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写真と民俗【米川の水かぶり】~来訪神と火伏せ~
※この記事は約8分で読めます
どうもメダカです初めましての方は初めまして。
今回は宮城県登米市で行われる米川の水かぶりに行ってきました。
米川の水かぶりとは?
米川の水かぶりとは、毎年2月に行われる火伏せ(火難除け)の行事です。
毎年2月の初午の日、氏子たちが来訪神に扮し、地域の家々の屋根に水を撒き、火難除けを願います。
初午とは?
初午(はつうま)という言葉を知っていますか?
聞いたことあるけどよくわからない、カレンダーに書いてある何か
というイメージをお持ちの方も多いと思います。
初午とは2月の最初の午の日にあたる日で、お稲荷さんの総本山である京都の伏見稲荷大社に農耕を司る宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)が舞い降りた日とされています。
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月・日・時間にもそれぞれ干支が割り振られ
二月最初の丑の日を初午と呼びます
この宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)は農業の神様であると同時に、
火伏せの神つまり火難除けの神様でもあるのです。
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稲荷神社のキツネはウカ様の使い
来訪神とは?
先ほどから氏子が来訪神に扮してと、書いていますが、
来訪神ってなんだよ?って方がほとんどだと思います。
来訪神について詳しく書くとすごく長くなってしまうので、簡潔に説明すると、
来訪神とは主に海の向こう(異界もしくはあの世を指す)からやって来て、人々に福をもたらす神様です。
詳しく知りたい方は、民俗学vtuberの諸星めぐるさんの動画も参考にしてください。
代表的な来訪神
代表的なのが七福神で有名なエビス様ですね。
海の神様であり、豊漁の神様であるエビスは漁師から信仰されますが、
漁師たちは大漁の時たまたま村を訪れた来訪者を【豊漁の神エビスが依り代に選んだ人間】つまり来訪神と考え、他所から来た来訪者は村に福をもたらす、
良き神様の依り代なので、彼らをもてなせば再び豊漁になると考え、来訪神としてもてなす風習が産まれました。
これがエビスに限らず全国で広まり、
東北ではナマハゲ、沖縄の宮古島はパーントゥとして海の向こうから来て、
人を依り代にして福をもたらす来訪神またはマレビトと呼ばれ崇められるようになります。
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こう見えても家に福をもたらす神様
そしてここ米川では来訪神として、水かぶりが村に福と火伏せをもたらす為に、毎年二月の初午の日に現れるわけですね。
水かぶりの流れ
前置きが長くなりましたが、実際の水かぶりを見て行きましょう。
水かぶりの宿
出発地点は水かぶりの宿
氏子達はここで準備を行い、水かぶりを行います。
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これが【水かぶり】
この装束は【オシメ】と呼ばれます。
首にはオシメをまとめる【ワッカ】を付けています。
顔には竈(かまど)の煤を塗っています。
神の依り代となりやすいように、かまど神の一部を顔に塗っていると思われます。
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大慈寺の秋葉大権現と諏訪神社跡地に参拝
水かぶりの前に大慈寺の秋葉大権現に参拝します。
参拝することにより、氏子たちに来訪神が乗り移ります。
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続いて諏訪神社跡地にも参拝。
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僕の住む長野の諏訪地方
500kmも離れた東北の地で、まさかの僕の地元とリンクしました。
これは運命を感じます!
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僕は初め氏子が来訪神に扮すると書きましたが、これは正確ではないですね。
【来訪神が氏子に憑依し、神事をとり行い村に福を授ける】
演じているのではなく、神が乗り移ってると考えるのが正確ですね。
神がかりってやつです。
水かぶり本番
それではいよいよ水かぶりの本番です。
一行の先頭に立ち、先端に幣束を付けた【ボンデン】を持つのは還暦の男の役目だそうです。
リーダーのような立場でしょうね。
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来訪神の依り代となった、水かぶり達は「ホーホー!」と奇声を上げながら地域を練り歩きます。
当日の気温は5度前後でしたが、神がかりとなった彼らは元気いっぱい奇声を上げます。
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地域を練り歩いていると、道端に水の入った風呂桶が置かれています。
これをおもむろに拾い上げ、水かぶり達(来訪神)は家の屋根に水をぶっかけます。
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なぜ家に水をかけるのか?
