JW312 大きな鮑
【丹波平定編】エピソード19 大きな鮑
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
出雲(いずも)へ戦勝報告に向かう、彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)の一行。
舟の旅は順調に進んでいた。
同乗するのは「イマス」の息子にして、四道将軍(しどうしょうぐん)の丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)。
そして、黄沼前来日(きぬさき・の・くるひ)(以下、クール)。
そんな中、一行を乗せた舟は、たくさんの人出(ひとで)で賑(にぎ)わう浜辺に遭遇したのであった。
イマス「なんじゃ? あれは?」
ミッチー「出迎えのようですな?」
浜辺の人たち「ようこそ! 新温泉町浜坂(しんおんせんちょう・はまさか)へ!」×多数
イマス「とりあえず、舟を着けようぞ。」
一行が上陸すると、人々が群がってきた。
クール「な・・・なんだいや?! こにゃぁなこと聞いとらんわいや!?」
浜辺の人たち「皇子(みこ)! 皇子(みこ)!」×多数
ミッチー「ち・・・父上に、これほどまでの人気が有ったとは知りませなんだぞ!」
するとそこに、一人の人物がやって来た。
一人の人物「ようこそ、浜坂へ。お待ちしておりもうした。」
イマス「かく言う、汝(いまし)は何者じゃ?」
一人の人物「これは、これは、御無礼、御容赦(ごようしゃ)くださりませ。我(われ)は、新温泉町周辺に有った、二方国(ふたかた・のくに)の豪族、宇都野真若(うつのまわか)と申しまする。『マーカ』とお呼びくだされ。」
イマス「し・・・して『マーカ』殿・・・。この出迎えは、どういうことじゃ?」
マーカ「さすれば、申し上げましょう。なにゆえ、一行を盛大に出迎えたのかっ。」
クール「伝承に出迎えたと書かれとるから・・・なんて、言うんでないか?」
マーカ「そのような野暮(やぼ)なことは申しますまい。作者の考えでは、浜坂が、先(せん)だっての戦(いくさ)に加わらなかったゆえではないかと・・・。」
ミッチー「陸耳御笠(くがみみのみかさ)こと『みかさ』との戦いに加わらなかったがゆえ?」
マーカ「左様。いわゆる様子見(ようすみ)をしておったのではないかと・・・。して、皇子たちが勝ちを収めもうした。そこで、慌てて、恭順(きょうじゅん)の意を示したのではないかと・・・。」
イマス「なるほどのう。咎(とが)めが有るのではないかと恐れたがゆえ、出迎えたと申すか?」
マーカ「もしかすると『みかさ』殿に助太刀していたのやもしれませぬ。」
イマス「そのようなこと、我(われ)は気にせぬ。戦は、もう終わったのじゃ。」
マーカ「その言の葉を聞き、安堵(あんど)致しもうした。さすれば、我(われ)らも、皇子たちの、お役に立たせてくださりませ。」
イマス「役に立ちたいと申すが、我(われ)から頼むことは無いぞ。」
マーカ「それが、有るのでござりまする。皆様の舟を見てくだされ。」
イマス・ミッチー・クール「舟?」×3
マーカ「長(なが)の戦がゆえ、だいぶ傷ついておりましょう? このままでは、出雲まで、もちますまい。我(われ)らが、修繕(しゅうぜん)致しまする。」
イマス「かたじけない。では、汝(いまし)らに頼もうぞ。」
こうして、舟が修繕されることになった。
マーカ「皇子・・・。舟の修繕は、塩谷浦(しおだにうら)でおこないまする。」
クール「二千年後の塩谷海水浴場(しおだに・かいすいよくじょう)の辺りだっちゃ。」
マーカ「左様にござりまする。」
そこへ、浜坂の住人たちが駆け寄って来た。
浜坂の住人(い)「皇子! 『マーカ』様! 大変だっちゃ!」
マーカ「どげした?!」
浜坂の住人(ろ)「舟に穴が開いて、海の水が入り込んどるんだわ!」
イマス「なんじゃと!?」
浜坂の住人(は)「そげなことだで、船出(ふなで)は厳しいわいや。」
ミッチー「どうにかならぬのか?」
浜坂の住人(い)「新しい舟を作った方が早いかもしれん。」
浜坂の住人(ろ)「ここまで来ただけでも、すごいことだっちゃ。」
クール「こげぇなことじゃぁ(こんなことでは)、出雲まで、あっけぇへんで(無理だよ)。」
舟の修繕が厳しいという現実を突きつけられ、呆然自失となる一行。
そのとき、海が震え始めた。
イマス「な・・・なんじゃ!? 波しぶきが、大きくなって参ったぞ!」
クール「皇子! う・・・海が盛り上がっとる!」
ミッチー「そ・・・そこから・・・大きな鮑(あわび)が現れましたぞ!」
浜坂の住人(は)「そいつは、舟に向かって、ぐんぐん進み・・・。」
浜坂の住人(い)「舟に開いた穴を塞(ふさ)いだっちゃ!」
浜坂の住人(ろ)「こうして、アワビが張り付いた舟が出来たんだわいや。」
マーカ「驚くほか有りませぬが、これで、安心にござりまするな。」
イマス「これも神々の霊験(れいけん)であろう。『マーカ』よ。この大きなアワビを『船魂潮路守大神(ふなだま・しおじもり・のおおかみ)』として祀(まつ)るべしっ。」
マーカ「御意・・・。して、これよりのちは、親しみを込めて『フナッビー』と呼びまする。」
イマス「あ・・・愛称は、ともかくとして、あの丘に、社(やしろ)が有るが?」
マーカ「宇都野神社(うつのじんじゃ)にござりまする。土地神を祀っておりまする。」
イマス「では、あの社に合祀(ごうし)し、『鮑宮(あわびのみや)』と呼ぶが良い。」
浜坂の住人(は)「そにゃぁなことで、航海の際、鮑宮から湧き出る霊水を持って行くと、風波の難を免(まぬが)れると、言われるようになったんだわいや。」
ミッチー「難を免れるとはいえ、出雲まで、アワビ付きの舟で行かねばならぬとは・・・。」
クール「飾りと思えば、ええんでないかいや?」
ミッチー「い・・・出雲人(いずもびと)に笑われそうじゃ・・・(´;ω;`)」
なにはともあれ、再び海に出た一行。
出雲まで、あと少しである。
つづく
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