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JW307 それぞれの思惑
【丹波平定編】エピソード14 それぞれの思惑
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
戦いに敗れた、丹波(たにわ)の豪族、陸耳御笠(くがみみのみかさ)(以下、みかさ)は、手下と共に、狂(くるい)に来ていた。
この地を治める、狂の土蜘蛛(つちぐも)こと「くるっち」を頼ったのである。
くるっち「エピソード296以来だっちゃ。ちなみに、狂は、二千年後の兵庫県豊岡市城崎町来日(とよおかし・きのさきちょうくるひ)のことだわいや。そんで、根城(ねじろ)は久流山(くるやま)こと来日岳(くるひだけ)のことだっちゃ。」
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みかさ「そないなこと、今、言わんでもええやろ?」
くるっち「久々だで、読者も忘れとると思ったんだわいや。そんで、なんだいや?」
みかさ「何って・・・丹波を取り戻すため、共に戦ってるやないか。汝(いまし)に助太刀してもらお思(おも)て、ここまで来たんや。」
くるっち「けどなぁ・・・。」
みかさ「ん? どないした?」
くるっち「丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)こと『ミッチー』は、わえら(私たち)を攻めるつもりは無いみたいなんだわ。だしけぇ(だから)、まぁおしまいんしゃぁ(もう終わりにしよう)。」
みかさ「何、言うてんねんっ。ヤマトに、ええようにされて、汝(いまし)は悔しないんか?!」
くるっち「そげなこと言われてもなぁ。ヤマトには、勝てんわいや。」
みかさ「見損(みそこ)なったで! 『くるっち』! 諦めたら、あかんっ。まだ、わてらには出雲(いずも)がおるやないかっ!」
くるっち「え? 聞いてないんかいや?」
みかさ「聞いてへんって、どういうことやねん?」
くるっち「出雲君(いずものきみ)はなぁ、ヤマトに勧請(かんじょう)を許したんだっちゃ。」
みかさ「なんやて?! 多遅摩(たじま)で、出雲の神々が分祀(ぶんし)されたんか?」
くるっち「そういうことだわいや。だしけぇ、まぁおしまいんしゃぁ。」
みかさ「有り得へん。そないなこと、有り得へん。わては、認めへんでぇ。」
くるっち「どげしたら、そにゃぁなことになるんだ? わやくちゃ(無茶苦茶)だわいや!」
みかさ「何でも、ええねん。こうなったら、出雲に直談判(じかだんぱん)やっ。」
くるっち「そげなこと『丹後国風土記逸文(たんご・のくに・ふどき・いつぶん)』にも『国司文書(こくしもんじょ) 但馬故事記(たじまこじき)』にも書かれてにゃぁで(書かれてないよ)?」
みかさ「それでも、わては行くんやっ。」
こうして、作者オリジナル設定で「みかさ」は、出雲に向かうことになったのであった。
一方、そのころ、彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)たちは「みかさ」勢の捜索に当たっていた。
そこへ、一人の人物がやって来た。
「イマス」の息子にして、四道将軍(しどうしょうぐん)の「ミッチー」である。
ミッチー「父上! お久しゅうござりまする。」
イマス「おお! 『ミッチー』か! されど、どの伝承にも、汝(なれ)が来たなどと、書かれてはおらぬぞ?」
ミッチー「作者のオリジナル設定にござりますれば・・・。」
イマス「・・・とは申せ・・・何かを伝えんがため、ここまで参ったのであろう?」
ミッチー「左様にござりまする。実は、此度(こたび)・・・。」
イマス「ん? 何か、あったのか?」
ミッチー「つ・・・妻を迎えもうしたっ。では、紹介致しまする。我妻(わがつま)、河上摩須郎女(かわかみのます・のいらつめ)こと『マス子』にござりまする。」
マス子「お義父様(とうさま)。よろしゅう御願い致しますぅ。」
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イマス「子細(しさい)は、作者から聞いておる。尾張氏(おわり・し)と誼(よしみ)を結ぶは、まことに良きことじゃ。なれどな・・・。」
ミッチー・マス子「なれど?」×2
イマス「このようなことに、紙面を使うべきではないと思うぞ。」
ミッチー「それだけではありませぬ。それがしと『マス子』も探索に加わりたいと思いまして・・・。」
イマス「汝(なれ)や『マス子』殿の気持ちは、嬉しい。されど、二人には、他にやってもらいたいことがある。」
マス子「それは何ですの?」
イマス「エピソード304から305にかけて『蟻道(ありじ)の戦い』がおこなわれたのは、汝(いまし)らも知っておろう?」
ミッチー「もう、済んだ戦いではござりませぬか・・・。それが何か?」
イマス「これは、作者の見解じゃが、あの戦いで、南丹波(みなみ・たにわ)の豪族たちが『みかさ』に助太刀したと思われる。」
ミッチー「丹波の南部ということですな?」
イマス「その通りじゃ。我(われ)らが勝ちを収めたゆえ、今は、ヤマトに従っておるが、まだまだ、安心は出来ぬ。」
マス子「あのう? お義父様? 『戦いに関わること』やったら、勘弁(かんべん)してくれませんか。私・・・オミナ(女)なんですよ?」
イマス「心配致すな。荒事(あらごと)に非(あら)ず。」
ミッチー「では、何事にござりましょうや?」
イマス「南丹波の鎮撫(ちんぶ)がため、社(やしろ)を建ててほしいのじゃ。」
マス子「それやったら、任せてくださいっ。」
ミッチー「何を言っておるのじゃ! それでは、それがしの『国見(くにみ)の剣(つるぎ)』が活躍出来ぬではないかっ!」
イマス「社を建て、民(おおみたから)を安んじめることも、大事な務めぞ。」
ミッチー「わ・・・分かっておりまするが・・・。して、父上は、このあとも『みかさ』の行方を捜すのでござりまするか?」
イマス「うむ。『みかさ』が見つかったなら、汝(なれ)にも報せを送ろうぞ。」
ミッチー「よろしゅう御願い申し上げ奉(たてまつ)りまする。」
こうして「ミッチー」と「マス子」は、神社創建に向かうことになった。
つづく