【夏企画】汗が光る小説の書きかた
「汗が額からまぶたに流れ落ち、真珠のようにぶらさがる」
「包み紙の中でべたべたになる林檎糖のように汗をかく」
「ひたいにぷっぷっと汗が吹いている」
皆さんの小説に「汗」はありますか?
三浦しをんさんの「風が吹いている」横山秀夫さんの「クライマーズ・ハイ」など、印象的な小説は汗が光ってみえます。
それはなぜか。登場人物の心理を象徴的に表しているからです。小説とはドラマで、ドラマとはすなわち葛藤。懸命に生きる人間の肌から滴る汗には、言葉では表せないドラマがあります。
今回は夏っぽく、小説におけるさまざまな「汗」を取り上げ、その特徴と表現方法について紹介していきます!
恐怖の汗を書く
ホラー作品で読者に汗をかかせ、背筋が凍るような思いをさせるためには、読者を作品に引き込むことです。
恐怖の汗をかく場面は
・怪物に襲われる
・狂人に何かされる
・超常現象
と、主に3つ分類ができます。こういった場面は読者をひやっとさせ、首筋をピリつかせる効果があります。とはいえ、このような効果を狙うには準備が必要です。
そもそも恐怖とは「原因不明」から起こるものなので、ちゃっちゃと答えを見せてはいけません。
「出るぞ、出るぞ」と、いう雰囲気を出して、緊張感がマックスにまで達したときに謎が明らかになるように構成配分していきましょう。
本当っぽくなる3つの設定
ホラー作品は最初から嘘っぱちなため、一定の現実味がないと読者は恐怖を感じません。ホラーを本当っぽく見せる設定は3つあります。
⑴体験記
「本当にあった話です」という設定で、体験記風、手帳風に書く手法です。恐怖体験を告白するように一人称で物語が進みます。体験の中に実在するものを登場させると、より現実感ができます。例えば「リング」の「呪いのビデオ」みたいな、実在するものにホラー要素を加えるような形です。
⑵伝録・伝聞
「記録」は故人の日記や古文書に書いてあったという設定です。「伝聞」は都市伝説を指します。
「言い伝えによると……」
という設定です。こうすると作り話っぽさをなくせます。
⑶ドキュメンタリー
実録風に書く手法。日付を入れてドキュメンタリー風、ルポルタージュ風にするのも面白いです。記者が実際に取材したいという設定にし、体験記風とミックスさせる方法もあります。
恐怖の汗を書くコツと設定
ホラー作品で読者にイヤな汗をかかせるコツを紹介します。
⑴現実と地続きの部分を作る
「ホラーだからとりあえず幽霊だしときゃいいっしょ☆」といった安易な考えは危険です。残念ながら、それだけでは読者は怖がりません。非日常の中にも「ビデオを観たら呪われる」などの日常を入れ、誰にでも起こりうるシチュエーションを設定します。
⑵守るべきものを持たせる
夜一人で墓地に行くのは怖くなくても、子供など守るべき者と一緒にいると怖くなるという心理があります。逃げたくても逃げられない理由を作っておくと、主人公を追い込むことができ、ハラハラさせる展開ができます。
⑶設定自体が「恐怖」とする
言葉で怖がらせるのではなく、設定を工夫して怖がらせると恐怖が持続します。たとえばピエロや人形を出すとか。
人間は人の形をしていない怪物をそこまで怖がりませんが、人間の形をしていない人間ではないものを恐れる傾向にあります。なぜなら人に似た怪物というのは、自分たちにそっくりでありながら自分たちとは異なる存在、「完全な不完全」だからです。
緊張の汗を書く
「一歩間違えれば、一巻の終わり」「正体不明のものが襲ってくる」という緊張の汗、すなわち「サスペンスの汗」はまず、手のひらと足の裏などに少量でかきやすいです。また脇や額、背中などにかく場合もあり、こちらは量的に多い場合があります。
サスペンスを盛り上げる文章のコツ
緊張の汗は、精神的な刺激を受け、それをストレスと感じたときに出やすいです。具体的にいえば、危険にさらされているときです。
この危険には2種類あり、1つは「自分が危険なパターン」です。たとえば渓谷に架かる鉄橋を渡っていたら列車が来てしまったような状況です。
もう1つは「自分以外の誰かが危険なパターン」です。家族や恋人など、自分の大切な人が人質に取られているといった状況です。
こういった前提を踏まえた上で、サスペンスを盛り上げるコツを見ていきましょう!
