JW180 福姫誕生
【孝霊天皇編】エピソード35 福姫誕生
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前246年、皇紀415年(孝霊天皇45)5月。
大后(おおきさき)の細媛(くわしひめ)(以下、細(ほそ))は、妊娠した状態で、孝霊天皇こと笹福(ささふく)の後を追ったのであった。
同行する者は下記の通りである。
百田弓矢姫(ももたのゆみやひめ)(以下、ユミ)。
細の父親、磯城大目(しき・の・おおめ)。
宿禰(すくね)の物部大水口(もののべ・の・おおみなくち)(以下、みなお)。
そして一行は、鳥取県日野町上菅(ひのちょう・かみすげ)の付近まで来たのであった。
そこで陣痛(じんつう)に見舞われた細媛。
日野川(ひのがわ)の河瀬にて出産を迎えようとしていたのであった。
細「う・・・産まれるぅぅ!!」
村人の産婆(さんば)が傍らで声をかける。
村の産婆さん「大后! 落ち着いて! 息を吸ってぇぇ。吐いてぇぇ。」
細「ふぅ、ふぅ、はぁ。ふぅ、ふぅ、はぁ。」
やがて、細媛は元気な女の子を産んだのであった。
大目「可愛いオミナ(女)なんじゃほい。名前は如何(いかが)するんじゃほい。」
細「こ・・・この物語では、既に大王(おおきみ)に名付けてもらっております。」
大目「ほう! 何という名前なんじゃほい?」
村の産婆さん「どげな名前だがん(どんな名前なんですか)?」
細「福(ふく)です。ですから、福姫(ふくひめ)ですね。」
大目「福姫・・・。いい名前なんじゃほい!」
村の産婆さん「そげですねぇ。」
ユミ「ちなみに、福姫が産まれた場所ということで、この地は生山(しょうやま)と呼ばれるようになったんだって。二千年後の日南町生山(にちなんちょう・しょうやま)です!」
細「そして、この地を離れる際に、わらわは、歌を詠(よ)んだのです。それでは聞いてください。『むら雨の~露のなさけの名残りをば~此処にぬぎ置く~菅の蓑笠~』 どうです?」
ユミ「すっごくいいです! とってもロマンが有るっ!」
みなお「せやけど、生山なぁ。前回紹介した都合山(つごうやま)から離れてしもてるんよなぁ。」
ユミ「離れてるって?」
みなお「よう地図を見ておくんなはれ。妻木(むき)から来たんやったら、生山に行く前に左に折れんと、あかんかったんとちゃいますか?」
細「安心しなさい。福姫を産んだのは、上菅とも言われているのです。」
みなお「ほんまでっか?!」
細「上菅の菅福神社(すげふくじんじゃ)で福姫を産んだともされているんですよ。そこからなら、都合山から離れてはいないでしょう?」
みなお「た・・・確かに・・・。」
するとそのとき、あの人物が唐突にやって来た。
その人物とは・・・第七代天皇、孝霊天皇こと笹福であった。
笹福「細(ほそ)! なにゆえ、参ったのじゃ!」
細「お・・・大王(おおきみ)! なにゆえと申されても、会いたくて来たに、決まってるじゃないですか!」
笹福「なんという無茶を・・・。子が産まれそうになっておると聞いて、都郷(つごう)から参ったぞ。して・・・あっ! もう産まれておるではないかっ!」
大目「ちなみに、都郷とは、都合山の有る一帯のことじゃほい。」
笹福「補足説明、大義である。して、姫であったか?」
細「はい。姫にございます。福姫にございます・・・。」
笹福「そうか・・・。そうか・・・。福姫か・・・。なんと愛らしい。」
ユミ「ところで、大王? うちの人は?」
笹福「うん? ユミも来ておったのか? 芹彦(せりひこ)なら、都合山で製鉄教室をやっておるぞ。鬼たちは、なんと『たたら師』であったと言われておるのじゃ。」
ユミ「は? 『たたら師』?」
笹福「たたら製鉄をおこなう者たちのことじゃ。」
細「で・・・では、製鉄教室とは、大王たちが、鬼たちに教えてもらっているということですか?」
笹福「うむ。その代わりに、我(われ)らは、稲作を教えておるのよ。」
みなお「日野町や日南町の一帯には、多くの製鉄遺跡が有るみたいやけど、そういう人たちが、仰山(ぎょうさん)おったっちゅうことでっか?」
笹福「うむ。そのようじゃな。作者は、製鉄業の衰退により、食い物を求めて賊になったと考えておるようじゃ。」
大目「製鉄業が衰退? どういうことなんじゃほい?」
笹福「エピソード113において、出雲(いずも)の港が塞がれたという話が紹介されておったが、そのために、輸出量が減り、生活が不安定になったことが原因ではないかと・・・。」
みなお「産出量が減ったっちゅうわけやなくて、売れる量が減ったちゅうことか・・・。」
笹福「我が国においての使用量よりも、他国への輸出の方が多かったのであろうな・・・。」
村の産婆さん「あのう・・・。お話のところ申し訳ないんですが、地名紹介しても、ええかね?」
笹福「うん? 産婆殿。地名紹介は、ほとんど終わっておるのではないか?」
村の産婆さん「それが、姫に産湯(うぶゆ)を浸(つ)からせたという地名が残っちょるんだわ。」
ユミ「そうなんです! 産湯を使ったという産盥(うぶたらい)って地名が有るらしいのよ。」
みなお「どこやねん?」
ユミ「それが、二千年後は、線路の下になってるみたい・・・(´;ω;`)ウッ…。」
村の産婆さん「・・・ということで、詳しい場所が分からないんだがん・・・(´;ω;`)ウッ…。」
笹福「とにもかくにも、この菅福神社こそ、我(われ)と汝(いまし)・・・そして、福姫が暮らした行宮(あんぐう)であるぞ!」
細「えっ?! この地が行宮となったのですか?」
笹福「左様じゃ。それゆえ、神社となっておるのじゃ。」
細「では、わらわも、共に、稲作教室をおこないます。」
こうして、細媛一行も加わって、稲作教室と製鉄教室は、更に盛況を見せるのであった。
つづく
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