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美容室デビューは28歳だった。

小さなころ、髪を切るのがとてもイヤだった。

雰囲気がガラリと変わって、友だちから「あ!髪切ったんだ!」と言われるから。あ、こいつは自分の髪の毛、つまりは外見に対する興味関心がある人間なんだな、と思われるのが、なんだか恥ずかしかったから。

なので、高校卒業くらいまで、床屋にも美容室にも行ったことがなかった。代わりに、父や母、そして弟が、自宅で私の髪の毛を切ってくれた。

”バーバーイトー”へようこそ」

と母はニヤニヤ言って、準備にとりかかる。

お手製のゴミ袋をかぶって「じゃ、適当に切ってくれたもれ」と実家のリビングで私は言ってた。我が家にヘアカットのプロはいないから、きっと髪の毛はガッタガタ。

母はよく「シャギー入れる?」と聞いてきたが「シャギー」とはなんなのか、今でもナゾ。検索すれば出てくると思うが、わざわざ調べん。


▶︎髪型に関する考察はコチラがオススメ

〈引用〉
>いつも親に髪の毛を切ってもらっていた。親は美容師でもなんでもない。小学3年生の頃に堂本光一に憧れて、お父さんに頼んだことがあった。「光一くんみたいに切って」と頼むと…



大人になってからは、実家の誰かに切ってもらうわけにもいかないから、1,000円カットに行っていた。

「ねぇ、髪の毛ってどこで切ってる?」

という誰かの質問には、食い気味で、

「1,000円カット」

と答えていた。


俺は自分の髪の毛(外見)に興味はないよと印象付けたかったのだ。いま思えば、まったく意味が分からん。




「大人なら美容室行きなさいよ。
 人前に出る仕事してんだから」


と、言ったのは妻だ。



「だなぁ。でも美容室の選び方が分かんね」


と言ったら妻は、ホットペッパービューティーのアプリを起動して、自宅のすぐ近くの美容室を予約してくれた。28歳の時だから、今から4年近くも前のことになる。私は妻に質問した。


「え、美容師さんに『こんな髪型にしてください』って伝えるの? なに話せばいいの?」


「画像かなんか用意して、見せればいいの」


「え、画像? そしたら美容師さんから『うわ、こいつ吉沢亮みたいになりたいのか。全然顔違うのに』とか思われない?」

「思われない」


「うーん、そうなのか。そもそも、美容室にカランコロンカランって入って、何て言えばいいの?そこから分かんないんだけど」


「予約してた〇〇です、って言えばいいよ」


「うーーーん」


「じゃあ、あたしがついてくわ」


「おぉ! それは心強い!」


というわけで、28歳の私の美容室デビューの日、私の妻がセコンドについてくれることになった。当時は新婚だった。なんて心強いんだ。さすが妻。信頼と実績、そして安心の妻だ。





自宅近くの美容室に行った。2人で。

(カランコロンカラーン)

待っていた男性美容師さんが言う。

「いらっしゃいませ」

妻が言う。

「予約してた〇〇です」

私は後ろですまし顔。
美容師さんは言う。


「あっ、えーと…」


妻は毅然として言う。

「この人の髪を切っていただきたくて。髪の毛のイメージは、こうでこうで、ホニャララ〜」


美容師さんは言う。

「なるほど、なるほど」


私は思う。

(妻、すげぇ。百戦錬磨じゃん!)


妻は言う。

「じゃ、あとはお願いします。
 あたしはそこで待ってますので」

美容師さんは言う。

「…あ、ちなみにどういったご関係で?」

妻は言う。

「妻です」

私は思う。

(妻、すっげぇ〜)




なんかよく分かんなかったけど、まずシャンプーをされた。で、髪の毛を切ってもらう。美容師さんが話しかけてくる。


「奥様、すごいですねぇ」

「さすがですよね、この前結婚したんです」

「…いやぁ、すごいですねぇ」

何を「すごい」と言ってるのかは分からなかったけど、なんやかんやと数十分話してたら、髪の毛が切り終わった。美容師さんは言う。

「奥様にも、確認してもらいます?」

私は言う。

「えぇ、もちろんです」

で、呼ぶ。妻は店内で足を組んで、よく分からん雑誌を読んで待っていた。

「ねぇ、終わったよ」

「あ、終わった?」

で、美容師さんは言う。私そっちのけで。


「おそらく画像のとおりになってるかと思うのですが、奥様的にいかがでしょう?」



妻は私の頭を全方位から見て、
入念に確認する。

「そうですね、いい感じですね。
 ありがとうございます」

で、妻は私に確認する。

「どう?ここが気に入らないとか、ない?」


私は言う。

「うん、ない。いい感じ」

妻は言う。

「ならいいんじゃない?これで完璧だわ」



もしも、私が美容師さんなら首をかしげる。

この旦那さんは、奥さんのなんなのだ? 

どういう関係なんだ?

というか、なぜこいつは奥さん同伴で美容室に来てるんだ?

プロデューサーかなんかなのか?


お会計も妻にしてもらって、美容室を出た。


すぐ近くの自宅まで2人で歩きながら、
私のニュースタイルを見て、妻は言う。

「うん、髪の毛いい感じ!満足度はどう?」

「いやぁ、これはいいねぇ、新しい世界の扉を開いちゃった感があるわ。これはNEWワールド開いちゃったなぁ」

「美容室はどこでもこうだから。
 これでもう次からは1人で行けるでしょ?」

「…いやぁ、どうかなぁ」



……


その1ヶ月半後、同じ美容室の待合室で、
また妻は足を組んで待っていた。




今は1人で行っているし、美容師さんにも希望の髪型をオーダーできるようになった。美容室に行くといつも、鏡越しの美容師さんをまっすぐ見つめて、私はこう頼む。





「僕をBTSにしてください」


〈あとがき〉
先日、髪を切りました。そこでの美容師さんとの会話が少しおもしろくて、記事を書いていたのですが「そういや私の美容室デビューの日って、妻同伴だったな」と思い出し、このエピソードを書きました。いまだに美容室の予約は妻がやります。きっとこれくらいがちょうどいい気がしています。今日も最後までありがとうございました。

▶︎妻と私のエピソードならコチラがオススメ

〈引用〉
>妻には何か心の支えになるものがあってほしい。我を忘れるほど何かに没頭して、いつもニコニコしていてほしい。


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