⑴状況をわかりやすく
「どんな状況なのか」「何がどう怖いのか」の説明が下手でわかりにくいと、読者は文章を読み解くだけで疲れてしまいます。一目みただけでスッと意味が理解できる文章を書くように心がけましょう。
⑵オーバーに誇張して
「怖いよ怖いよ〜」と連呼しているだけではかえってシラけてしまいます。とはいえ、情景描写は少し誇張したほうが効果的です。たとえば実際は汗がにじむ程度であっても、「大量の汗が一気に噴き出た」と誇張するとスリル感が伝わります。
⑶心情は生々しく
「転落したら命はないだろう」と客観的に書かれるより、生の心情を書いて、「大腿筋が肩から突き出て即死だ」などど、書くと緊張感がでやすくなります。
ストレスによる3つの汗
サスペンスを上手く描くコツは断崖絶壁に吊り下げられたような状態を、継続的に作ることです。こうすると、読者は常に緊張した状態で、作品に没頭できます。
そんなサスペンスを彩る汗の描写にはさまざまな種類があります。
⑴精神性発汗
精神性の発汗は手のひらと足の裏にしかかきません。量は多くないですが、常に緊張している人物を描くなら、体質的に手汗が多い設定にしておくのも効果的です。
⑵精神的刺激による汗
精神性発汗とは別のストレス性の汗です。量はあまり多くないため、大量に汗をかかせるには温熱性の汗が出始める環境の中で、強いストレスが持続的に加わるように工夫すると、自然な描写になります。
⑶ホルモンに関連する汗
ホルモン分泌に関する汗です。脇や陰部、乳房などのアポクリン汗腺から出ます。そのため間接的ににじみ出る汗なので大量にかくような描写をすると医学的に間違いが生じます。実際に書く際は注意したほうが良さそうです。
恋愛の汗をかく
「恋愛ジャンルに汗って必要?」思ったそこのあなた!むしろ恋愛だからこそ、描写は重要になってきます。
なぜなら恋愛小説とは、感情が大きく揺れ動くジャンルだからです。人物が高揚したり、不安になったり、恥かしい思いをしたり……汗を書くシーンが豊富に存在します。
これを踏まえて、恋愛小説で汗を書くときは他の汗と同様に、汗が出る状況をしっかりと書くようにしましょう。
汗で恋愛の何を象徴させるか
恋愛における「汗」には、さまざまな種類があります。キャラクターの描写やシチュエーションに応じて、相応しいものを選んでいきましょう。
【不安感】
恋愛はときに不安な状況を作らせます。浮気の証拠を見つけたとき。こちらの気持ちとは裏腹に、相手が自分から離れようとしているときなど。ショックを受けたときは汗を感じる暇がないかもしれませんが、ひと段落すると汗が出始めます。
【期待感】
恋する気持ちが高ぶるのは、恋が始まりそうな期待を持てたときです。ふとしたときに手が触れる、なんとなく気持ちが伝わるなど、恋を予感させるシーンは胸のときめきと同時に汗が出てくるものです。ただ、この種の汗はストレスを感じるものではないため、汗の量はあまり多くないことに注意です。
【照れ】
恋愛には高揚感がつきものです。顔がほてるような照れと共に、羞恥の汗が出てきます。たとえば恥ずかしがり屋や照れ屋な登場人物は、異性が近くにいるだけで頬を染めてしまいます。他にも見られたくないところを見られたりしたときに、この種の汗が出てきてしまいます。
【一途さ】
恋愛の初期には相手を想うあまり、つい空回りしてしまうことがありますよね。「あふれる思いを伝えたい!……でも、傷つきたくない」相反する2つの気持ちがキャラクターを一生懸命にします。このような一途さを、汗で表現してみましょう。
恋愛小説の文章成功の法則
恋愛小説を書くには3つの「感」が重要となります!
【実感】
恋の期待感や高揚感などは、主人公の実感を書かないと伝わりにくいです。ただし「嬉しい」などの直接的な表現は避けるべきです。主人公の行動で示したり、人との会話で示したりするようにしましょう。
【共感】
恋愛の形は普遍的である必要はありません。空想の中なら不倫、略奪、歳の差、LGBTなんでもありです。主人公の思いやりや行動に、読者が共感できるかどうかが大切なので、設定や描写に説得力を持たせられるよう工夫しましょう。
【距離感】
自分の想いをある程度俯瞰して物語に落とし込めるのは、恋をしていない人だけです。そう考えると、恋愛に関してある程度離れた距離にいる人の方が、かえっていい作品が書けたります。
まとめ
✅恐怖とは「正体不明」から生まれるもの。
✅ホラー作品は設定に現実味を持たせるには、体験記や伝聞などが有効。
✅恐怖の汗は現実と地続きであったり守るべきものを持たせると生まれる。
✅サスペンスは自分が危険か、自分の大切な人が危険な場合盛り上がる。
✅サスペンスは、あえて誇張して描写すると、読者の想像力を刺激できる。
✅サスペンスは断崖絶壁にいる状況を、継続的に作るのがコツ。
✅恋愛は心が大きく揺れ動くジャンル。だからこそ汗の描写は重要になる。
✅汗を使うことで、「不安感」「期待感」「照れ」を表現できる。
✅恋愛小説では「実感」「共感」「期待感の3つ「感」が大事!
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