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【思い出】灰色の煙。

ウバといいます。
訪ねていただきありがとうございます。




2月も下旬。こんな寒い日に、そういえば去年は花火を見てないなと思い出した。手持ち花火をした記憶もない、花火とは無縁の1年を過ごしたようだなと淋しくなる。

ああそうか、私は花火がない1年を淋しく思うのだなとはじめて気づいた。それと同時に花火にそれほど思い出も思い入れもないことにも気づいていた。

それなのに淋しく思うのは、花火が無理矢理にでも無邪気で元気よく見えるからだろう。そこにどんな思い出があろうと、花火自体は元気で煌びやかだ。


ひとつ、高校時代に見上げた花火を思い出した。小学生のころから片思いだった女の子とふたりで花火大会の花火を見たのだ。



「花火、一緒に見よっか」

と誘ったのか誘われたのか、好きな女の子とふたりで花火を見ることになった。高校最後の夏、私の心臓はきっとあの日いちど破裂しているはずだ。

女性とうまく喋れなかった私は、しかし彼女とはうまく喋れていた。だからなのだろう小学生の頃から一途に好きだった。

何処かのJポップで聴きそうなことだが、彼女が話す彼氏の愚痴はシンドかったのをしっかり覚えている。彼女はよくモテた。

そんな子と花火を見るのだ、心臓が何個あっても足りない。

花火大会当日。その日のデート(まあデートと思っていたのは私だけなのだが)は思っていたのとは少し違っていた。

花火を見る約束はしたのだ、デートの約束ではなかった。花火は一緒に見るのだがお祭りは友達と行くらしい。

花火大会会場にひとり、高校生の私は半袖短パンで立っていた。足元はビーチサンダルだった。

今でいうガラケーをパカパカしながらお祭り会場をひとり歩いた。途中で友達の集団や友達カップルと会うたびに淋しくなり、私は会場から少し離れた場所に座り花火の時間を待った。

花火の時間20分ほど前に着信があり、私は彼女と合流した。もちろんついさっき会場に着いたと偽って。

目の前に現れた浴衣姿の彼女はとても可愛く、今から上がる花火なんてどうでもいいと思えるほどに美しかった。

他愛もない会話をしながら花火のポイントまで歩いたのだろうけど、その時の会話なんて絶対に思い出せない。たぶん何も聞こえてなかったのだから。


ぴゅるるるうぅ〜と音を出しながら火の玉が上がり、どんっ!と大きな音を出していっきに花火が咲いた。

パチパチと音を立てながら、やがて花火は消える。そこには夜空に混じって灰色に見える煙だけを残していた。

自然と手を繋いでいた。あれはどっちから繋いだのだろうか。それもきっと思い出せないのだろう。

その子とは恋人同士にはならなかった。手を繋ぐのが私の精一杯だったのだろう。もう少し勇気があれば違う未来もあったのかもしれないが、今はもう繋いだ手の感触も覚えていない。



こんな寒い日に少しセンチメンタルになってしまっていた。彼女は元気にしてるのだろうか。小学校の同級生だ、連絡先もそこまで頑張らずに入手できるだろう。今の私はあの頃より大人になった、少しはうまく喋れるだろうか。

しかし、思い出は思い出のままでいい気がした。思い出という綺麗な衣を纏ったまま私の中だけで輝いている。

浴衣姿の彼女の横で半袖短パンの私が立っている。繋いだ手の感触は忘れたからこそ愛おしいのだと、今の私は知っている。

肩までコタツに入ったまま手だけ出して掌を見た。手相はきっと、あの頃のままなのだろう。




ここまで読んでいただきありがとうございます。
思い出補正ってのは、今の自分が満たされているから発動するものです。




それでは、佐世保の隅っこからウバでした。

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