をして資格を取得するなどの考え方です。目標をもつ(決める)、目指したい方向性を決めることで、意識を集中できますし、勉強に身が入ります。

 また、関連する情報も入手しやすくなります。脳は、意識が焦点を当てたものに関する情報を取捨選択する~特に「目に入ってくる」ようにできているからです。(歯が痛みだすと、普段の通勤時には気付かなかった、通勤経路の歯科医院の存在が意識されるという、あの現象です)

 ただ「目標に固執する」と、逆に目の前に訪れた想定外のチャンス(多くは、不幸?トラブル?の形でやってくる)を見逃しかねません。
目標をもつということは、ある意味、別の目標をあきらめるということとイコールです。

 どんな人にも同じように1日24時間の制限があります。何かに力を注ぐということは、別のものには力を入れられないということでもあります。

 なので、「人生」という総合的な視点で見た場合、目標にこだわりすぎる、目標にとらわれ過ぎると、逆に無駄なことをしていたり、偶然やってくる、チャンスに気づかなかったりする弊害もあります。

 基本的に、仕事は

「自分がやりたいことをする」
「好き嫌いで行う」
「キャリアを積もう」
「ステップっプをはかろう」

ではなく、周りの人は、自分に何を求めているのか、自分はこの社会(職場)でどんな仕事ができるのかということを考えている人に「あちらからやってくるもの」ともいえます。


 なので、逆説的ですが、目標に固執したり、目的意識を明確にしすぎたりしないで、漠然としたビジョンの下でのほうが、偶然のチャンスをつかんでいけます。

 偶然、巻き起こる事象や出会いによってこそ、「キャリアアップ」が見込めるのかもしれません。
 
 実際、アガサ・クリスティの数学好きは、作品作りの中で構想づくりやプロット立て、様々な伏線回収などに行かされています。

 余談ですが、夏目漱石や東野圭吾さんなど作家の中には数学好き、理系が得意な方が結構多くいます。やはり、緻密に計算されたストーリーを描くには、言葉だけではなく、構成、構想を考える際に数学的な力が必要になるのかもしれません。
 
 アガサ自身は、さらに、第一次世界大戦時に看護師経験もありますし、離婚後、気分転換にと長距離夜行列車「オリエント急行」で中東へも旅行に行っています。
 これらの経験の中が、ご存じ「オリエント急行殺人事件」の種になっています。あるいは、ミステリー作品によく出てくる「毒殺」に関連して薬の知識も得ています。

 さらに、旅行の際に出会った考古学者のマックス・マローワンと意気投合し、そのまま再婚もしています。
 
 また、マックスから教えてもらったであろう考古学の影響がうかがえる「メソポタミヤの殺人」などという作品も生み出しています。
 


 それは良き日々だった。
 それは良き日々として、今もある。
 
 これは、「カーテン」の中の一文です。
 
 今の自分が、あまりうまくいっていないと、過去を懐かしんで、「昔はよかったな」的な回想をしてしまうことが良くあります。
 ですが、過去は過去。今は今。
 未来は、今の気持ちの延長線上にあるともいえます。
 昔の良かったことは胸に秘めつつも、今に集中する必要があります。
そうすることで、未来もより良いものになっていきます。
 
 「カーテン」は、1975年に刊行されました。名探偵ポワロが登場する最後の作品ですが、書かれたのは1943年。実に20年も前です。
 そして、刊行された翌年の1976年にアガサも亡くなっているので、自分自身の幕引きと、ポワロの引き際を重ね合わせていたのかもしれません。
 
 将来やキャリアの事を考えることは必要な事ではありますが、あくまでそれは「自分が予想できる未来」です。
 人生もキャリアも、そんなに予想通りいくものではないし、逆に、予想通りになるとしたら、こんなにつまらないこともないかもしれません。

 
 そうであればこそ、自分に巡って来た縁や仕事に向き合って、目の前のことに情熱をもって取り組んでいくことで道が開けていくのかもしれません。 

 また、

自分が好きで、気になることを思い切り楽しんでいくことで、そのもの自体が「ものになる」ことはなかったとしても、先の人生で別の何かの役に立つ、あるいは形を変えていかせることが多数出てくる

のかもしれません。今回のアガサのように。
 
 
ここまで読んでいただき、ありがとうございます
皆様の心にのこる一言・学びがあれば幸いです