JW173 鎮定に赴く者
【孝霊天皇編】エピソード28 鎮定に赴く者
第七代天皇、孝霊天皇(こうれいてんのう)の御世。
すなわち、紀元前246年、皇紀415年(孝霊天皇45)。
ここは黒田廬戸宮(くろだの・いおど・のみや)。
孝霊天皇こと、大日本根子彦太瓊尊(おおやまとねこひこふとに・のみこと)(以下、笹福(ささふく))は、腕組みをして、悩み込んでいた。
目の前には、出雲(いずも)の家来、明速祇(あけはやづみ)(以下、あっくん)がいる。
伯伎国(ほうき・のくに:今の鳥取県西部)に蔓延(はびこ)る賊の鎮定(ちんてい)をヤマトに依頼しに来たのである。
あっくん「前回紹介した月支国(げっしこく)の王が、攻め込んでくるやもしれぬのです。」
笹福「出雲が苦しい立場に有ることは分かりもうした。されど・・・。」
あっくん「されど?」
笹福「伯伎の賊鎮定伝承は、出雲の要請を受けたものにあらず。民(おおみたから)が苦しんでいるのを見過ごすことができず、出兵したと書かれておる。」
あっくん「月支国との伝承にからめるのは、無理があるのではないか・・・ということにござりまするな? 作者の構成に異議有りと申されまするか?」
笹福「異議というわけではない。ただ、伝承が間違って伝わることを恐れたまで・・・。」
あっくん「では、出兵に関しては、御承諾いただけるということで、よろしゅうござりまするか?」
笹福「その儀については、何(なん)ら支障なし。すぐにでも、兵を差し向けましょうぞ。」
あっくん「ありがたきかな。これで、肩の荷も下りもうした。」
するとここで、大臣(おおおみ)の磯城大目(しき・の・おおめ)と物部出石心(もののべ・の・いずしごころ)(以下、いずっち)が口を挟んできた。
大目「月支国との戦(いくさ)は、どうするつもりなんじゃほい?」
いずっち「我が国も共に戦う・・・ということで、ええんか?」
あっくん「出来得るならば、そうしていただけると助かりまする。」
笹福「して、月支国は、いつ攻め込んでくる? すぐにでも攻め込んでくる気配有りや、無きや?」
あっくん「すぐに攻め込んでくることは有りますまい。彼(か)の国は、今、燕(えん)と戦の真っ最中にござりますれば・・・。」
笹福「燕(えん)?」
あっくん「大陸の北方に位置する国にござりまする。」
笹福「月支国と燕国が戦をしておると?」
あっくん「厳密に申せば、箕子朝鮮(きしちょうせん)にござりまする。」
大目「月支国と箕子朝鮮が同じ国であるという保障は無いんじゃほい。」
いずっち「せやで。月支国は、あくまで伝承に登場する国やろ?」
あっくん「さりながら、『日本書紀(にほんしょき)』に書かれた年代、すなわち、紀元前246年が正しいとするなら、箕子朝鮮(きしちょうせん)という国が有った時代と重なりまする。」
笹福「その箕子朝鮮が、この頃、燕国と戦をおこなっていたと?」
あっくん「紀元前300年頃から、燕国は、領土を奪うため、箕子朝鮮に攻め込んでおるのです。」
笹福「なるほど。月支国と箕子朝鮮を同一と見た時、燕国との戦が一段落ついてから、出雲に攻め込んでくるであろうと、考えておるのじゃな?」
あっくん「左様にござりまする。」
するとそこに、尾張建斗米(おわり・の・たけとめ)(以下、ケット)と、その息子の建宇那比(たけうなひ)(以下、うな吉)がやって来た。
ケット「出兵の前に、言うとかにゃぁならんことが有るでよ!」
うな吉「そうだがや! 素戔嗚命(すさのお・のみこと)こと『スーさん』のことだわさ。」
笹福「ケット、うな吉・・・。如何(いかが)致した?」
ケット「スーさんが、帰国した伝承は、我(われ)らが治める尾張(おわり)の伝承なんだで。」
うな吉「その通り! 津島神社(つしまじんじゃ)の伝承なんだがや!」
笹福・大目・いずっち・あっくん「津島神社?」×4
うな吉「愛知県の津島市神明町(つしまし・しんめいちょう)に鎮座(ちんざ)しとるでよ。」
ケット「スーさんを祀(まつ)っとるがや!」
笹福「素戔嗚命は、そちらにも祀られておるのか?」
うな吉「その通りだがや。津島神社の『津島』とは、対馬(つしま)に鎮座した和魂(にきみたま)が、そののち、こちらに遷(うつ)って来られたことによるものだで。それで、津島と名付けられたんだがや。」
笹福「漢字が違うようじゃが?」
あっくん「つ・・・対馬は、昔、『津島』とも書かれておったようですので、うな吉殿の申されることに、偽りは無いかと・・・。」
うな吉「たぁけぇ(馬鹿者)! わしが、嘘を吐くはずないやろう!」
笹福「とにもかくにも、素戔嗚命が御帰国あそばされ、月支国が攻め込んでくる恐れが有るということじゃな?」
大目「では、我(われ)らは、賊の鎮定をおこなうんじゃほい。」
いずっち「せやな。ほんなら、誰を赴かせるか・・・が問題になってくるなぁ。」
ケット「我(われ)と『うな吉』はダメだがや。」
笹福「なにゆえじゃ?」
ケット「我(われ)と『うな吉』は、今回でクランクアップなんだで! 悔しいです!」
笹福「そ・・・そうか。左様なれば、致し方ないのう。」
うな吉「大王(おおきみ)。息子の建諸隅(たけもろすみ)こと『ケモロー』のこと、よろしく頼むでよ。大事にして、ちょうせんか(くださいませんか)?」
笹福「相分(あいわ)かった。無下(むげ)には扱わぬ。」
うな吉「それを聞いて、安心したがや。」
いずっち「そないなことより、兵を率いる将を決めんとあきまへんで!」
笹福「分かっておる。此度(こたび)の出兵に関しては・・・。」
いずっち・大目「関しては?」×2
笹福「我(われ)自ら、兵を率い、賊を鎮定せしめん!」
いずっち・大目・ケット・うな吉・あっくん「ええぇえぇ!!」×5
こうして、笹福による伯伎鎮定伝承が始まったのであった。
つづく
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?