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クワガタの記憶

夜明け前。
同級生のひとりと坂の上で待ち合わせをします。私がまだ小学生だった頃の夏休みの朝です。

私の記事『未来へつなぎとめる、未来へつなぐ』(2024.8.22)で、
私は、次のようにつづりました。

私の少年時代のことが、よみがえってきます。カブトムシやクワガタは、どうやって捕まえたか。川面に乱舞するホタルは、どうやって捕まえたか。もぎたての真っ赤なトマトは、どんな味がしたか。湧き水につけられたスイカをどうやって食べたか。お寺の境内での朝のラジオ体操の前にみんなとどんな遊びをしたか。ひぐらしの森のにおいはどんなだったか。黒電話はどんな音で鳴ったか。私の記憶の中に、その「答え」が確かにあります。

(→この記事の最後に、全文を紹介しています)

カブトムシやクワガタは、どうやって捕まえたか。

カブトムシやクワガタは、デパートや昆虫ショップでGETするものではありません。
まあ、私の子どものころは、そんなところで売っていること自体がありませんでしたが‥。

では、どうするか。

カブトムシやクワガタが活発に動くのは、夜です。
十分に樹液を吸っておなか一杯になっている夜明け前をねらいます。
同級生と私は自転車に乗って、近くのクヌギの雑木林へと向かいます。虫捕りのスリル!ワクワクとドキドキ!自転車で行けるところまで行ってそこからは歩きます。畑の脇を通る二人の足取りが速さを増していきます。懐中電灯がゆれます。二人は、樹液の出ているクヌギの木のありかを知っています。雑木林に入ると、樹液の独特の甘いかおりがしてきます。

おっ! います!います! 
 ( こんな感じ ↓ )

カブトムシ2匹、GET!です。
クワガタは、いませんね。あせっては、なりません。
実は、クワガタを捕まえるのは、ここからです。
私は、しっかりと足を踏ん張り、
「えい!」と、そのクヌギを力強く右足でひと蹴りします

ドン!
すると、静かな雑木林に、ボトッ、という音がして、
同級生が「落ちたで。いた!いた!」と音のした方へ駆けます。
「キソウや!キソウ!」。
私たちのところでは、ノコギリクワガタのことを「キソウ」と呼びます。
まるでスーパーカーのような流線型のそいつが、私はとても好きでした。
ちなみに、ミヤマクワガタは、「ハイノウ」と。どこか老獪(ろうかい)なおじいさんのようで、親しみがありました。
そして、周りの木を、「えい!」とまたひと蹴り。クワガタというやつは、木に振動があると、フリーズして落下することで身を守ろうとするらしいです。いくら木の高いところにいても、このひと蹴り!なのです。

▲当時の呼び名です

まわりが明るくなってきます。二人の虫かごは、いつしかいっぱいです。ちなみに、カブトムシやクワガタは、香ばしいにおいがします。「夏」のにおいです。

私には、この同級生には言っていない「秘密の場所」もありました。
そこには、たまにオオスズメバチがいて、とてもこわかったことも覚えています。

大人になってから分かることですが、雑木林は、人の手が入った林です。子どものころの私たちは、未踏の森の中へと下草をかきわけて入っていったのではなかったのです。雑木林のとなりには、畑があり、スイカやトマトが実っています。クヌギの落ち葉を腐葉土として肥料にするための場所もありました。そこで育つカブトムシの幼虫もいたのです。人とのゆるやかな共存の場がそこにはあったのでした。

人の手がはいらなくなった現在。林は足を踏み入れることができない状況となり、樹液も枯れたこともあって、その場所からクワガタは消えました。

私の中にある「クワガタ」の記憶。
再現のかなわない「あの夏の雑木林」。

忘れてしまわないように
このnoteに書き留めました。

みなさんのまわりに、クワガタのいる雑木林はありますか?



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