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てやんDEI!vol.3 ジェンダー課題に「言い訳」するのはなぜ?”数じゃない”にてやんDEI!/菅原亜都子さん(札幌市男女共同参画センター)

DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)推進は、「てやんでい!」の連続。誰もが自分らしく力を発揮できる北海道を目指し、日々奮闘するエゾっこたちにスポットを当てる連載企画「てやんDEI!」by ゼンカツ(DHJ全員活躍推進プロジェクト)。
 
今回のゲストは札幌市男女共同参画センターの菅原亜都子さんです。日本の組織はなぜ、ジェンダーの話になると途端に数値目標を達成したがらなくなるのか。そんな「甘い」社会を根源的に変えるべく、菅原さんが取り組んでいることや、そこに込めた思いを伺いました。

 菅原 亜都子さん
公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会
札幌市男女共同参画センター勤務


 なんのためのジェンダー平等?なぜ進んでないのに達成ムード?

菅原さん。札幌市男女共同参画センターにて。

−男女共同参画センターではどのようなことをされているのでしょうか? 

菅原さん:市民の方に向けて、ジェンダーについてのセミナーや勉強会、相談窓口の設置や情報提供などをしています。女性管理職候補の皆さん向けの「女性リーダー研修」や起業したい女性のためのコワーキングスペース「リラコワ」の運営、生活が厳しい女性向けに食料品や生理用品をお渡しする「Cloudy」など、幅広くジェンダー課題に関する事業を行っています。
 
−ちなみに、根本的な質問なのですが「なぜジェンダー平等を進めることが大事なのか」の菅原さんとしての答えはどのようなことでしょうか?
 
菅原さん:何よりも大切な視点は「人権」。つまり、属性や生まれ持った特質などを理由に何かを選びづらかったり、行動や選択が制限されるのは正しくはないし、そんなことがあれば解消していくべきです。
 
でもそれってわかりにくいんですよね。「主婦でも幸せな人はいる」と個人の話にしてしまったり、女性の選択肢が制限されていることについても「今までそれが当たり前だったし」と疑問視しにくかったり、そこに差別や不公正があるとは気づきづらい。
 
−そんな人たちに、どうしたら気づいてもらえるのでしょうか・・?
 
菅原さん:それぞれの立場で、なぜジェンダー不平等が問題なのか?を自分ごととして考えてもらうことが大事だと思います。
 
最近は男性たちにジェンダー課題を認識してもらう活動もしていますが、そんな時にはよくデータを使って説明をします。北海道から道外へ出ていく人のうち女性が男性の27倍にものぼるというデータを出すと「エー!」と驚かれたり、カナダのニュースで「日本からカナダに移住した7割以上が女性」というトピックスもあるなど、優秀な女性たちがジェンダー平等がより進んでいる場所に流れて行ってる事実を目の当たりにすると、経営者の方々は危機感を持たれるようでした。
 
−なるほど、経営層などにジェンダー平等の意識が浸透してくることで状況はよくなってきているのでしょうか?
 
菅原さん:そう願いたいのですが、必ずしもそうでないこともあります。「イコール・ペイ・デイ」という指標があって、男性が1年で稼ぐ金額を女性が稼ぐとしたらプラス何日かかるかをカレンダーで示すのですが、日本は1990年の「8月29日」から少しずつ短くなって2023年は「4月28日」まで行ったんですが2024年は「5月2日」と初めて後退したんです。
 
男女の賃金格差を公開する法律もできましたが、女性の賃金は男性ほど高くなっていない。ジェンダー平等を進める意識は浸透してきたけれど、賃上げなど目先のどうにかしなきゃいけない課題が出てくると、ジェンダー課題は優先度を下げられちゃう。
 
男女共同参画センターではスタートアップ支援もやっていますが、世の中にはまだ「スタートアップって男性でも大変だから、女性は余裕ができたらね。」みたいな雰囲気もあり、他に重要事項があるとジェンダー平等って気づいたら優先順位が下がったり忘れられちゃうんだなって。
 
