JW183 悲しみは突然に
【孝霊天皇編】エピソード38 悲しみは突然に
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前232年、皇紀429年(孝霊天皇59)。
孝霊天皇こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))が、伯伎国(ほうき・のくに)の印賀(いんが)の鬼退治を始めて、二年の歳月が流れた。
ちなみに、伯伎国とは、現在の鳥取県西部のことである。
そんな中、留守を守る皇女(ひめみこ)の福姫(ふくひめ)(以下、ふぅ)は、エンドウ豆を採りに来ていたのであった。
同行する者は、百田弓矢姫(ももたのゆみやひめ)(以下、ユミ)である。
ふぅ「蔦(つた)が、いっぱい生えてるが! これが、野良豆(のらまめ)かね?」
ユミ「野良豆っていうのは、エンドウ豆の古名ね。まあ、本当なら、有るはずないんだけど・・・。」
ふぅ「どういうことだがん?」
ユミ「エンドウ豆は、八世紀頃に伝わったとされてるのよ。」
ふぅ「えっ? じゃあ、これは?」
ユミ「ま・・・まあ、エンドウ豆的な・・・何かね。」
ふぅ「それにしても、蔦が竹に絡みついて、なかなか採れないんだがね!」
ユミ「ここは、力いっぱい引っ張るしかないっしょ! よっこらせっ!」
ふぅ「なるほど。そげにするんだね。よっこらせっ!」
福姫は、蔦を力いっぱい引っ張った。
初めての事で、加減が難しかったのであろう。
勢いが付き過ぎ、竹の端が目に突き刺さってしまった。
ふぅ「痛い! 痛い! (>_<)!」
ユミ「ああ、ふぅちゃん! なんてこと! 早く、行宮(あんぐう)に戻りましょ!」
行宮に戻り、床に就いた福姫であったが、目は大きく腫れあがってしまった。
生母で大后(おおきさき)の細媛(くわしひめ)(以下、細(ほそ))が、傍らで看病するも、高熱を発し、容体は悪化する一方であった。
ふぅ「痛い・・・。痛い・・・。」
細「ふぅちゃん・・・。しっかりするのですよ・・・。」
ユミ「ア・・・アタシ、お祈りしてきます!」
そこへ、印賀の鬼と戦っているはずの笹福が、行宮に戻ってきた。
笹福「細(ほそ)! ふぅちゃんが怪我をしたというは、まことか!?」
細「ああ、大王(おおきみ)。まことに申し訳ございません。わらわが至らぬばかりに・・・。」
ユミ「いえ、アタシの所為(せい)なんです。アタシが、しっかりしてなかったから・・・。」
笹福「そのようなことは、もう良い。それより、治る見込みは、有るのか?」
細「日に日に、熱が高くなり、食も細くなっておりまして・・・。」
笹福「な・・・なんと・・・。ふぅ! 父上が帰って参ったぞ! ふぅ!」
ふぅ「はぁ・・・はぁ・・・。父上? お帰りなさいませ・・・。」
笹福「うむ。ゆっくり寝ておれば、直(じき)に良くなるぞ。」
ふぅ「は・・・はい。父上・・・・・・ガクッ。」
笹福「あっ! ふぅちゃん! ふぅ!」
細・ユミ「ふぅちゃん! (´;ω;`)!」×2
福姫は、この事故がもとで亡くなったのであった。
まだ、十五歳であった。
ここで、笹福が、悲しみを堪(こら)えて、解説を始めた。
笹福「こうして『ふぅ』を、村の小高い丘に埋葬したのじゃ。」
印賀の住人、ジムも加わる。
ジム「村人たちも悲しみ、丘の麓で『ふぅちゃん』を祀(まつ)ったんだがん。これが、樂樂福神社(ささふくじんじゃ)の由来とされちょるんだが。」
笹福「前回、行宮の場所ではないかと紹介されておった神社じゃな?」
ジム「そげだがん(その通りです)。『ふぅちゃん』を祀ることになったので、神社になったんだがん。。」
笹福「これからずっと『ふぅちゃん』の御魂(みたま)、安かれと祈ってくれい・・・。」
ジム「分かったが! それと・・・。」
笹福「それと?」
ジム「わ(私)たちの子孫は『ふぅさま』をお慕いし、二千年後も、竹を植えたり、竹の箸を使わないようにしているんだがね。『ふぅさま』を傷つけた竹を遠ざけちょるんだがん。」
笹福「左様か・・・。汝(いまし)らの真心(まごころ)、決して忘れぬぞ・・・(´;ω;`)ウッ…。」
ジム「お・・・大王・・・(´;ω;`)ウッ…。」
こうして、笹福は悲しむ暇もなく、陣中に戻ったのであった。
笹福「今、戻った・・・。」
鶯王「大王・・・。心中御察し申し上げまする。」
笹福「うむ。我(われ)のおらぬ間、よくぞ持ちこたえてくれた・・・。」
歯黒「ところで、『ふぅ』の弔(とむら)いは、つつがなく?」
笹福「うむ。印賀の村人たちも加わり、厳(おごそ)かにおこなわれた・・・。」
タケ「まさか・・・このようなことになるとは・・・。」
芹彦「父上! なにゆえ『ふぅ』が死なねばならぬのです!? 『ふぅ』は、まだ、ヤマトを見たことがないのですぞ! まだ会ったこともない姉弟(きょうだい)もおるのですぞ! 日嗣皇子(ひつぎのみこ)に至っては、同じ大后から生まれた兄妹ではありませぬか!」
笹福「もう良い! 芹彦! もう・・・言うてくれるな・・・。」
芹彦「されどっ!」
タケ「芹彦! 悲しいのは、汝(なれ)だけではないのじゃ!」
芹彦「そのようなこと分かっておるわ! (´;ω;`)ウッ…!」
鶯王「わ(私)たちは・・・戦(いくさ)の最中(さいちゅう)ぞ・・・。涙は・・・涙は禁物・・・(´;ω;`)ウッ…。」
歯黒・タケ・芹彦「あ・・・兄上・・・(´;ω;`)ウッ…。」×3
大目「おお! ふぅちゃぁぁん! (´;ω;`)!」
牛鬼「なんで・・・こげなことに・・・(´;ω;`)ウッ…。」
悲しみに暮れる陣中。
そんなことなど、お構いなしに、印賀の鬼たちは、情け容赦なく、攻め込んでくるのであった。
つづく
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