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JW316 船旅は解説のあとで

【丹波平定編】エピソード23 船旅は解説のあとで


第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。

彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)の一行は、出雲(いずも)からの帰路に就いていた。

地図(帰路)

同行するのは「イマス」の息子にして、四道将軍(しどうしょうぐん)の丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)。

そして、黄沼前来日(きぬさき・の・くるひ)(以下、クール)である。

航海は順調に進み、再び、二方国(ふたかた・のくに)に至った頃・・・。

系図(イマス、ミッチー)
地図(二方国周辺)

イマス「何があったのじゃ?」

ミッチー「ち・・・父上っ。嵐にござりまするっ。」

クール「暴風雨で、視界不良になっとるわいや! 舟が転覆する恐れも有るっちゃ!」

イマス「ち・・・近くに舟を寄せるところはないか、探すのじゃ!」

一行の舟は、辛うじて港を発見し、そこに寄港したのであった。

イマス「なんとか助かったな・・・。」

クール「辛うじて港に入ったことから、それ以降、難棹諸寄(かねさしもろよせ)の港と呼ばれるようになったみたいだっちゃ。」

ミッチー「二千年後の兵庫県新温泉町(しんおんせんちょう)の諸寄(もろよせ)にござりまする。諸寄海水浴場が有るあたりですな。」

地図(難棹諸寄→諸寄)

クール「出典は『国司文書(こくしもんじょ) 但馬故事記(たじまこじき)』だっちゃ。」

イマス「エピソード312で、出雲に赴く途次、舟を修繕(しゅうぜん)した、塩谷浦(しおだにうら)の近くではないか!?」

地図(塩谷浦の近く)

するとそこに、二方国の豪族、宇都野真若(うつのまわか)(以下、マーカ)がやって来た。

マーカ「皇子(みこ)! おかえりなさいませっ。」

イマス「おお! 『マーカ』か・・・。帰って参ったぞ。」

マーカ「して、出雲大社(いずもたいしゃ)に参拝することは出来たのですか?」

イマス「うむ。参拝できたぞ。ちなみに、正しい読みは『いづもおおやしろ』なのじゃ。」

マーカ「そ・・・そうなのですか?」

イマス「それより、汝(いまし)が、ここに現れたということは・・・。」

マーカ「流石は、皇子! この地に鎮座(ちんざ)する神社を紹介するため、参りもうした。」

ミッチー「して、その社(やしろ)は、何と言う神社なのじゃ?」

マーカ「金指神社(きんしじんじゃ)にござりまする。」

金指神社(鳥居と拝殿)

クール「此度の出来事と関わりが有るんかいや?」

マーカ「特にないと思いまするが、名前を見てくだされ。」

イマス「社の名に、何かあると申すか?」

マーカ「金指は『かなさし』とも読めまする。港の名から取られたモノではないかと・・・。」

ミッチー「なるほど・・・。『かなさし』が、いつの頃からか『きんし』に変わったのではないかと考えておるのじゃな?」

マーカ「左様にござりまする。」

クール「・・・となると『難棹(かねさし)』という字も『金指』に変わったということか?」

マーカ「あくまで、作者の妄想にござりまするが、全く関わり合いが無いとも言い切れますまい。」

イマス「たしかに・・・。して、鎮座地は、新温泉町諸寄なのであろう?」

マーカ「御意にござりまする。祭神は、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)にござりまする。」

地図(金指神社)

イマス「左様か・・・。解説、大儀(たいぎ)であるっ。」

こうして、一行は、嵐が収まると、再び出航したのであった。

そして・・・。

クール「舟生水門(ふなおのみなと)に着いたわいや!」

イマス「舟生? そこは、二千年後の何処(いずこ)になるのじゃ?」

クール「そにゃぁなこと、わえ(私)には、分からんわいや。」

ミッチー「仕方ない。それがしが、解説致そうぞ。」

クール「えっ? 『ミッチー』様は、御存知で?」

ミッチー「確かなこととは言い切れぬが、これは、書き間違えではないかと思われる。」

イマス「書き間違え? 『ミッチー』よ。詳(つまび)らかに申せ。」

ミッチー「では、申し上げまする。これは、丹生(にう)の書き間違えではないかと・・・。丹生湊(にう・のみなと)であれば、二千年後の柴山港(しばやまこう)となりまする。」

クール「柴山港?」

ミッチー「兵庫県香美町香住区(かみちょう・かすみく)の沖浦(おきのうら)から上計(あげ)、浦上(うらがみ)に囲まれた湾のことじゃ。」

地図(丹生湊→柴山港)

イマス「さすれば、我(われ)らは、この地で休んだということか?」

ミッチー「左様にござりましょうな。ちなみに、香住区浦上には、丹生神社(たんしょうじんじゃ)が鎮座しておりまする。」

丹生神社(鳥居と拝殿)
地図(丹生神社)

イマス「なにゆえ、この地の人々は、社の名を音読みにしたがるのじゃ?」

クール「そにゃぁなこと、わえ(私)に聞いても、分からんわいや!」

ミッチー「ところで、祭神は、丹生津彦命(にうつひこ・のみこと)という神様なのですが・・・。」

イマス「聞いたことのない神様じゃな?」

ミッチー「そうなのです。土地神かもしれませぬが、共に祀(まつ)らている丹生津姫命(にうつひめ・のみこと)の夫(つま)なのかもしれませぬな。」

イマス「丹生津姫も聞いたことがないぞ。」

ミッチー「あっ! 申し訳ござりませぬ。丹生津姫とは、水神とも、赤顔料の水銀朱(すいぎんしゅ)の神とも、言われている神にござりまする。」

イマス「水銀朱・・・。エピソード40で解説された、辰砂(しんしゃ)のことじゃな?」

辰砂

ミッチー「御意にござりまする。なお、丹生津姫は、伊弉諾神(いざなぎのかみ)と伊弉冉神(いざなみのかみ)の子供だとか、大国主大神の子供だとか、稚日女尊(わかひるめ・のみこと)とも言われておりまする。」

イマス「稚日女尊・・・。たしか、素戔嗚命(すさのお・のみこと)の乱暴狼藉(らんぼうろうぜき)で亡くなられた神様じゃな?」

ミッチー「左様にござりまする。天照大神(あまてらすおおみかみ)の娘とも、若魂(わかみたま)とも言われている神様ですな。」

こうして、神社紹介により「イマス」たちは、帰り着くことが出来なかったのであった。

つづく

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