−なかなかつらいものがありますね。でもたしかに最近はジェンダー平等とか女性活躍って「もう済んだこと」みたいな空気すら感じるときがあるような・・・
 
菅原さん:ジェンダーギャップが先進国の中でも下位の日本の、そのまた全都道府県で下位の北海道にいても「昔から比べたらだいぶいいじゃん、ジェンダー平等進んでいるよ」とどこか現状に満足している雰囲気もありますよね。
 
一方で、ジェンダー平等がトップレベルで進んでいるアイスランドの方々にお話を聞いた時「まだまだジェンダー不平等が存在しており、解決策が十分ではない」と言うんです。進んでいる国は重要性がわかっているから、足りないということがわかる。北海道で現状に満足している人が多いのであれば、それはジェンダー平等の重要性が理解されていないということだと思います。

ジェンダーという言葉に出会って気づいた。「悪いのはあなたじゃなく、社会。」

−菅原さんがジェンダー問題に関心を持ったきっかけはなんだったのでしょう?
 
菅原さん:大学1年生の時に授業で「ジェンダー」という言葉を知りました。その時に、周りにいた生きづらそうな女性の顔が浮かんで。一人はいつも父の顔色をうかがってこそこそ生きた母親。そしてもう一人は高校の友人で、彼氏ができてから急に服が地味になったり、学校に行かなくなったり、いわゆるデートDVだったのですが、別れなよと言っても聞いてくれなくて。

「ジェンダー」という言葉を知って、彼女たちが悪いわけじゃなくて、そうなりやすい社会に生きてたんだ、というのがわかって。これは怒っていいことなんだって思いました。そして、納得が行ったと同時に悔しい気持ちがわいてきました。
 
−その悔しさから、ジェンダー課題に向き合う仕事を選ばれて。
 
菅原さん:私が就職した当時の男女共同参画センターは、来る人々は女性や子どもたちがほとんどでしたが、ジェンダーのことを学べば学ぶほど、女性だけに必要なことじゃなくて男性も学んでほしいと思うようになりました。
 
その点では、第二次安倍政権で「成長戦略としての女性活躍」というテーマが掲げられたときに、企業とか経済団体の人々など、あらゆる分野で女性活躍に取り組まねばという空気が出てきて、ジェンダーに関心を持つ男性も増えました。
 
−潮目が変わったタイミングだったのですね。
 
菅原さん:その時は、勢いに乗りたい気持ちもあった一方で、不安もありました。「急に活躍しろとか言われても、普通にしたいだけなんだけど」という女性も多かったですし、ジェンダーが「経済」の問題として捉えられるようになって、「人権」の意識がやや薄れていくような感覚もありました。
 
でもその後、#MeToo やSDGsなど、人権を大事にした影響力のある文脈が現れてきて、今は「人権」も「経済」も両方で大事という感覚になってきていますね。

女性が多様に、普通に、活躍するには「数」が増えないと。

−「女性活躍」に対して「ほっといてくれ」と思う女性たちは今でも多いように思いますが、そのあたりはどのように捉えてますか?
 
菅原さん:男性と比較すると、「輝け」が指す意味や構造がいびつではありますよね。男性管理職の中には仕事ができない人、地味な人もいてとても多様です。なので、女性もそうなったらいいと思うのです。多様な活躍の仕方があって当然なはずなので。でも女性は数が少ないうちは注目されるから、ある意味で画一的な「輝け」を求められる。多様性を出すにはある程度「数」が必要です。
 
−たとえば女性管理職など、「数」を増やすことに対して疑問視する声って多くないですか?
 
