JW310 勢刺海の戦い
【丹波平定編】エピソード17 勢刺海の戦い
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
丹波(たにわ)の豪族、陸耳御笠(くがみみのみかさ)(以下、みかさ)との最後の戦いは、岬(みさき)の海上でおこなわれた。
いわゆる海戦である。
彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)らの率いる船団が「みかさ」率いる船団とぶつかる。
イマス「敵を討ち滅ぼすのじゃっ!」
みかさ「わてらの丹波を取り戻すんやっ!」
ここで、戦いに加わりし者たちを紹介しよう。
まずは「みかさ」勢。
狂(くるい)の土蜘蛛(つちぐも)こと「くるっち」が、不慣れな海戦に臨む。
くるっち「舟が、こにゃぁに揺れるとは思わんかったわいや!」
次に、ヤマト勢。
まずは「イマス」の息子にして、四道将軍(しどうしょうぐん)の丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)。
ミッチー「それがしの『国見(くにみ)の剣(つるぎ)』が、戦いを欲(ほっ)しておるぞっ。」
つづいて、副将の尾張倭得玉彦(おわり・の・やまとえたまひこ)(以下、玉彦)。
玉彦「最終決戦だがや! 皆の衆、どえりゃぁ働いてちょうだゃぁ(働いてくれ)!」
更に、多遅摩(たじま)の豪族たちも戦いに加わる。
まずは、多遅摩国造(たじま・の・くにのみやつこ)の多遅摩日楢杵(たじま・の・ひならき)(以下、ラッキー)。
ラッキー「攻めるニダ! どんどん攻めるハセヨ!」
次に、多遅摩竹野別当芸利彦(たじまの・たかのわけ・の・たぎりひこ)(以下、たぎり)。
たぎり「実を言うと、他の豪族たちに負けたくないんだよなぁ。」
そして、黄沼前県主(きぬさき・の・あがたぬし)の穴目杵(あなめき)(以下、アナン)。
それから、アナンの息子、黄沼前来日(きぬさき・の・くるひ)(以下、クール)。
アナン「息子よ! 共に行かぁ(行こう)!」
クール「父上! 分かってるっちゃ!」
更に、小田井県主(おだい・の・あがたぬし)の「ピット」。
ピット「吾輩(わがはい)は、決して引かないのである!」
そして、そのときが訪れる。
たぎり「敵将、見つけたり! 『みかさぁぁ』! 覚悟ぉぉ!」
ザクッ
みかさ「な・・・なんやて? わ・・・わての腹(はら)に、剣が深々と突き刺さってるで?」
たぎり「悪いなぁ。他の豪族たちに負けたくないんでねぇ。」
みかさ「こ・・・こないなこと・・・わては・・・認めへん・・・で・・・グフッ。」
たぎり「敵将『みかさ』、討ち取ったりぃぃ!!」
イマス「おお! ついにやったか!」
ミッチー「最後は『たぎり』に刺殺されたということで、この辺りの海は『勢刺海(いきさのうみ)』と呼ばれるようになったそうですぞ。」
玉彦「岬も、伊技佐御崎(いきさのみさき)と呼ばれるようになったげな。」
ラッキー「作者は、伊笹岬(いささみさき)のことではないかと、考えているハセヨ。」
たぎり「信じていいのか?」
アナン「大丈夫だっちゃ。近くに、伊伎佐神社(いきさじんじゃ)が有るんだわ。だしけぇ(だから)、間違いないっちゃ。」
クール「父上? どげな神様が祀(まつ)られとるんかいや?」
アナン「聞いて驚けっ。『イマス』様だわいや!」
イマス「なにっ! 我(われ)が祀られておるのか?!」
アナン「その通りだっちゃ。西暦706年、皇紀1366年(慶雲3)7月、文武天皇(もんむてんのう)の御世に、疫病が流行して・・・。」
イマス「そのとき、社(やしろ)が建てられたということか?」
アナン「そげです。その際に、美含郡(みかた・こおり)の大領(だいりょう)、椋椅小柄(くらはし・の・こがら)という人物が、皇子(みこ)を伊伎佐(いきさ)の丘に勧請(かんじょう)したのが始まりとされとるんだわ。」
クール「大領っちゅうのは、郡(こおり)を治める郡司(ぐんじ)の長官という意味だっちゃ。」
ピット「そして、勧請は、神霊を分祀(ぶんし)することなのである。」
ヤマト勢が、解説で盛り上がっていると、あの男が吼え始めた。
狂の土蜘蛛こと「くるっち」である。
くるっち「そにゃぁなことより、わえ(私)をほったらかしにすなっ!!」
イマス「そうであった。『くるっち』よ! 如何(いかが)致す? まだ戦うか?」
くるっち「降参するに決まっとるわいや!」
イマス「よし! 許そうぞ。では、降参の証(あかし)として、伊伎佐神社(いきさじんじゃ)の地名を紹介せよっ。」
くるっち「分かったわいや。伊伎佐神社は、兵庫県香美町(かみちょう)の香住区余部(かすみく・あまるべ)に鎮座(ちんざ)しとるんだわ。」
イマス「解説、大儀(たいぎ)である!」
こうして、ついに陸耳御笠を討ち取ることに成功したのであった。
生き残った「みかさ」勢が、降参したのは言うまでもない。
イマス「長い戦いであった・・・。」
ミッチー「左様にござりまするな。」
玉彦「だけどよぉ。これで、丹波も多遅摩も安泰だで。」
イマス「そうじゃのう。」
ラッキー「それで・・・皇子たちは、これから、どうするニカ?」
イマス「このあとは、出雲(いずも)に向おうと思うておる。」
たぎり「へ? 出雲? なんのために?」
アナン「もしかして・・・戦勝を報せに行くんかいや?」
イマス「その通りじゃ。」
くるっち「そげか・・・。では、わえ(私)は、帰らせてもらうっちゃ。」
出雲へ向かうと言う「イマス」。
新たな旅が始まる。
つづく
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