JW177 大倉山の戦い
【孝霊天皇編】エピソード32 大倉山の戦い
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前246年、皇紀415年(孝霊天皇45)。
孝霊天皇こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))は、暴れまわる鬼(賊)を鎮定するため、遠征に赴いた。
遠征の地は、現在の鳥取県西部、伯伎国(ほうき・のくに)である。
同行する者は、下記の通り。
彦狭島(ひこさしま)(以下、歯黒(はぐろ))。
鶯王(うぐいすおう)。
彦五十狭芹彦(ひこいさせりひこ)(以下、芹彦(せりひこ))。
稚武彦(わかたけひこ)(以下、タケ)。
それから、宿禰(すくね)の物部大矢口(もののべ・の・おおやぐち)(以下、ぐっさん)である。
方言教室を終えた一行は、一路、軍を南下させ、大倉山(おおくらやま)へと向かった。
笹福「大倉山の鬼の名は、牛鬼(ぎゅうき)であったな?」
歯黒「御意。多くの手下を引き連れておりまする。」
笹福「左様か。して、如何(いか)に攻める?」
鶯王「伝承では、策(さく)を用いておりまする。」
笹福「策?」
こうして、作戦が開始された。
歯黒「・・・ということで、わっちが大手(おおて)の総大将じゃ!」
タケ「兄者(あにじゃ)! 大手とは如何なることじゃ?」
歯黒「二千年後の言い方をすれば、本隊といったところじゃな。敵の正面を攻める部隊じゃ。」
タケ「して、大倉山を駆け上り、鬼たちに力攻めを致すのじゃな?」
歯黒「その通りじゃ! わっちとタケで、兵をまとめ上げ、突っ込むのじゃ!」
タケ「ところで、他の方々は?」
歯黒「まあ、追々・・・じゃ。では、皆の衆、参るぞ! 攻めかかれぇぇ!!」
大手軍のみなさん「おお! うわぁ! うおぅ!」×多数
一方、大倉山の山頂では、鬼の大将、牛鬼が喚(わめ)いていた。
牛鬼「ヤマトの兵が攻め込んで来たがっ! どげすぅだ(どうするんだ)?!」
鬼(い)「迎え撃つしかないがね!」
牛鬼「そ・・・そげだな。よし! てめぇら! 食い止めるぞ!」
牛鬼たちは、懸命に食い止めようと奮闘したが、数の差によって、押し込まれていく。
タケ「かかれっ! 攻め込めぇぇ!」
牛鬼「ヤマトの軍勢は、よけ(たくさん)居るようだぞ! これでは持ちこたえられんがっ!」
鬼(ろ)「こうなったら、山の裏手へ駆け下り、別の山まで逃げいや(逃げましょう)!」
牛鬼「そ・・・そげだな。よし! てめぇら! 逃げるぞ!」
鬼(は)「引けぇぇ! 引けぇぇ!」
鬼軍のみなさん「早う逃げるだが! こげな戦(いくさ)、逃げるが勝ちだがな!」×多数
こうして、牛鬼たちは、山の裏手を駆け下り、麓に辿(たど)り着いたのであった。
牛鬼「ヤマトの軍は、攻めて来ちょらんようだな? よし! このまま別の山に向かうぞ!」
そのとき、左右から鬨(とき)の声が沸き起こり、ヤマトの伏兵(ふくへい)が姿を現した。
笹福「左翼をまとめる、搦手(からめて)の総大将、笹福じゃ! 戦の勝ち負けは着いた! 牛鬼たちよ! 我(われ)らに降(くだ)るべし!」
牛鬼「何を言っちょうだ(何を言ってるの)!? それに、搦手(からめて)とは何だ?!」
笹福「搦手とは、二千年後の言い方をすれば、別動隊と言ったところじゃ。」
ぐっさん「今回は、伏兵っちゅう意味も有るんやでっ!」
牛鬼「だいど(だけど)、伝承では、左右に分かれたとは書かれちょらんぞ!」
鶯王「右翼をまとめる、鶯王じゃ! 伝承では語られておらぬが、兵法の理(ことわり)に遵(したが)いて、搦手を左右に分けたのじゃ!」
牛鬼「なにゆえだ?」
鶯王「正面にて待ち構えたならば、こちらも多くの死人(しびと)を出すこととなる。」
芹彦「汝(いまし)らが、死に物狂いで突っ込んで来るは必定(ひつじょう)であろう?」
鶯王「こちらが傷つくことなく、汝(いまし)らを屠(ほふ)るには、これが得策なのじゃ!」
牛鬼「なるほど! 兵を左右に分け、わしらが、空いた真ん中を通るように仕向けたんか! そげして(そうして)、頃合いを見て、わしらに、矢を射かけるという算段か!?」
鬼(い)「お頭(かしら)! 皆、真っ直ぐに駆けちょります! どげすぅだか(どうしますか)?!」
牛鬼「この勢いを止めることは出来ないんだがん! とにかく、切り抜けるほかないっ!」
笹福「どうしても降らぬか・・・。止むを得ん。射かけよぉ!」
鶯王「こちらも遅れてはならぬ。射かけよぉ!」
搦手軍のみなさん「おお! よし、来た! いっちょ、やりますか!」×多数
鬼(ろ)「ああっ! 右から、左から、矢が飛んで来たが!」
鬼(は)「どげしゃもないだがな(どうしようもないぞ)!」
鬼軍のみなさん「ウグッ! グフッ! 痛いんだわ! この、だらず(アホ)!」×多数
牛鬼「ちょっ! ちょっこし(少し)待ってごしない(ください)! 降るんだがん! わしら、皆、ヤマトに降るんだがん!」
笹福・鶯王「射かけ、やめぇい!」×2
牛鬼「はぁぁ。死ぬところだったが。」
芹彦「牛鬼よ。もう、悪さはせぬか?」
牛鬼「しないんだがん。もうやらないんだがん!」
笹福「良し・・・。して、汝(いまし)らが里を襲う理屈は、我(われ)も承知しておる。食い物を求めて、里を襲っておるのであろう?」
牛鬼「そげだがん(その通りです)。そげして、わしらは生きてきたんだがん。」
ぐっさん「これからは、心配せんで、ええで。わてらと一緒に、米、作ろやないけ。」
牛鬼「米? あの・・・田圃(たんぼ)で作っちょる、米かえ?」
鶯王「そげだがん。米の作り方を覚えれば、他里(たざと)を襲わずとも済むであろう?」
牛鬼「わ・・・わしらを殺(あや)めに来たんではないだか?」
笹福「鬼とは申せ、汝(いまし)らも、同じ、人ではないか。民(おおみたから)ぞ。」
牛鬼「あ・・・兄貴ぃぃ! 付いていきますぅ!」
こうして、牛鬼たちを鎮定(ちんてい)することに成功したのであった。
つづく
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