お稲荷さんは火伏せと豊穣の神様なのですが、日本の神様には裏と表があるとお考え下さい。
お稲荷さんの場合、火伏せの神であると同時に、火の神様でもあるわけです。
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二面性があるが故に【神を畏れ敬う】という言葉が
しっくりくるのでは、ないでしょうか
米川では火の神お稲荷さんの日である、初午に雨が降らないと、後々火事に合うという言い伝えがあり、
水かぶり達が、おけに入った水を雨に見立て水を撒き、火難除けを願うというわけです。
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家が火事になっちゃたまらないので、水かぶり達は片っ端から水をかけまくります。
豪快にぶっかけるので、近くにいるとおもいっきり水を浴びるので注意。
でもまあこれも、ご利益に授かると思えばありがたい事です。
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縁起物の稲わら
水かぶり達が、水をかけながら歩いていると、不思議な光景が目に入ります。
水かぶりの周りを歩く人々が、水かぶりの着ている藁を奪うようにはぎ取っていくのです。
これにももちろん意味があり、水かぶりから奪った藁を屋根に飾っておくと、火伏せのお守りになるのです。
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中には開始早々、藁をはぎ取られ、半裸状態の水かぶりも居ます。
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沢山藁を奪ってご満悦な地元の兄ちゃん。
いい笑顔ですね。
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米川八幡神社と若草稲荷神社
そうこうしてるうちに、一行は村を抜け米川八幡神社に到着します。
ここでは茅の輪をくぐった後に神様に参拝します。
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水かぶり達はわらじで、移動しているのでかなり寒そうです。
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そしてすべての、水かけが終わり最後に向かうのは稲荷神社。
やはり僕の予想通り最後は稲荷神社でした。
なんなら最初にお稲荷さんに行ってから、水かぶりをしてもいいんじゃないかと思いましたが、お稲荷さんは最後なんですね。
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最後はみんなで、火伏せの願いを込めてお稲荷さんに参拝します。
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こうして水かけを終えた氏子たちは、水かぶりの宿へと戻っていきます。
10時30分から始まり12時には終わる、アッという間の行事ですが、
氷点下に近い状態で、水かけをする氏子たちは、終わるころには唇は紫色になりガタガタ震えながら、宿に戻っていきます。
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火男とおかめ
この行事の変わったところがもう一点あります、それは水かぶりの一行の少し後ろを歩く不審な二人組。この二人は火男とおかめと呼ばれます。
この二人は水かぶりが回った後に、水をかけられた家々を回り、祝儀をもらう役目を担っています。
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火男と書いて【ひょっとこ】と読みます。
そう誰もが知ってるひょっとこは、元々ひおとこ(火男)が訛ってひょっとことなった説があります。
ひょっとこの特徴であるこの曲がった口は、火吹き棒を吹いている時の顔だと言われています。
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イラスト屋ってなんでもあるね
火男とおかめ、二人がそろえば夫婦円満、おかめが笑えば厄災も悪さをせずに家から出て行くと言われています。
夫婦そろって家内繁栄・火伏せの守り神として来訪してくれているわけですね。
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【カサコシ】の費用となるそうです
東北では竈神(かまどかみ)と書いて、ひょっとこと呼ぶ地域もあるそうなので、ひょっとこもまた火の神であり、来訪神というわけですね。
火男とおかめに、祝儀を渡す行為
これは来訪神の特徴ではないかと思います。
つまりギブアンドテイク、来訪神が村に福をもたらせば、人も神にお返しをする。
これはナマハゲでも同じで、家に訪れたナマハゲに家主は、餅を渡す風習があると聞きます。
神様に福をもらうだけでなく、ちゃんとお返しをする。
僕はこういったところがとても日本的だと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
こじんまりとしていますが、東北のよき人達が行う、とてもいい祭りでした。
全国には変わった来訪神のお祭りが数多くありますし、貴方の故郷にもあると思います。
(もしくは過去にはあったはずです)
僕は地方の過疎化と共にこういった文化が失われて行くのも、ある程度仕方ない事だと考えています。
大事なのは忘れない事であり、過疎化した地方を再編成し、また新たな神と祭りを作り出すのもアリだと考えています。
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「今から新しい神様を作るのおかしくない?」
と考える人もいると思いますが、
500年続いた祭りだって、500年前は同じ事を言われたのではないでしょうか、続ける事により認められ、伝統となっていきます。
新しく始める事こそ伝統への第一歩です。
僕の書いているnoteの記事がその伝統の参考になればと、少しだけ思ったりもしています。
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もらったので家に飾っておきます