菅原さん:敢えて言いたいんですが、「数を増やすだけじゃ意味がない」とか「性別じゃなくて能力で増やすべきでは?」とか、もう禁止にしたい!もうそんな議論は十分にされてきたと思うんですよね。
 
これまでの長い歴史もありますし、女性はそもそもスタート地点が違うし、ハードルの多さも違うし、「差」がある世の中なんです。いま政治家や管理職に女性が少ないのは、能力がないからではなくて、そういう環境だったから。その「差」を埋めるサポートこそがエクイティだし、その手段の一つが「女性管理職を必ず●割以上にする」と定める「クオータ制」だと思うのです。まず数を増やすことで「差」を埋めるサポートが加速しますが、その逆だと進みが遅くなります。

次の世代に「まだマシなバトンを」。個人ではなく、社会を変えられるように。

−菅原さんのジェンダー課題への取り組みで大事にしていること、コンセプトなどはありますか?
 
菅原さん:目の前の女性たちの支援も大事ですが、社会構造を変える必要があるというのが大きいです。目の前の困っている女性の支援については北海道には力強いNPOがたくさんあります。そういった現場での支援と、社会構造を変える働きかけと両方が大切だと思います。根っこにある男女のパワーの違いという構造的な問題に根気よく向き合っていきたいですね。
 
−その「根気」はどこから出てくるのでしょう?
 
菅原さん:次の世代の人に「まだマシなバトンを渡そう」と思っていることでしょうか。
 
この間、色々な課題に向き合っている仲間うちで「今やってる社会問題ぜんぶ解決したら何する?」って話になって。女性とか男性とか考えたことないな~、みたいな世界になったらどうなるんだろうってワクワクもしたものですが、逆にここまで時間が経ってもそうなっていないので、先は長いと思います。それでも、現状ではなく、今よりマシな社会を次世代に渡したいですよね。
 
−今後の展望はありますか?
 
菅原さん:男性の仲間を増やしていきたいですね。北海道で、パワーを持ってる女性を増やしたいですし、すでにたくさんいるとは思うのですが、重要な意思決定をするポジションにリストアップされていない、可視化されてないというのが現状だと思うので、すでに社会を変える力や社会的立場を持っている男性たちから変わり、女性の座席が増えていったらいいと思います。
 

菅原亜都子さんの、てやんDEI!-”数じゃない”に、てやんDEI!

「敢えて偉そうにしてみるのもイイかも」と不敵な笑みを浮かべた"てやんDEI"ポーズ。

 ―では最後に、菅原さんの「てやんDEI!」をひとことでお聞かせいただけますか?
 
菅原さん:やっぱり「数じゃない」にてやんDEI!ですね。なんで売上とか株価とか、数字を大事にする人たちが、ジェンダーの話になると途端に「数字じゃないよね」になるのか。
 
あと、無理やり女性管理職の「数」を達成させたけど結果うまくいきませんでした、という話も最近だと出てきていますが、管理職になった女性やその周辺の人がどうすれば幸せに働き続けられるかの対策を打つのが必要なのに、女性管理職を登用して、その対策を打たないのであれば、それは仕事として「甘い」ですよね。
 
マジョリティ側にはマイノリティがどんな経験をしているか気づけないし、社会構造がおかしいことに気づきにくいのはわかります。アメリカに「ホワイト・フラジリティ」という言葉があって、白人の人が差別を指摘されたとき、気が動転して冷静でいられなくなってしまうのですが、これはあらゆるマジョリティに起こりえることで。そうならないためには知識を持つことが大事です。私自身も年齢とともに、若い世代に対してのマジョリティ性が増えてきていて、それを指摘されたときの脆さというものを痛感しています。
 
男性たちとも一緒に自分たちの脆さに自覚的になって、社会を変えていく仲間になっていただくための活動を、今後も根気強く続けていきます。
 
 
−まだまだ「甘い」と社会に喝を入れる菅原さんの眼差しの奥には、構造的に苦しい思いをしてきた人たちへのやさしさが溢れていた。菅原さんの思いが届き、ジェンダー課題に言い訳せずに向き合う組織が増えて社会が大きく変わっていくことを願いたい。
 
(ライター:寺岡 真由美)

【ゼンカツ(DHJ全員活躍推進プロジェクト)とは】
「全員活躍」で成長できる組織や社会を目指し、社内外のDEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)課題解決のための活動を行う電通北海道内の有志プロジェクトです。

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