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「3500円の幕の内弁当」にコピーライターはどんなキャッチコピーをつけるか?

▶︎まず最初に本編を読もう(約1900字)

たとえばスーパーの惣菜売り場に幕の内弁当がおいてあって、その値札に3,500円と書いてあったとする。

幕の内弁当が3,500円だった場合、私たちは「高い」と思うだろう。なぜ高いと感じるかといえば、私たちが幕の内弁当の価値を知っているからだ。通常、幕の内弁当の価格はせいぜい600〜1,200円くらいではないか。

では、この3,500円の幕の内弁当を安く感じてもらうにはどんなキャッチコピーをつければいいか。


これはどうだろう。


「これはさっきまで、綾瀬はるかが食べていたものです」


あるいは、


「大谷翔平選手が毎日食べているものと同じ食材が使われています」



途端に安く感じたのではないだろうか。

物の価値というのは、私たちが高校の政治経済などで学んだとおり、通常は需要と供給によって決まる。需要が多く、供給が少なければ価格は上がる。希少な宝石の価値が高いのはこれが理由だし、ガリガリ君が安いのは供給が多いから、つまり大量製造ができるからである。



物の価値をさらに上げるためには、背後に流れる「ストーリー」が肝になるケースが多い。誰が描いても同じはずのピカソとゴッホの絵画がなぜ億単位で取引されているか。


そこにストーリーがあるからだ。



コピーライターはストーリーを駆使する。

『トムソーヤの冒険』の作者マーク・トウェインは「数字は嘘をつかないが嘘つきは数字を使う」という言葉を残した。言い得て妙である。

同じように、広告に携わる人間たちは(嘘をついているわけではないが)「ストーリー」を巧みに使ってくる。

私たちホモ・サピエンスは、世界を理解しようとするときにストーリーを用いたがる。だからこそ太古の人々は一致団結するために共通のストーリーを持つ必要があった。それはつまり神話であり宗教である。日本で言えば古事記などがそれにあたるだろう。

広告業界の人間たちは、人間がそういうストーリで理解したがる特性をもつことを知っているのである。いけすかないことだと思う方もいるだろう。


ちなみに蛇足だが、ストーリーで理解したがる傾向は金融にも及ぶ。


わかりやすいのは「投資」だ。投資の世界にはやってはいけない手法として「シナリオベッティング」という言葉がある。要するに「風が吹けば桶屋が儲かる理論」だ。どういうことか簡単に説明しよう。


たとえば、
「東京オリンピックがあるから街の再開発が進む」
「再開発が進むということは建設業が忙しくなる」
「建設ラッシュが進むということは鉄鋼や輸送が必要になる」
「なので、鉄鋼業と輸送系に投資するとよいでしょう」

これである。そんなはずないのに。

つまり、私たちは不確実なものを追いかける際になぜか、データなどの数値よりもストーリーを重んじて拠り所としてしまう悲しき生き物であり、広告の人間はこれを巧みに使ってくる。


だから「ストーリー」はキャッチコピーを作る際に重要になる。要するに、その一文にどれだけのストーリーを付与できるか。いや、キャッチコピーを作成するにあたっては、もっと他の、たとえば、Who、What、Howだったり、インサイトの分析であったり、クリエイティブジャンプと呼ばれる思考の飛躍だったりが必要になるのだが、ここでは触れないでおこう。

(※)気になる方はAIによる最後のおまけを参照


それよりも、いかにストーリーを付与できるか、のほうが簡単に理解できる。実例をあげてみよう。なんらかのストーリーを感じる点に注目いただきたい。


たとえばJR東海の名作「そうだ、京都、行こう」だとか、


ドトールコーヒーの「がんばるひとの、がんばらない時間」とか、


旭化成ヘーベルハウスの「3階の娘の部屋は、会社より遠い」とか、


サントリーの「カンビールの空カンと破れた恋は、お近くの屑かごへ」とか、



花王メリットの「遠くまで行ってほしいし、ずっと近くにいてほしい」とか、


とか、とか、とかってもう、挙げだしたらキリがないわ。

いま挙げたもの、ぜんぶにストーリーを感じるわけだし、これらのキャッチコピーが作られるまでにはおそらく、いや確実に、広告制作の王道プロセスが踏襲されていると思われる。

といっても今あげたキャッチコピーはPRコピーであるから「物を販売する」というセールスコピーとは作り方が異なるのだけど。


この記事で何が言いたいかというと、

キャッチコピーを作り始めた人には「コピーを作るなら、ストーリーを想起させるものがいいかもよ」であり、

一般消費者には「ストーリーだけに騙されないでね」ということを言っておきたい。


私たちはストーリーにほだされるのである。


▶︎GPTによるおまけ

「3500円の幕の内弁当」にAIはどんなキャッチコピーをつけるか?


ちなみにこれをGPTくんにやらせてみた。

制作にあたっては、以下のような簡易なプロンプトを入力した。私も私でコピーライターを名乗っているのだが、仕事ではたいてい以下のようなプロセスで考えることが多い気がする。


【入力プロンプト】

あなたは我が国最高峰のコピーライターである。値段が3500円という「高額な幕の内弁当」に、販売促進のためのPR系キャッチコピーを作りたい。 制作にあたって、以下のようなプロセスを辿ってほしい。

<プロセス1>
まずは、この弁当のターゲット層を考える

<プロセス2>
ターゲットが日常で抱える課題と解決したい課題を考える

<プロセス3>
ターゲットがまだ気づいていないインサイトを考える

<プロセス4>
この弁当によってもたらされるメリットを考える

<プロセス5>
ターゲットの課題・インサイト・メリットの均衡点を探る

<プロセス6>
キャッチコピー作成にあたってはクリエイティブジャンプを使用すること。直接的に訴求するような安直で自己満足的なキャッチコピーをつくってはならない。


さぁ、こうすると生成されたキャッチコピーは2つ


ひとつめ。

「だれかのために働く日々に、あなたのためのひとくちを」



ふたつめ。

「このひとくちの向こう側に、忘れかけていた自分が待っている」



んー、悪くないっ! けど不採用! 


ま、AIですらストーリーを用いてくる、ということがよくご理解いただけただろう。


<あとがき>
ストーリー仕立てで語りましょうって、一過性のブームに終わるかなと思ったらそういうわけでもなく。おそらくキャッチコピーの普遍的な概念として使われ続けている手法であると思われます。世界には素晴らしいサービスがあって、それを世に広めるために頭のいい人たちが四苦八苦してるわけで、それに踊らされるのも悪いことじゃないんですよね。今日も最後までありがとうございました。

【関連】キャッチコピーの作り方はこちらも


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